郷田真隆はなぜ、「ここ一番」という戦いを落としてしまうのか。
勝負の世界では、勝率は高く、仲間内からもその実力を認められていながら、なぜか思うような結果が出ない人というのがいる。
豊島将之九段は20歳でタイトル戦に登場しながら、実際に獲得するまで長い年月を必要とした。
A級棋士として活躍し、王座のタイトルも取ったことのある斎藤慎太郎八段は、14歳で三段になり、三段リーグでも毎年好成績を上げるも、卒業までに4年も費やしてしまった。
この手の「なぜ?」で昔から引っかかっているのが、郷田真隆九段のそれであり、この人はとにかく、挑戦者決定戦でよく負けている印象がある。
タイトル6期、優勝7回はこれだけ見ればすばらしい実績だが、郷田ほどの男にしては少ないというか、正直言わせてもらいたいが、全然物足りない数字。
デビュー初年度から挑戦者決定戦にバンバン進出しまくり、四段で王位を獲得など偉業を達成しているなどから、その2、3倍はあってもおかしくないわけで、データベースやウィキペディアを見るたびに、誤植を疑ってしまうクセが抜けないのだ。
そんな郷田は、いったい挑決でどれくらい苦戦しているのか。
私はデータを集めたりするのが苦手なので、イメージこそあれ具体的な数字はよくわからない。
ウィキペディアなどにも載っていないので、めんどうではあるが、ここに今回数えてみることにした。
アバウトな統計なので、間違っているところはあるだろうが、そういうときは鯖にでも当たったと思ってあきらめるのが吉であろう。
ではまず、竜王戦から。
郷田は意外なことに、竜王戦で挑戦者決定戦まで行ったことは1度しかない。
しかも2013年の第26期でのことで、四段デビューが1990年だから、ずいぶん経ってのことなのだ。
このときはNHK杯に初優勝するなど好調だったようだが、挑決では森内俊之名人に1勝2敗で敗れた。
それはまあ、勝負だから仕方ないにしろ、この年はこれにくわえて、棋聖戦で渡辺明竜王・棋王・王将に。
王座戦で中村太地六段にも、それぞれ挑決でやられており、これはなかなかにキツイ結果だ。
年に3回も挑戦者決定戦まで行くのはすごいが、そこで3回とも負けてしまうのはコタエるだろう。
図は竜王戦挑決、第3局の中盤戦。
▲86にいる飛車がスゴイ形で、△85銀とすれば取れそうだが、それには▲同飛、△同飛に▲64歩とするのが好手。
△同角は▲65歩と、角取りの先手で飛車の逃げる場所をつぶしてから、△28角成と逃げたところで▲86香と打てば取り返せる。
かといって、▲64歩に△82飛と先逃げしても、▲63歩成で、これもと金ができて先手が優勢だ。
そこで郷田は△85歩と打って、▲96飛に△28角成と押さえこみにかかるが、そこで▲94歩(!)が、また度肝を抜かれる構想。
△18馬に▲93銀と、なんとこっちから強引に突破して、先手が勝つのだった。
郷田と仲のいい先崎学九段は、たしか王位戦だったかで挑戦権を逃したときに、
「彼は昔から、ここ一番に弱かったですよ」
と言ったそうだが、郷田の不思議なところは、その理由がよくわからないこと。
勝負弱い人の定番である、メンタルに問題があるとも思えず、「フルえる」ことによって落としたところも、あまり見ないわけで、なんでやねんと首をひねることになるのだ。
☆竜王戦挑戦者決定戦 0勝1敗。
(続く)