将棋 この絶妙手がすごい! 森内俊之四段vs谷川浩司名人 第7回全日本プロトーナメント決勝 その2

2019年01月27日 | 将棋・好手 妙手
 前回(→こちら)の続き。
 
 1988年度の全日本プロトーナメント決勝で相対する、谷川浩司名人森内俊之四段
 
 森内リードで終盤戦をむかえるが、谷川も次々と勝負手をくり出し、ただではやられない。 
 
 
 
 
 
 上図は谷川が△87飛成を作ったのを、森内が▲78金と打って、しかりつけたところ。 
 
 竜を逃げるのは勝ち目がないが、ここで後手はまたしても、ギリギリですごいワザをひねり出してくるのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 竜当たりにもかわまず、△67銀と再度ここに打ちこむのが、逆転の念をこめた渾身の一撃。
 
 ▲同金左△59竜と金をさらって、△78頭金で詰み。
 
 ▲同金右△59竜と取られ、▲69合駒△88金
 
 
 
 
 ▲同金に△69竜から△67竜の「一間竜」で詰み。
 
 ▲87金と要の竜を取るのも、△59竜から手順は長いが、比較的やさしい詰み。
 
 そう、秒読みの中放たれた、このアクロバティックな銀打ちは、処理を誤ると一撃でおしまいの、すごい時限爆弾だった。
 
 ただ、この絶体絶命に見えるこの局面、実を言うとすでにはっきりと、先手勝ちなのだ。
 
 ただしそれは、ここに埋まった3手1組の好手順を掘り当てることができてのこと。
 
 それ以外だと、「光速の寄せ」の刃が体にくいこむこととなるのだが、このとき森内はすでに1分将棋
 
 60秒未満の爆弾処理で、果たして正解を発見できるのか。
 
 みなさまも考えてみてください。ヒントはななめ駒じゃないと……。
 
 
 
 
 
 
 
 答えは▲77金打と受けること。
 
 と言っても、これだけではピンとこないところもあって、後手は△78銀不成と取って、再度△67金と打ちこむと、同じような形でまだ受かっていないように見える。
 
 
 
 
 
 
 だが、おどろいたことに、これですでに後手に勝ちがない状態になっているのだ。
 
 最初の図と比較してみよう。
 
 ちがうところは、要するに△67の駒が銀から金に代わったこと。
 
 いわゆる「金銀の両替」をしただけだ。
 
 ポイントは、それによって△76の地点から、後手の勢力が消えたこと。
 
 以下の手順を追えば、答は明白だ。
 
 今度は勇躍▲87金を取り、当然の△59竜に取れば頭金だから、▲88玉と逃げる。
 
 さらに△58竜と、2枚もボロっと取られて大ピンチのようだが、ひょいと▲97玉と、かわした図を見ていただきたい。
 
 
 
 
 
 この場面、もし後手の△67の駒がなら、△85桂と跳ぶ。
 
 ▲86玉に、△75金と強引に王手し、▲同歩△76金と打って先手玉は詰みなのだ。
 
 以下、バラして△78竜としてピッタリ。
 
 
 
 △67にある金を銀のまま進めると、△75金、▲同歩に△76金と打てる。
 ▲同金、△同銀成、▲同玉に△78竜の一間竜で詰み。
 
 
 
 どっこい、△67の駒がだと、△76へのななめ利きがないから、どうやっても詰みがない。
 
 △85桂▲86玉△75金に今度は▲同歩で、なんでもない。
 
 かが天地の差。まるでパズルのような手順ではないか。
 
 この将棋を観て、かつて三冠王にもなった、元名人の升田幸三九段は、
 
 

 「名人が四段に負けちゃいかん」

 

 
 と言い残したそうだが、それはちがうと思った。
 
 将棋界の大レジェンドに、私ごときがこんなことを言うのもはばかられるが、それでもやはり思うのだ。
 
 ちがうよ、升田先生、そうじゃない
 
 たしかに森内俊之はまだ四段だ。でもそれはただの四段ではない。段位なんて関係ない
 
 森内は、いやさ羽生は、佐藤康光は、郷田は、四段にして、いやそれどころか奨励会時代からすでに、タイトルホルダーと互角以上に戦う力を持っていたのだ。
 
 それを、段位などという「名誉職」みたいなもので計っても、意味がないのだ。
 
 それくらい、若いときから彼らの強さは際立っていた。それは、将棋の内容を見れば、明白ではないか。
 
 名人が四段に、負けてはいけないかもしれない。
 
 でも、私は谷川名人のことを、責める気にはなれない。
 
 谷川はその地位にふさわしい将棋を披露したが、このときは森内がそれを紙一重で上回った。
 
 名人とか四段とか関係なく、ただそれだけのことなのだから。
 
 
 
 (佐藤康光編に続く→こちら
 
 
 
 
 

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