「おまえ、ハスラーだな! そうか……ハスラーだったのか……」
そんな、映画『ハスラー』の有名なセリフをマネしてみたくなったのは、クラブ合宿の夜であった。
高校生のころ某文化系クラブに在籍しており、そこでは夏になると合宿に行くというのが恒例行事だった。
うちは練習なども、結構しっかりやるタイプのクラブだったが、この合宿は完全に遊び。
海で遊んで昼寝して、陽が落ちればみんなで肝試し、花火にサバイバルゲームとか。
女子部員もたくさんいて、ふだんはイケてないボンクラ男子部員たちには、身に余るさわやかなイベントであった。
そんな中、もっとも盛り上がるイベントというのが、夜のゲーム大会。
部員が各組に分かれて「大富豪」「花札」「モンスターメーカー」(なつかしい!)「スピード」「インディアン・ポーカー」などなどで朝まで戦うのだ。
酒も煙草もなければ、ドラッグや不純異性交遊にも無縁という(当たり前だ)健全な場であったが、逆に言うとシラフだからこそ
「ガチの頭脳戦と心理戦」
を楽しめるともいえるわけで、勝てば「神の子」「皇帝」という待遇だが、負ければ「負け犬」「くそ虫」としてあつかわれるという、まさにプライドをかけた負けられない一戦なのである。
そんな私が、対決の場に選んだのが「ナポレオン」のテーブル。
「ナポレオン」とは「コントラクト・ブリッジ」に似たゲームだが、そのとき1位だったのが、ポコ先輩という人であった。
これがおどろきの結果で、部内が騒然となったのだが、その理由としてはポコ先輩がどう見ても「勝負師」タイプではないこと。
顔も体形も丸っこく、さらに丸眼鏡までかけているという、ゆるキャラみたいなひと。
将来は保母さんとか絵本作家とかになりそうなイメージで、どう考えても「ガチのゲーム大会で2位以下をぶっちぎる」人には見えないわけだ。
こういう感じの人
(写真は大阪府東大阪市石切のゆるキャラ『いしきりん』)
ところがこの人が、もうとんでもなく強かった。
なにがすごいって、その洞察力とポーカーフェイス。
この「ナポレオン」というゲームのキモは「副官」の存在にあり、親であるナポレオンはこの副官とともに、子である「連合軍」と戦うのだが、この副官がだれであるのかは、連合軍はおろかナポレオンにもわからない。
つまりはだれが味方で、だれが敵なのかわからないままゲームが進み、副官は連合軍には見破られないようにナポレオンをサポートしながら、どこで正体を現すかとか、そのかけ引きがメチャクチャにおもしろいのだが、これがポコ先輩にあうと、みなまるでかなわないのだ。
たとえば、ポコ先輩が「副官」になると、まず正体を見破れない。
いつもニコニコ。ゲームも「勝っても負けても、ウチはどっちでもええんよ」という空気感を出し、
「もー、先輩、やる気出してくださいよー」
なんて笑ってると、最後にしれっと「副官指令」のカードが飛び出してきて、のけぞることになる。
ええええ! アンタが副官やったんですかあああああ!!!!
とにかく、ずーっとニコニコフワフワしながら、まったく周囲に警戒心をあたえることなく、いつのまにか全員を裏切っている。下手すると、ナポレオンすら最後までダマしてしまうことも多々。
彼女の恐ろしさはこれだけではない。ナポレオンになったときも、どういうマジックかすぐさま「副官」がだれかを見破ってしまい、圧倒的有利にゲームをすすめる。
こっちの困惑をよそに、先輩はやはり絶好調で、彼女が敵に回るとまず勝ち目がない。
あまつさえ「ナポレオン兼副官」になったときには連合軍が、全部の札を取られてパーフェクトを喫するなど惨敗。ムチャクチャ強いがなァァァァァ!!!
こうして夏の夜のゲーム大会はポコ先輩の圧勝で幕を閉じたのだが、これが今でも謎なのが、
「ポコ先輩が本当に強いのか」どうか。
あんなニコニコと、なにも考えてなさそうな人が、こんな勝負に強いわけなさそうなんだけど、結果はぶっちぎりである。
でもそれは、ただのまぐれやビギナーズラックのようにも見え、それだってもしかしたら「巧妙なポーカーフェイス」やもしれず、けどそれってホンマなんかいななど、もう部員の解釈もバラバラ。
疑心暗鬼は深まり、今でもなにが真実なのかは闇の中。
ホント、どっちだったんだろう。いやマジで、今こそ再戦を申し込みたい。今度は絶対勝つッス。