9度目の正直 伊藤沙恵vs里見香奈 2017年 第28期女流王位戦 第4局

2022年02月25日 | 女流棋士

 伊藤沙恵女流名人が誕生した。

 これまで8度、タイトルに挑戦しながら、いずれも惜しいところで敗れてきた伊藤だったが、9度目の挑戦にして、宿敵である里見香奈3勝1敗で勝利。

 ついに、念願の初タイトル獲得に成功したのだった。

 その独特が過ぎる将棋に惚れ、さえぴーファンを公言する私としては、とてもよろこばしい結果。

 またそうでなくとも、実力のある者が、それに見合う対価を得ていないというのは、なんとなくモヤモヤするもので(だから稲葉陽も早くタイトルを取るのがいいぞ)、その意味でも、よかったんではないかと。

 まあ、私は里見ファンでもあるというか、西山朋佳さんとか、加藤桃子さんとか。

 今、第一線で活躍している女流トップはだいたい応援してるので、だれが勝っても、うれしさと複雑さが同居してしまうのだが、今回ばかりは

 「さえぴーに勝たせてあげて!」

 判官びいきバリバリでした(里見さんゴメンね)。

 実を言えば、シリーズ開幕前、さえぴーの名局を紹介して(→こちら)、「今回こそ」と気合も入れた私は、もしこの度、見事に女流名人を取ることができたなら、彼女の将棋を紹介しようと、温めていた一局があった。

 そこで今回は、それを見ていただきたい。

 そのため、観戦記の載っている『将棋世界』もちゃんと買い直してきたくらいだから、我ながらファンの鏡であるなあ。

 
 2017年の第28期女流王位戦

 里見香奈女流王位と、伊藤沙恵女流三段の5番勝負は大激戦となった。

 おたがいに先手番を取り合って、里見の2勝1敗でむかえた第4局

 カド番の伊藤だが、臆することなく自分の個性をつらぬく将棋で、序盤からおもしろい展開になっていく。

 

 

 駒組の段階から、3筋に勢力を築こうとした里見に対して、▲26銀とぶつけていくのが伊藤流の将棋。

 ふつうなら、攻めの銀と守りの銀の交換は、攻撃側としたものだが、この場合は後手の△36歩を伸び切っているととらえ、それを負担にさせようという意図。

 また、△34に浮いている飛車も、先手の金銀に近くてアタリが強く、それはしばらく進んだこの図を見れば、伝わってくる。

 

 ▲37歩と合わせるのが、力強い手。

 △同歩成なら、▲同金上として、そのままカナ駒のタックルで攻め駒を責めまくろうと。

 


 「相手の攻撃陣を金銀で押し込み、グシャッとつぶれるのが快感」


 

 
 という、ほんわかした雰囲気に似合わぬ、Sっ気丸出しの棋風が、早くも垣間見えるところである。

 このまま挽肉にされてはかなわんと、里見は△13角と活用し、▲36銀△46銀と切りこむが、そこで▲58玉が、またも伊藤流の玉さばき。

 

 

 「出雲のイナズマ」のアタックを、眉間で受けようというのだから、なんとも根性のすわった話ではないか。

 なんだか、木村一基九段とか、山崎隆之八段の陣形みたいだが、そう考えると、さえぴーの将棋はもっと人気が出る余地はある。

 ここからは中盤のねじり合いタイムで、△45歩▲48金引△42金▲65歩と、押したり引いたりがはじまる。

 里見の攻め方がうまく、伊藤も苦しいと見ていたが、駒損を恐れない踏みこみの良さなども発揮し、簡単にはくずれない。

 

 

        

 図は後手が、△36歩と取りこんだところだが、これが里見の悔やんだ手。

 歩を補充しながら、△26角の突破を見た手で、むしろ好手に見えるが、次の手を軽視していた。

 

 

 

 

 

 ▲64歩と突くのが、ぜひ指に、おぼえさせておきたい、味の良い突き出し。

 △同歩は飛車の横利きが止まり、▲84歩の攻めをふくみに▲36金と取っておいて、これは先手も充分。

 実戦は思い切って△64同角と取り、▲84歩、△同歩、▲64銀に△同飛と▲67の地点をねらって転換するが、そこで▲65歩、△同飛、▲56角が、強烈な切り返し。

 

 

 飛車取りの先手で、▲67の地点もカバーしつつ、8筋への攻めにも利いている。

 △64飛と逃げるが、▲75銀とさらにカブせ、飛車を逃げ回っているようだと、▲84銀と、今度は玉頭からブルドーザーが押し寄せ受けがない。

 このあたり、まだむずかしいながら、

 


 伊藤「ここでは盛り返したはず」

 里見「自信がなくなった」


 

 流れが変わったことに対しては、両者の見解が一致

 そこから、5筋、6筋で駒が交錯して、この局面。

 

 先手陣もうすいが、後手玉も▲83歩のタタキがあって、相当に危ない形。

 攻めるか、それとも一回受けに回るか。

 悩ましいところだが、ここで伊藤が選んだ手順が、その後の波乱を呼ぶことになるのである。

 

 (続く→こちら

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「銀が泣いている」からの平... | トップ | 歌おう、感電するほどの喜び... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。