平松伸二『ブラックエンジェルズ』並みな「ド外道」を探せ! 『シカゴ』のロキシー・ハート編

2020年01月15日 | 映画
「この世界に足りないのは、ド外道っスよ!」
 
 
 前回(→こちら)そんなことを言ったのは、後輩ハナタグチ君であった。
 
 彼は映画やマンガが好きなのだが、最近そこで出てくる悪者に不満があり、
 
 
 「頭脳明晰な殺人者」
 
 「完全なる悪」
 
 「弱者による世界への復讐」
 
 
 のような、人生哲学感情移入を誘発するヤツはアカンと。
 
 
「もっとシンプルに、平松伸二先生の『ブラックエンジェルズ』に出てくるような、心の底からブチ殺したくなる、わかりやすい悪がええんです」
 
 
 というのが彼の望みなのだ。
 
 
 
 
 
 ハナタグチ君の望むカタルシスはこれです
 
 
 
 
 
 
 そこで今回もステキなド外道についてだが、悪党は暴力的な男だけではなく、もちろんのことにもいる。
 
 西部劇のように拳銃を振りかざしたり、マフィアのように密輸や暗殺したりもしないが、知恵色気で周囲を惑わす悪女というのは存在感抜群だ。
 
 たとえば『シカゴ』に出てきたロキシーハート
 
 『シカゴ』といえば、ブロードウェイでも大ヒットしたミュージカルの映画版。
 
 ストーリーはスターを夢見るロキシーが、彼女をだまして、もて遊んだ男をカッとなって殺害するところからはじまる。
 当初は正当防衛を主張して罪を逃れようとしたロキシーだが、浮気の事実が夫にバレたことから断念。
 
 そこでリチャードギア演じる敏腕弁護士のビリーに助けを求め、彼と二人三脚。
 
 ロキシーを極刑にしようと奔走する検事や、一筋縄ではいかない刑務所長女囚相手に、あの手この手で無罪を勝ち取ろうとするが……。
 
 といったあらすじを見ればおわかりのように、この映画は登場人物が悪役ばかりで、彼ら彼女らがそのエゴをむき出しに、走り回るさまが楽しいコメディーだ。
 
 そんなナイスな小悪党たちの中でも、ひときわ光るのがロキシーの「やな女」ぶり。
 
 もともと、「そこそこにはかわいい」程度の容姿なうえに、歌もダンスも十人並みの彼女がスターうんぬんというのもドあつかましいが、それ以上に性根が腐りまくっているのがステキだ。
 
 
 
 
 
 
いい顔してます。
 
 
 
 
 そもそも殺人の動機も、「芸能界にコネがある」と男にだまされたことによる自業自得とも言えるものだし(「枕営業」ってやつですね)、旦那がお人好しで自分にべた惚れなのをいいことに、ふだんからバカにしまくっている。
 
 ビリーの策略によって、刑務所内で「悲劇のヒロイン」になれば、それにひたりきって、周囲の人間をアゴで使う。
 
 世間の同情をひくため「子供ができた」とウソを言い、反省どころか、
 
 
 「これを利用してスターになれる!」
 
 
 とか、ぬかりなく考える。
 
 あまつさえ、裁判でいい印象をあたえるため用意された衣装を、
 
 
 「こんなダサい服で写真に撮られたくない」
 
 
 そう拒否したうえ、「おい! オレは弁護のために、知恵しぼってこの服も選んどるねん!」とキレるビリーに、
 
 
 「ウチはスターなんやで? もっと態度をわきまえなあかんのとちゃう?」
 
 
 などと言い放って解雇するなど、もうやりたい放題。
 
殺人の重み? の意識? への贖罪?
 
知るかいな! そんなもん、どこの国のケチャップぬったアメリカンドッグやねん! と。
 
 もう、見ていてメチャクチャに腹が立つというか、上映中の2時間ずっと、
 
 「この女を高く吊るせ!」
 
 という気分にさせられるのだ。
 
 で、この映画のすごいのは、そうやってさんざん
 
 「このクソ女がいつ死刑になるか」
 
 という興味で引っ張っておきながら(←いや、とかダンスとかもあるだろ!)、最後の最後は彼女がハッピーになったことで、思わず祝福の拍手を送ってしまうこと。
 
 いやホント、その演出はすばらしいものがあった。途中、あんだけ
 
 「法が裁けないなら、オレが踏みこんで討つ!」
 
 な義憤に駆られていたのに、見事な大団円。
 
 マジで、最後のナンバーのあと、「やったぜロキシー!」って気分になるのだ。あれはやられました。 
 
 最初の1時間50分は、
 
 
 「この女、ぶっ殺す!」
 
 
 残りの3分が、
 
 
「ロキシー最高! アンタに心底惚れましたわ!」
 
 
 このギャップがたまらない。
 
 ふつうは、こんなヤな女が成功したら、モヤモヤしてカタルシスもなさそうなもんなのに。レネーゼルウィガー、すごいなあ。
 
 やはり男とちがって、女の悪役は魅力的でもないとあきません。
 
 だまされて、裏切られて、それでも懲りないわれわれ男子。
 
 バカで安っぽく、それでもたくましいロキシー・ハート嬢こそ、まさに最高のド外道女ですねえ。
 
 
 
 
 
 (松岡茉優編に続く→こちら
 
 
 

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