玉の早逃げ八手の得 山崎隆之vs先崎学 2011年 竜王戦

2021年02月15日 | 将棋・好手 妙手

 山崎隆之八段が、A級に昇級した。

 独創性あふれる山崎将棋のファンである私は、この結果に大いに浮かれて、

 

 「来年には山崎名人か。で、糸谷棋王とタイトル戦で【師弟対決】やな」

 

 なんてニヤニヤしている。

 なんという先走りと笑う向きもいるかもしれないが、本来なら山崎の才能は10年前、とっくに名人になっていても不思議ではなかったのだ。

 前回は山ちゃん、A級でもがんばれということで、新人王戦初優勝を遂げた一戦を紹介したが(→こちら)、今回も引き続きで魅力的な山崎将棋を。

 

 「玉の早逃げ八手の得」

 

 というのは、実に有用な格言である。

 実際のところ、8手も得することはないわけだけど、早逃げ自体、その意識があるだけで自陣の耐久力が相当変わってくるという、テクニックのひとつ。

 そもそも終盤は「一手違い」と言われるように、最後には本当に1手だけ稼げればいいわけで、を使わず受けることのできる強みもあり、タイミングをマスターすれば勝率アップは間違いなしなのだ。

 ということで、今回はそのお手本を見せてもらおうと、2011年の竜王戦。

 先崎学八段山崎隆之七段の一戦から。

 山崎といえば人マネを嫌う棋風で、駒組の段階から、たいてい見たことのない形になるが、この将棋も序盤から波乱含みで、盤上はこんな感じに。

 

 

 

 山崎得意の相掛かりから、後手の先崎が横歩を取って、気がついたらこんな大嵐。

 まだ39手目なのに、おたがい居玉ままができて、▲53(△57)に、と金もできそうとか。

 コント55号ではないが、「なんでそうなるの?」と言いたくなる大乱戦

 先手をもって生きた心地はしないが、後手も飛車角のみの攻めなのと、途中△52歩とあやまらなければならなかったり、ちょっと息切れしているよう。

 受けの強い山崎が、しのぎ切っていたようで、むかえたのがこの局面。

 

 

 

 △48竜までの一手スキになっているが、受けの強い人なら次の手は一目かもしれない。

 

 

 

 

 ▲28玉が、まさに「玉の早逃げ八手の得」。

 △48竜▲38銀くらいで、詰めろが続かない。

 先崎は△48金とさらにせまるが、すかさず▲18玉

 

 

 これで、やはり寄りはなく、ピッタリ受かっている。

 △39金くらいしかないが、▲28飛とガッチリ受けて後続はない。

 

 

 

 

 以下▲77馬から▲58角と、を詰まして先手勝ち。

 

 

 

 

 まるで作ったような手筋の連発で、あの危ない玉がスッスとふたつにすべっただけで安全になる、というが不思議なものだ。

 「玉が露出してからが強い」山崎隆之の、面目躍如ともいえる終盤戦であった。
 


 (脇謙二と米長邦雄の「人間らしい」終盤戦編に続く→こちら

 

 


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