「卒業できない!」とガバッと跳ね起きる 

2014年03月05日 | 時事ネタ
 卒業のシーズンといえば、「あの夢」を見るのがお約束である。

 灘高という超進学校で落ちこぼれた中島らもさんがよくネタにしていた、

 「テスト用紙を前に一問もわからなくて、『ダメだ卒業できない!』と泣きそうになったところで、汗びっしょりになって目が覚める」

 という、あの夢である。

 不肖この私、長いことこの悪夢の常連客であった。20代のころは週一回くらいのペースで見ていた。劣等生の定番「あるある」ネタである。

 なぜくだんの悪夢に悩まされるようになったのかといえば、これはもう高校生のころ、これでもかというくらいに勉強しなかったから。
 
 小学中学時代は優等生で、高校もそこそこの進学校と呼ばれるところに入学したのだが、そこで歩みが止まってしまった。

 別に反抗期とか「いい子」であることへの反動ではなく(反抗するほどいい子でもなかったしネ)、ただただゆるやかに、

 「勉強なんか、めんどくさいなあ」

 なんて、学校サボってゲーセンに行ったり街をふらついたり、部室で昼寝をしたりしていたら、あっという間に落ちこぼれたのだ。水は低きに流れる。

 そうして、見事学年最下位でフィニッシュするという偉業を成し遂げた男なので、この季節といえばあまり良い記憶がない。

 出席日数はギリギリ足りたのだが、成績の方が、特に理系科目は追試の嵐であった。

 そこで放課後、数学や物理の試験をハシゴしたわけだが、今日は東に明日は西、それこそ毎日のようにテストテストの忙しさで、まるで売れっ子アイドルのようであった。

 ギャラももらえず、まったく阿呆らしい。それだけでも大変だったのだが、さらなる試練は、追試の後かならずといっていいほど先生に呼び出されたことである。
 
 そこで先生は、

 「おい、○○(私の本名)、なんだこの答案は。ふざけているのか」。

 と、たいそうご立腹。

 それにはまっとうなわけがあり、さもあろう、私の出した答案用紙のほとんどが白紙答案だったからである。

 これは先生が怒るのも当然である。中には勘ぐって、

 「なんだこれは、偏差値教育打破という、お前なりのメッセージか。ストライキなのか」

 と、そこまで想像をたくましくする先生もいたくらいだが(考えすぎだよ!)、なんのことはない。問題文がまったく理解できなかっただけの話である。

 どの科目も、ダンケルクもかくやの敗走に次ぐ敗走であり、ちんぷんかんぷんなテスト用紙を前にして、頭の中では「またも負けたか第8連隊」という言葉がぐるぐると回る。

 そら、私だって天下御免の劣等生だが、卒業はしたい。けれど、暗記でなんとかごまかせる社会などならともかく、積み重ねが大事な理系科目で、いきなり追試といわれても、すぐに解けるようになるわけがない。

 もう、回答どころか、問題文自体が

 「なにをおっしゃっておりますんかいな」

 という状態である。そこには見栄も欲望も慢心も破戒も、そういった邪念というのはまったくなかった。ただ、ひたすらまっすぐに「一個も、わかりませんわ」ということ。

 誠心一途純粋無垢、これ以上ない正直な、まさに雪のように純白の堂々たる白紙答案である。

 そういえば、らもさんは神戸大学を受験したときに問題が一問も解けず、1限目を終えたところでさっさと帰ってしまったそうだ。

 だが、それだけというのも業腹なので、トイレの壁に

 「今日はこのくらいにしといたるわ」

 吉本新喜劇のギャグを書き残したそうだが、その気持ちは痛いほどわかる。

 追試、追試、白紙、白紙、先生には怒られ、ストライキと疑われ、気分は今日はこれくらいにしといたるわ。

 推薦入試でとっくに進路の決まった女の子なんかが、「卒業式、何を着ていこう」なんて楽しそうに話している横で、私は

 「追試の追試のそのまた追試」

 を受けるために、先生に怒鳴られながらレポートを書いていたのである。何回、敗者復活戦をやっておるのかと。

 それでもなんとかかけずり回って、卒業式への切符を手にしたのである。すべりこみセーフ。

 みなが打ち上げの計画なんぞ立てているときに、卒業式の一週間前まで、私は「自宅待機」だったのである。そこで「出席を許可する」の電話をいただいたときの、ホッとしたことといったら。

 そんな経験があるので、「あの夢」にはかなり長い間悩まされた。起きると、本当に安心します。

 すべては自業自得だったのだが、ではもう一度あのころに戻ったら、今度はマジメに出席するかと問うならば、それはどうだろう。

 だって、あの死ぬほど退屈な授業をマシンのように受けるだけよりも、サボってる方がよほど楽しかったものなあ。

 学校なんて卒業できればいいし、推薦入学しないなら成績なんてトップでもビリでもその後の人生に影響ないし、大学は自力で勉強しても受かるし、やっぱ同じように……。

 いやいや、よい子はマネしたらあきませんよ!



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