入玉とB面攻撃 丸山忠久vs有森浩三 1992年 第50期C級2組順位戦

2023年12月10日 | 将棋・好手 妙手

 「攻め駒を責める」手というのがある。

 相手の玉を直接ねらうよりも、大駒などにプレッシャーをかけて側面からせまるという戦い方で、

 

 「B面攻撃」

 「駒のマッサージ」

 

 なんて呼ばれたりするが、この攻撃といえば、はずせないのが丸山忠久九段だ。

 先日、通算1000勝を達成されていたが、若手時代の勝ち方はこんな感じでした。

 

 1992年、第50期C級2組順位戦

 有森浩三六段丸山忠久四段の一戦。

 最終戦で組まれていた実力者同士の戦いは、ここまで1敗の丸山が、勝てばC1昇級が決まるという大一番になる。

 一方の有森は9連勝で、すでに昇級を決め消化試合

 もし有森が途中で1敗でもしていたら、この最終戦が「昇級決定戦」の鬼勝負になっていたのだから、丸山からすればかなりラッキーな展開と言える状況。

 とはいえ低段時代から難関の王将リーグや、十段リーグにも入った経験もある有森はそもそもが超強敵であり、しかもそれがプレッシャーのない状態で戦ってくるとあって、そう簡単でもないと思われたが、この将棋がすごかったのだ。

 後手になった丸山が矢倉中飛車を選択すると、有森も中央から積極的にをぶつけて、戦いがはじまる。

 むかえた、この局面。

 

 

 先手の有森が、▲55銀と打ったところ。

 後手がやや駒得だが、先手も中央の厚みで勝負して、もたもたしていると押さえこんでやろうと、ねらっている。

 どう手を作っていくのか注目だが、ここで丸山は独特としか、いいようのない感性を見せるのだ。

 

 

 

 

 

 

 △39銀と打つのが、若手時代のマルちゃん流。

 面妖な手だが、これは先手の飛車の行き場所によって、使用法を限定させようというねらい。

 ▲26飛なら横利きが、▲58飛なら2筋からの攻めが消え、プラスであると。

 ▲38飛を取りに行っても、△48銀打とされて、△55角ともう一枚を取ってから、△27銀とか△49銀打とか、強引に飛車を詰ます筋がある。

 有森は▲58飛の利きをキープしたが、この次がまたすごい手だった。

 

 

 

 

 △48銀打が、見たこともない手。

 とにかく徹底的に先手の飛車を、封じようようという意図である。

 まあ、それはわかるけど、もし失敗したら2枚の銀が、まったくの「スカタン」になる可能性も高く、相当にリスクがありそうだ。

 いやこれ、盤面を反転して丸山側から見ると、とんでもなく打ちにくい銀であることが、よりよくわかります。

 その通り、有森は▲46角と軽くかわして、2枚銀の圧迫から大駒を楽にしようとするが、そこで△13角とぶつけていく。

 ▲同角成△同桂で、後手はを持てば、△49角などきびしいねらいがあるから、指せるというのが丸山の読みだ。

 

 

 

 そうはいっても2枚のと、△13に跳ねたも変な形で、いかにも異能な将棋である。

 また解説によれば、これら一連の手順は当時、丸山が得意としていた入玉も視野に入ったものとか。

 将来、上部に脱出する展開になれば、敵陣にある2枚が、先発の落下傘部隊として、大将をあらかじめ護衛しているという算段なのだ。

 なんかすごいというか、解説者もあきれていたほどだが、こういう指し方で勝つのが、このころのマルちゃんだった。

 以下、▲73角の反撃に、一回△31玉と寄るのが見習いたい呼吸。

 ▲91角成に、△76歩と取って、▲66金上△77歩成▲同金に待望の△49角

 

 

 

 ここから後手は、執拗に先手の飛車をいじめにかかる。

 そうなると、

 

 「玉飛接近すべからず」

 

 の格言通り、同時に先手玉攻略にもなっているのだから、有森からすれば完全に足を取られた格好だ。

 以下、と金飛車をボロっと取って、丸山が勝勢を築く。

 これで1敗を守った丸山が、見事C級1組への昇級を決めたのだった。

 


(丸山が名人戦で見せた熱闘はこちら

(島朗の見せたB面の銀打はこちら

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