チャールズ・ブロンソン『正午から3時まで』はフレドリック・ブラウン的不条理映画

2017年08月16日 | 映画

 『正午から3時まで』は期待せず見たら、すこぶるおもしろい映画だった。

 ストーリを紹介すると、西部の強盗であるブロンソンが、銀行を襲撃する途中でアマンダという未亡人と出会うところから物語ははじまる。

 そこで「おお、ええ女みっけ!」と興奮したブロンソンは仲間を先に行かせ、自分はアマンダの家に残る。

 最初は牽制し合っていた二人だが、やがてブロンソン兄さんの魅力に押され、アマンダとブロンソンは抱き合って愛し合うことに。

 これにより愛に目覚めたブロンソンのアニキ、「いつまでもフラフラしちゃいられねえな」と、彼女に妊娠を告げられたヤンキーのように、カタギになろうと決意。

 ところが、そこに強盗仲間が襲撃に失敗し、縛り首になるという知らせが。

 もう足は洗うと決めアニキからすると、もうどうでもいいっちゃあいいわけだが、アマンダが

 「あんたも元ワルやったら、最後にカッコエエとこ見せたってよ!」

 というので、しぶしぶ助けに行くことに。

 女の前でイキった手前はあるが、気は進まないというブロンソンのアニキ。

 そこで、途中で出会ったおっさんを脅しつけて、服を奪って変装し、トンズラすることになる。おいおいちょっと待て、ヒドイぜ、アニキ!

 服を奪われた男は、よほど運のない星の元に生まれたのであろう、追っ手の保安官たちに「コラ! ワレ、その服はブロンソンやないんけ!」と詰め寄られ、あわれ射殺されてしまう。アーメン。

 これにシメシメとほくそえんだブロンソンだが、因果はめぐるというか、悪は栄えずというか、その射殺された不運な男は、なんとおたずね者の悪党だったのである。

 そやつの服を着ていたせいで、今度はそっちに間違われて逮捕されるアニキ、ちがうんや、これには深いわけがあって……。

 なんて説明できるはずもない。自分も銀行強盗の一味。誤解が解けたら、その場で再び逮捕されしばり首。

 こうして、「ちがうんやー」という訴えもむなしく、兄さんは哀れ刑務所送りに。悪いことはできませんなあ。

 これにショックを受けたのはアマンダ。彼女はチャールズ・ブロンソンという悪党と愛を交わしたということで、非常につらい立場に追いこまれたわけだ。

 が、そこは開き直って「でも、あたしたちは愛し合っていたのよ!」と、純愛を呼びかける。

 なんといっても、彼女はブロンソンは撃たれて死んだと思っている(ニセモノだけど)。つらい恋だ。これで、同情を引こうという作戦である。女は図太い。

 ところが、これにのせられる純というか、単純な男というのはいるもので、噂を聞きつけた作家が感動のあまり、このエピソードを本にしようとする。
 
 これに乗ったアマンダは、さっそく口述筆記を開始。ブロンソンとの甘い追憶をせっせと記していくのだが、なんとこの本がベストセラーになり、アマンダは一躍悲劇のヒロインとして大ブレイク。

 大金と名声が転がりこみ、なんと彼女の家も「チャールズ・ブロンソンとアマンダの家」と、アンネ・フランクの屋根裏部屋みたいに、観光名所になってしまうのだ。

 ムショの中でこれを読んだブロンソンのアニキは、出所後さっそくアマンダに会いに行く。

 あれだけ愛し合った男が、実は生きていたと知ったら、さぞ感激するやろうなあ、と胸をときめかせながら。

 ところがである、ブロンソンをむかえたアマンダは、彼に対してメチャクチャにそっけない。

 どころか、「あんただれや? こんなヘチャムクレのオッサン、見たことも聞いたこともないわ!」と、鼻であしらわれる始末。

 いや、違うんや、かくかくしかじかで、実は生きてたんやと、懸命に説明するアニキだが、アマンダはなかなか信じてくれようとしない。

 それはなぜなのかとカラクリを解くならば、実はアマンダはブロンソンとのことを本にするときに、自己陶酔と、ロマンスを信じ切った作家の情熱にのせられて、自分の記憶を豪快に美化していた。

 「悪漢チャールズ・ブロンソンは長身で超イケメンのスーパーモテ男。芸能人で言えば小栗旬くんタイプ。そんな彼と、ウチは世紀の大恋愛をしたんやで!」

 みたいなことを、もうフカしまくっていたのである。

 嗚呼、人が思い出を豪快にデコレーションしてしまうというのは、よくあることである。

 でもって、アマンダは自らがついたウソではあるが、何度も各地でエピソードトークを披露しているうちに、自分の中で、もうすべてが「本当のこと」になってしまったのである。

 偽記憶症候群というやつだが、まあそこは「信じたい」という願望も手伝ったのであろう。やっぱり女は図太いですなあ。

 なので、ちんちくりんでひげ面のオッサンが、「オレがあの時のハニーだよ」といってきても、

 「あたしのカレは旬くんよ! あんたみたいな、うーんマンダムなんて、どこの馬の骨のへーこいてプーやねん!」

 てなもんである。

 これには困り果てたアニキだが、ここで起死回生の一発をかまし事態を逆転させる。

 偽記憶にすがる女の目を覚まさせる、チャールズ・ブロンソンの「男らしすぎる方法」とはなにか。



 (続く→こちら)。



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