チャールズ・ブロンソン『正午から3時まで』はフレドリック・ブラウン的不条理映画 その2

2017年08月17日 | 映画

 前回(→こちら)の続き。

 土曜日の昼下がり、何気なくテレビで流れていた『正午から3時まで』が意外とおもしろかった。

 ムショ帰りで、元カノの家に勇んで戻ったにもかかわらず、アレコレとややこしいことがあった末に

 「アンタだれ?」

 ゴミでも見るような目であしらわれる、われらがチャールズ・ブロンソン。

 せっかくシャバに出て、これから二人で愛をはぐくもうかというのに、女の方は自分のウソから出た妄想にどっぷりとひたっているとは、どういうことか。

 ちがうんや、これこれしかじかでとねばり強く説得を続けると、やがて現実に引き戻されたアマンダは、「あー、そういえばアンタや」と、納得。そしてガックリ。

 なぜ本人だとわかったかといえば、決め手となったのは兄さんが

 「これ見たらわかるやろ」

 やおらズボンを引き下ろし、股間の「グレート・ジンバブエ」を披露したから。

 さすがは恋人というか、一度は愛し合ったもの同士、それを見たら間違えようもないわけで、

 「ああ、あんときの……」

 夢も覚めました。初恋の人には、再会してもええことないといいますが、どうも本当らしいです。

 が、とにもかくにも誤解が解けて、さあダーリン、ふたりで人生をやり直そうとよろこぶアニキだが、アマンダは

 「いや、それムリやから」

 とにべもない。

 なんでやねんというブロンソンのアニキだが、彼女に言わせると、自分はもう

 「超絶イケメンなワルと、悲しい恋をした悲劇のヒロイン」

 としてキャラも立っている、それでメシも食っている。

 そこにのこのこ元カレが戻ってきてはどっちらけどころか、さらにはそれが男前どころかチャールズ・ブロンソンであると世間にばれた日には、

 「全然聞いてたんとちゃうやんけ! 金と感動を返せ!」

 てなもんである。それは困りますなあ。ということで、

 「アンタはもう死んだんや、ウチの生活のため、おとなしゅう消えて」

 あわれ家を追い出されるブロンソンのアニキ。

 哀しい、哀しすぎる! それでもあきらめきれないアニキは、

 「オレは伝説の悪党、チャールズ・ブロンソンやぞ! ホンマは生きとったんや!」

 そう主張し街を練り歩くが、

 「オマエのどこがやねん!」

 「どう見てもニセモノやないか!」

 「そっくりさん芸人やったら、もうちょい似せる努力せえよ!」

 みなから嘲笑されるのだ。

 いやいや、ホンモノやのに! でもそれは仕方がないのだ。世間はチャールズ・ブロンソンといえば、アマンダの妄想本のせいで小栗旬のような、さわやか男子だと信じられてるのだ。

 いわばクラスのブサ……もとい美しさに不自由している女子生徒が突然、

 「あたしは吉岡里帆よ! あのどん兵衛のCMに出てるあれは、CGで作り出したニセモノなの! みんな、だまされないで!」

 とか言い出すようなもんで、そらそんなやつおったら怖いですわな。

 でもって、ラストではブロンソンのアニキはなんと

 「ベストセラーを読んで、その主人公が自分だと信じてしまった気ちがい」

 として、精神病院に送りこまれてしまうのだ。ホンモノやのに!

 しかも、そのときには、すでにアニキは本当に狂ってしまっていて、実際に「自分をベストセラーの主人公と信じている気ちがい」になっているというアクロバティックなオチ。

 もはやだれが本物で、だれが気ちがいかわからない。それで映画はお終い。うーん、これは……。

 かなり、おもろかったやん!

 B級西部劇と見せかけて、最後はフレドリック・ブラウンの『さあ、気ちがいになりなさい』のような狂ったラスト。

 テレビ大阪でブロンソンとあなどっていたら、意外と佳作で楽しめました。テレビで映画を観る楽しみは、まさにこういうところにありますねえ。

 後日、映画秘宝で東京12チャンネル(今のテレビ東京)でやっているB級映画を特集した『日常映画劇場』というムックを読んだとき、SF作家の山本弘さんが、この『正午から3時まで』を紹介する記事があった。

 山本さんもやはり、家で家事しながら何気なく見てたら、意外とおもしろくてラッキーとおっしゃっていたけど、たぶん同じ日の放送ちゃうかったんかなあ。

 シチュエーションもまんま同じで、ちょっとしたシンクロニティー。まさにブロンソン・マジックと言えよう。



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