団体戦はおもしろい!
という認識を再確認させてくれたのは、言うまでもなく、あの企画からである。
少し前の話になるが、アべマがやってた「フィッシャー・ルール」によるトーナメント戦は、おもしろかった。
最初はこのルールだと、終盤なんかはメチャクチャになってしまうのではと危惧したが、そこはさすがプロで、激しい競り合いが何度も見られて興奮したもの。
たしかに、精度の点などでは、持ち時間が長い対局と比べると話にならないだろうが、その分、時間がなくなったときのたたき合いは、まるで格闘技のような迫力。
棋士たちの息遣い、残り1秒のスリルと、パンパンというリズミカルなボタンの音。あれは将棋を知らない人でも、けっこう楽しめるのではないか。
そういえば、昔、先崎学九段のエッセイで、10分切れ負けのたたき合いを、将棋にくわしくないはずの女性が、食い入るように観戦していたという描写があったっけ。
個人的に印象的だったのが、序中盤での駆け引きで、挽回不可能な差がついてしまうケース。
時間もないし、対戦相手や先後がめまぐるしく入れ替わる戦いでは、入念な準備などできるはずもなく、どうしても突発的なワザやパンチが入りやすい。
将棋ファンからは、
「最近の将棋は序盤の研究が進みすぎて、つまらない」
なんて意見も昔からよく聞くが、現実問題として、ある程度の研究はしておかないと、あっという間に大差になってしまうこともあるのだなあと実感。
「均衡を保つ」というのが何気に、ものすごくむずかしく神経を使う作業であることが、よくわかるルールでした。
普段と違う将棋だからこそ、そんなところを再認識できたのも興味深い。
あと、これはやっぱり思ったけど、団体戦って楽しいんだよなあ。
私は昔から、エキシビションでいいから、団体戦をもっとプッシュしてほしいと思っていた。
テニスのデビスカップもそうだけど、個人競技の中の団体戦というのは、たしかにちょっと違和感もあるけど、それはそれで燃えるものなのだ。
昔、『将棋世界』で東西対抗の団体戦をやって、これが里見香奈倉敷藤花が、若手バリバリだった村山慈明五段に完勝したりとか。
勝負も最終の大将戦(久保利明棋王・王将と渡辺明竜王)まで突入したこともあって、熱くいい企画だったんだけど、その後のタッグマッチ「双龍戦」がイマイチだったせいか、次の展開はなかった。
このときも、関西では棋士たちにチーム感があって、かなり盛り上がったそうだけど(大将戦では「久保先生、勝ってくれ!」と祈る奨励会員もいたという)関東の方では、渡辺明名人や広瀬章人八段のように、
「関東は人数も多いし、仲のいい棋士はいても、チームの仲間という感じではない」
なんてクールな意見が多く、今回の企画も若手とチームリーダーの世代では、ちょっと温度差があったよう。
これには思わず松岡修造さんのように、
「もっと熱くなろうぜ!」
と訴えかけたくなったもの。
2009年から翌年にかけて『将棋世界』誌上で行われた、「東西対抗フレッシュ勝ち抜き戦」の最終局。
出場選手は西が豊島将之、里見香奈、稲葉陽、糸谷哲郎、山﨑隆之、久保利明。東は村山慈明、矢内理絵子、佐藤天彦、広瀬章人、阿久津主税、渡辺明の豪華版。
両チームゆずらずフルセットでの大将戦という、最高の盛り上がりを見せたが、図から▲64飛が気持ちのいい決め手。
△34の金取りと、▲61飛成の両ねらいがあるが、△同角は▲22角成で詰んでしまう。
以下、△25金に▲34飛で渡辺が投了し、西チームの勝利が決まった。
私自身、団体行動が苦手で、明らかに個人競技向けの人間なんだけど、だからこそ、あこがれがあるのだろう。
やっぱ、アベマ見てたら、団体戦はいいよ。もっと、やってほしい。
元旦にチーム渡辺とチーム佐藤康光でスピンオフ企画もやるそうだけど、すごい楽しみ。
テニスのレーバーカップや、自転車ロードレースのハンマー・シリーズのような、ふだんのツアーとは違う、独自のシステムで、どんどん将棋も見せ方の可能性を増やしてほしいものだ。