「村山慈明は、なにをやってるねん!」
というのは、ここ10年くらい、ずっと心に引っかかっていることである。
前回は羽生善治九段が見せた、不思議な香使いを紹介したが(→こちら)、今回は奮起をうながしたい中堅棋士のおはなし。
村山慈明七段といえば若手時代から、いや奨励会のころからすでに大器の誉れ高く、未来のA級タイトル候補のひとりであった。
デビュー後も新人王戦では、決勝で中村亮介四段を破って優勝。
勝率一位賞と、将棋大賞の新人賞も獲得など、期待に応える活躍を見せる。
そのころの村山の熱局といえば、有名なのがこれだろう。
2007年のC級2組順位戦、高崎一生四段との一戦。
高崎の向かい飛車に、村山は左美濃。
振り飛車のさばきが成功して、高崎が指せそうに見えたが、先手もゆがんだ形からくずれず、決め手をあたえない。
むかえたこの局面。
△69角以下の一手スキがかかっており、受けがなさそうに見えるが、ここで手筋が飛び出す。
▲69金と打つのが、しのぎのテクニック。
金(成駒)を一段目に引きずり降ろして、威力を弱める一打。
角打ちのスペースも埋めつぶして、これで少し手数が伸びる形。
後手は△97歩成として、▲同玉、△93香。
▲96銀と使わせてから(▲96歩は二歩)△69成桂と取るが、▲91歩成、△同玉、▲94歩と止める。
△79成桂、▲88香、△94香、▲同角、△78角、▲87香打で、わけがわからない激戦は続く。
そこから十数手進んで、この局面。
先手は△87馬からの、簡単な詰めろだが、受ける手もむずかしい。
桂馬があれば、▲79桂や▲99桂の犠打が手筋だが、それもかなわないうえに、後手玉には詰みもない。
となれば後手が勝ちかと思いきや、ここで村山が見事な一撃を決めるのだ。
▲84銀と出るのが、あざやかな帽子飛ばし。
△87馬からの詰みを消しながら、▲92金からの一手スキになっているという、
「詰めろのがれの詰めろ」
△84同歩には、▲61飛成と取って勝ち。
仲の良い渡辺明竜王からは、
「この局面になれば、だれでも指すでしょう」
という辛口なコメントもいただいたそうだが、いやいや激戦の最中、ここに指が行くのは、すごいのではないか。
こんな将棋を見せられては、
「こりゃ、期待できる若手が出てきたもんや」
ホクホク顔になるところ。
「ポスト羽生世代」
このひとりに、村山入閣は決まりやなと注目していたのだが、ここで少々きびしいことをいえば、今の成績には、かなり物足りないものはある。
NHK杯優勝に、朝日杯でも決勝進出(八代弥五段に敗れて準優勝)など大きなところで結果は残しているが、挑戦者決定戦で2度敗れるなど、いまだタイトル戦登場はない。
また順位戦ではB級1組まで上り、そのままA級は間近と思われたが、昇級どころか2年目で、まさかのB2降級の憂き目にあう。
私の予定では今ごろA級の常連で、渡辺明名人や佐藤天彦九段らとタイトル戦で、バリバリやりあっているはずだったのだから(あと戸辺誠七段もなにをモタモタしてるのか……)、
「ジメイ君、話がちがうよ!」
将棋ファンとしては、そう言いたくもなるのである。
村山がタイトル戦に出ていないのは、羽生世代と渡辺明にくわえて、深浦康市、久保利明、木村一基といったところが、壁となっていた時代が長かったせいだが、そこを突破できる力はある男のはず。
人当たりの良さに加え、今では関西にもなじんで、応援したい棋士のひとりだ。
好漢の、巻き返しに期待したい。
(村山慈明と羽生善治の熱戦は→こちら)
(村山が喰らった「幻の妙手」は→こちら)
(村山のさらなる絶妙手は→こちら)