この時期になると思い出すのが、南海キャンディーズでひどい目にあった合コンであった。
もうすぐ、クリスマスである。
今はどうか知らないが私の若かりしころは、はじけたとはいえ、まだバブルの残り香がただよっていた時代。
なもんで師走と言えば男女とも、特に若い子の醸し出す空気は、ハッキリ二分されることとなり、ひとつは
「余裕しゃくしゃくな人」
もうひとつは
「冬なのに、額に汗しながら走り回っている人」
いうまでもなく、イブを一緒に過ごす相手が、いるかどうかということだ。
当時はテレビや雑誌などで、
「クリスマスを一人ですごすヤツは、一生地べたをはいつくばって生きる、昆虫以下の生物。マジ、自殺以外に道ない(笑)」
などと、ここは本当に先進国かと疑いたくなるような精神的カツアゲ(本当に、雑誌とかにそんな記事が載っていた)が横行しており、みななんとか「二等国民」の座から、のがれようと懸命だったのだ。
となると12月ともなれば各所で飲み会や、合コンなどが開かれることとなる。
なんといっても「締め切り」は間近。みな生き残るために必死なのだ。
これは忘れっぽい私には、めずらしく年度が特定できるが、2004年のこと。
ひょんなことから、後輩オウギマチ君にそういった「出会い系パーティー」に誘われることとなった。
出会い系パーティー。
そんなもんノリの悪い私は、ふだんなら見る聞くなしに断るところだが、オウギマチ君は、
「先輩、お願いします。オレ、クリスマス一人ですごすのはイヤなんス」
そのまま土下座せんばかりの勢いで、
「まだ24日まで時間あるから、なんとかしたいんス。だから一緒に行ってください」。
などと懇願するのであった。
うーん、そういわれてもなあ。
だったらもっと、そういうイベントになれた明るいヤツでも連れて行けよと思ったが、後輩によるとそういう連中はとっくに相手を「キープ」済みで、お呼び出ないと。
さらには、あまり手慣れた男を連れて行って、せっかく目を付けた女の子を「トンビに油揚げ」と、目の前でさらわれるリスクも避けたい。
そこで、同じモテな……世間の流行に安易に迎合しない硬派な男であり、一緒にいても自分よりもモテることなどありえないという私に、白羽の矢が立ったわけだ。
「飲み会には、絶対に自分より不美人な子を連れてくるかわい子ちゃん」
と同じ思想であり、まあこういうのは男女を問わず、やることは変わらないらしい……て、おいおい、だれが安パイやねん。
ずいぶんとナメられたもんであるが、まあこっちもヒマと言えばヒマだし、なによりクリスマス前の駆けこみ合コンというのに好奇心がわかないこともない。
そこで半分「潜入取材」のようなノリで行くことにしたわけだが、もちろん私にだって行ってみればなにか、ステキにハレンチなイベントなど待っているやも知れぬ。
なんといっても、おそらくは東部戦線のドイツ軍よりも必死なオウギマチ君とちがって、こっちは完全に冷やかし。
失うものなどなく、いわば「負けてもともと、勝ったらもうけ」という気楽すぎる戦いなのだ。
思えば、大学受験も資格試験も、こういうアバウトなノリでクリアしてきたもので、私は「消化試合」でこそ力を発揮できるタイプなのだ。
これはもしや、オウギマチ君以上にワンチャンあんじゃね?
よし、ここはいっちょう、後輩の尻馬に乗ってみよう。聖夜の桃色遊戯にそなえて、すてきな彼女をゲットとしゃれこむぜ!
もしかしたら、自分一人だけ「このあと、二人で抜けない?」なんて展開も考えられ、もちろんそのあかつきには、フルスロットルで仲間を裏切る覚悟はできている。
ここに「ザンダクロス作戦」と命名された任務により、われわれクリスマス遊撃隊「ヴェアヴォルフ(人狼)」は勇躍、大阪は難波の街に出撃することとなったのだった。
(続く)