迫撃! トリプルルッツ 久保利明vs羽生善治 2010年 第59期王将戦 第6局

2024年08月05日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 前回の続き。

 羽生善治王将(名人・棋聖・王座)に久保利明棋王が挑戦する、2010年の第59期王将戦七番勝負。

 久保が3勝2敗奪取に王手をかけて、むかえた第6局も、とうとう大詰めをむかえた。

  

 

 

 羽生が▲64角と王手して、久保玉を詰ましにかかったところ。

 ふつうは△73桂の合駒だが、それには▲同角成△同玉▲13竜

 久保はそこで△53角と打って不詰と読んでいたが、それは前回言った「絶品」の手順で詰まされる。

 土壇場で読み負けていた久保は追いつめられるが、ここで心を折らせずに立て直せたのが、この男のすごさ。

 バラバラに砕け散った読み筋を拾い集めて、再度、懸命に助かる道を探し続ける。

 そこでとうとう、今度は久保にとって奇跡的な手順が見つかったのだ。

 それが、桂ではなく△73銀合駒する形。

 

 

 

 ふつうは、こういう場面ではより、桂馬のような「安い駒」を使うのがセオリー。

 実際、接近戦ではカナ駒よりも、頭の丸いを渡したほうが、詰みにくく見えるものだ。

 それが盲点だった。

 ここではを渡してはいけない。渡すなら、銀一択だったのだ。

 終わったと思ったこの局面で、なんと羽生が長考に沈む。

 なにがあったのか?

 おそらくは読み抜けだ。

 羽生はその前の▲74桂3分▲64角ノータイムで指している。

 それを、ここで手が止まってしまうのは、明らかにおかしい。

 そして、羽生の苦慮は正しかった。この局面で、なんと久保玉には詰みがないのだ!

 ともかくも、先手は▲73同角成と取るしかない。

 △同玉で、▲13竜

 

 

 

 再び、久保が選択を強いられる番。

 なにを合駒する?

 

 

 

 △53銀と打つのが、唯一無二の正解

 ここをだと、▲同竜から追って、後手玉が△94に逃げたときに、▲86桂と打って詰む。 

 △53角は、やはり▲同竜△同金▲62角△82玉に、もらったで、▲73銀から押していけばいい。

 なので、ここはまたも銀一択

 銀合に▲同竜△同金▲62飛成は、△84玉▲86香に、△85角と打つのが、絶妙手詰まないのだ!

 

 

 ▲同香△94玉とかわして、▲85銀が打てないから詰まない。

 ここで先手にがあれば、△94玉▲86桂で詰むため、「桂合」は不許可だったのだ。

 そう、この将棋は最後まで、久保が勝つようにできていた。

 だがそれは、

 

 ▲64角に△73銀

 ▲13竜に△53銀

 ▲86香に△85角

 

 という、「これ一択」な限定合のタイトロープを、落ちることなく渡り切ってのこと。

 そんな、スーパー難度のウルトラCが前提にあった「勝ち」だったのだ。

 そんなモンスター級の難事を切り抜けて、やっと勝てるというのだから、久保の読みもすばらしいが、羽生を倒すことのむずかしさも、これでもかと伝わってくる。

 しかも、この「久保勝ち」も羽生の読み抜けがあったからこそで、本当に久保からすれば、ギリギリの戦いだった。

 とはいえ、もちろんここで、すべてを正確に対応できた久保もまたバケモノであり、それはどれだけ称賛しても、しすぎるということはない。

 以上の手順を見れば、羽生が▲58香ではなくを打ったのが、なんとなく理解できる。

 羽生のイメージでは、最後▲86香と打って仕上げる算段だったのだろうが、それは詰みがない。

 ▲86桂とせまる筋も消えているし、根本的に修正が必要だったのだ。

 正解は▲58香△59金▲63桂と捨てる攻めがあったとか。

 


 △同金▲75桂が詰めろになって、以下先手のラッシュが決まっていたという。

 だがそれは、先ほども言ったがあくまで結果論で、羽生は「詰む」と見越して桂を打ったのだから、そこは言ってもしょうがない。

 むしろやはり、かすかにの開いていた羽生の構想を見破り、それを超人的美技で根底からひっくり返した、久保の強さこそを、たたえるべきであろう。
 


(久保の芸術的さばきといえばこれ

(A級降級のピンチで見せた久保の名局はこちら) 

(その他の将棋記事はこちらから) 


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