「詰めろ逃れの詰めろ」を逃れろ! 佐々木勇気vs藤井聡太 2016年 岡崎将棋まつり

2024年10月04日 | 将棋・名局

 佐々木勇気八段が、竜王戦挑戦者になった。
 
 ということで、今回はタイトル保持者として待ち受ける藤井聡太竜王(名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)との将棋を紹介してみたい。
 
 この2人はNHK杯決勝や、アベマトーナメントなど目立つところで何度も戦っているが、中でももっとも熱い戦いは実はにある。
 
 それが、まだ藤井七冠が奨励会員時代非公式戦
 
 たぶん『将棋世界』で立ち読みかなんかして、佐々木の放った角成の好手と、と藤井タダ捨てする妙手が、印象に残っていたのだ。
 
 それを取り上げたいんだけど、解説してくれてる資料が見つからず、検討するのもめんどいなー。
 
 と放置していたのだが、佐々木勇気がついに爆発したとなれば、これはもう、一丁腕まくりするしかないのである。
 
 ということで、今回はもうすぐ開幕の竜王戦のオードブルに、こんなのをどうぞ。
 
 


 

 2016年岡崎将棋まつりの席上対局。
 
 佐々木勇気五段と、藤井聡太三段の一戦。
 
 藤井が先手で、オーソドックスな相矢倉から、激しい攻め合いになり、難解な終盤戦に突入する。


 
 

 

 
 現在、後手玉は▲34銀打詰めろになっている。
 
 佐々木からすれば、ここで先手玉を詰ますか、王手をかけながら、うまく詰めろをほどくなど、ワザを見せなければならない。
 
 ここから2人の若獅子が、手練れのパイロット同士が見せる空中戦ような、激烈な攻防戦をくり広げる。

 とりあえず、佐々木は△77とを取って王手するが、それにどう対処するべきか……。

 


 
 
 
 


 
 △77と▲97玉と逃げるのが、きわどい手。
 
 ▲同金△38飛王手▲35が抜ける。

 ▲同玉△37飛王手銀取りで、後手のねらいにハマりそうだが、これには▲47桂(!)の中合いがありそう。
 


 
 

 

 △同飛成▲88玉で、王手銀取りを解除するという仕組み。

 これで先手いけそうかな。オレって手が見えるなーと悦に入ってたら、そこから△77金▲同金△38竜と再度、王手銀取りをかける手とかもあって、むずかしそうか。

 まあ、これは私の妄想手順で、成立してるかは知らんけど、こういう派手な手がいろいろと埋まってそうな局面でもある。

 ただここは秒読みで、リスクが大きいと見たか逃げることを選択。

 このに逃げる形も、をボロッと取られながらの敗走でつらそうに見えるが、なにげに終盤の手筋でもある。

 △88銀△79角の効かない端玉は意外と捕まえづらいときがあり、若いころの中村修九段が得意としていたもの。
 
 どう見ても寄っている場面で、ヒョイとかわした手でまったく詰まないとか、手品のようなしのぎを得意としていた。

 今では「銀冠小部屋」など教科書にも載ってるが、その元祖は「受ける青春」だったのだ。
 
 さあ、今度は佐々木が選択する番。
 
 後手玉は相変わらず一手スキだが、先手玉に詰みはなく、▲35を抜く筋も回避されてしまった。
 
 並の手では、ここで後手の負けが決まるが、でも佐々木勇気が「並み」だなんて、だれが言った?

 

 

 

 

 △96歩と、まずは一回おうかがいを立てる。

 先手玉にせまるなら、まずはここからということで、これはとりあえずに追われれば、我々でも指すだろう。

 しかしだ、佐々木勇気ほどの男が、ここで「とりあえず王手」みたいなことはやらない。

 このには、おそろしいねらいが秘められており、▲同玉と取ると、すかさず△95香と走ってくる。

 ▲同玉、△85飛▲同玉△76角成▲84玉△82飛▲83合駒
 
 そこで、△75馬▲73玉△64馬ピッタリ詰むのだ。

 


 

 一瞬で、それを察知した藤井は▲96同銀と取る。

 浮き駒だったヒモをつけながら、玉もヘルメットをかぶって、一見効果がわかりにくいが、そこで△76角成が佐々木のねらっていた絶妙の攻防手。

 

 

 


 この△76角成は放っておくと、△85桂▲同銀△86金▲同歩△87飛以下の詰めろ
 
 また▲34銀打△22玉▲23金△31玉▲32金△同馬と取れるようにした攻防兼備。

 

 

 いわゆる「詰めろ逃れの詰めろ」なのだ。
 
 決まったかに見えたが、そこは相手が天下の藤井聡太ということ。

 並ではないという意味では、こっちも負けていないのだった。

 
 
 (続く
 
コメント
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