山崎隆之八段が、A級に昇級した。
独創性あふれる山崎将棋のファンである私は、この結果に大いに浮かれて、
「来年には山崎名人か。で、糸谷棋王とタイトル戦で【師弟対決】やな」
なんてニヤニヤしている。
なんという先走りと笑う向きもいるかもしれないが、本来なら山崎の才能は10年前、とっくに名人になっていても不思議ではなかったのだ。
前回は山ちゃん、A級でもがんばれということで、新人王戦で初優勝を遂げた一戦を紹介したが(→こちら)、今回も引き続きで魅力的な山崎将棋を。
「玉の早逃げ八手の得」
というのは、実に有用な格言である。
実際のところ、8手も得することはないわけだけど、早逃げ自体、その意識があるだけで自陣の耐久力が相当変わってくるという、テクニックのひとつ。
そもそも終盤は「一手違い」と言われるように、最後には本当に1手だけ稼げればいいわけで、駒を使わず受けることのできる強みもあり、タイミングをマスターすれば勝率アップは間違いなしなのだ。
ということで、今回はそのお手本を見せてもらおうと、2011年の竜王戦。
先崎学八段と山崎隆之七段の一戦から。
山崎といえば人マネを嫌う棋風で、駒組の段階から、たいてい見たことのない形になるが、この将棋も序盤から波乱含みで、盤上はこんな感じに。
山崎得意の相掛かりから、後手の先崎が横歩を取って、気がついたらこんな大嵐。
まだ39手目なのに、おたがい居玉まま竜と馬ができて、▲53(△57)に、と金もできそうとか。
コント55号ではないが、「なんでそうなるの?」と言いたくなる大乱戦。
先手をもって生きた心地はしないが、後手も飛車角のみの攻めなのと、途中△52歩とあやまらなければならなかったり、ちょっと息切れしているよう。
受けの強い山崎が、しのぎ切っていたようで、むかえたのがこの局面。
△48竜までの一手スキになっているが、受けの強い人なら次の手は一目かもしれない。
▲28玉が、まさに「玉の早逃げ八手の得」。
△48竜は▲38銀くらいで、詰めろが続かない。
先崎は△48金とさらにせまるが、すかさず▲18玉。
これで、やはり寄りはなく、ピッタリ受かっている。
△39金くらいしかないが、▲28飛とガッチリ受けて後続はない。
以下▲77馬から▲58角と、竜を詰まして先手勝ち。
まるで作ったような手筋の連発で、あの危ない玉がスッスとふたつ横にすべっただけで安全になる、というが不思議なものだ。
「玉が露出してからが強い」山崎隆之の、面目躍如ともいえる終盤戦であった。
(脇謙二と米長邦雄の「人間らしい」終盤戦編に続く→こちら)