西山朋佳三段のファンである。
前回は藤井猛九段の「華麗な」終盤戦を紹介したが(→こちら)今回は力強い中盤戦を。
「女王」のタイトルも持つ西山三段は私と同じ大阪出身。
その強さは噂には聞いていたが、実際にその将棋を観ると想像以上に好みの棋風で、いっぺんにファンになってしまった。
実戦で鍛えたその力強い将棋は、女流棋士などには、なかなかいないタイプ。
どちらかといえば、町の将棋道場にいる、メチャクチャ強いオッチャンみたいなのだ。
一目ぼれした将棋というのが、2014年のリコー杯女流王座戦五番勝負第1局。
加藤桃子女王との一戦。
角交換型の中飛車と左美濃の対抗形で、加藤女王が中央から仕掛けてこの局面。
飛車、銀、桂が総交換になる大さばきとなったが、後手は馬ができて、玉型もしっかりしている。
一方の先手は角が働いておらず、▲57の金も守りから離れて、馬で▲38の金をねらわれている形もイヤらしい。
少し後手が指しやすそうにも見えるが、ここからが「西山流」の腕の見せ所であった。
▲69飛と打つのが西山も、
「これで盛り返したと思った」
手ごたえを感じた手。
振り飛車党らしい、ねばり強い一着で、自陣への飛車の打ちこみを緩和しながら、馬にプレッシャーをかける。
攻め合いでは分が悪いと見て、局面のスピードダウンを図る実戦的な戦い方だ。
後手は△75馬とかわすが、すかさず▲66金とアタックをかけて、勝負勝負とせまる。
△53馬に▲55桂と打ったところで、△88飛と加藤も待望の反撃。
そこで西山は▲67飛と浮く。
一見、ねらいの見えにくい飛車浮きだが、これが西山流の勝負術だった。
ここからの手順が、すばらしい。
△24桂、▲56金、△35歩と筋よく攻めたてられたところで、▲68歩(!)。
飛車の横利きを止めて、これですぐには寄らない。
△36桂にも、▲18玉が銀冠の強みを生かした形で(端攻めに強く、▲38の金が浮き駒にならない)、これで結構耐えている。
後手は△89飛成と攻め筋を変えるが、これには▲59歩でまだまだ。
いやあ、この一連の手順には感嘆させられた。
▲69飛から▲67飛、そして2枚の歩の壁。
いわゆる「鍛えの入った手」であり、こういうのはやはり実戦経験が豊富で、力のある人じゃないと指せない。
これぞまさに、玄人の将棋や。トモちゃん、シビれるで!
将棋自体は、まだこれでも後手に分があったようで、終盤は加藤が一手勝ちをおさめたが、その存在感は大いにアピールできたことだろう。
この力強い将棋に、私はすっかり虜になってしまったのだった。
(続く→こちら)