将棋 この絶妙手がすごい! 第31期王位戦 谷川浩司王位vs佐藤康光五段

2019年01月17日 | 将棋・好手 妙手
 将棋の妙手というのは美しい。
 
 前回(→こちら)は羽生善治九段が若手時代に見せた、すばらしい受けを紹介したが、妙手の芸術性を語るなら、この人のことははずせまい。
 
 そう、谷川浩司九段だ。
 
 谷川といえば、「光速の寄せ」が売り物であり、その伝説的妙手の数々は、多すぎて紹介するほうが困るほどである。
 
 その中から今回選んだのが、1990年の第31期王位戦七番勝負。
 
 時の王位であった谷川浩司は、佐藤康光五段の挑戦を受けることとなる。
 
 前回の羽生と同じく、佐藤康光も「五段」とはいえ、こんなものはなんの足しにもならない情報であり(はっきりいって将棋も囲碁も、段位と実力はあんまり関係ないのです)、すでに周囲からAクラス級の実力を認められている大強敵だ。
 
 実際、「緻密流」と呼ばれる佐藤は健闘を見せ、フルセットにもつれこみ、勝負は最終局に。
 
 先手番になった佐藤は、矢倉模様から果敢に仕掛けていく。
 
 そのまま優勢を築くが、そこから谷川にうまくいなされて反撃を食らってしまう。
  
 むかえた最終盤。
 
 
 
 
  ここではすでに、後手優勢になっている。
 
 と言っても、それを見切っていたのは対局者である谷川だけで、控室の検討では、攻めをどうつなげるか、むずかしいといわれていた。
 
 △76桂と取る手が見えるが、手順に▲61飛成と入られるのもイヤらしい。
 
 合駒で△41香と、貴重な攻め駒を使わされるのも、いかにもシャクではないか。
 
 天下の谷川浩司が、そんな平凡な手で満足できるわけがない。
 
 ここで見せたのが、本人も自賛し佐藤も
 
 
 「神がかり的」
 
 
 と認めた、カッコよすぎる一着だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ドーンと△95飛と突っこむのが、まさに谷川「前進流」の面目躍如。
 
 飛車と香の配置が逆なら、だれでも指すが、大駒から行くダイビングヘッドこそが、谷川浩司の終盤だ。
 
 しかもこれが、ただ攻めるだけでなく、攻防兼備の一手。
 
 先手の切り札である▲61飛成には、補充した一歩があって、△41に打つ底歩がピッタリなのだ。
 
 これで後手玉は鉄壁になり、あとは攻めだけに専念できる。
 
 一見派手なようで、実は「緻密流」のお株をうばう、精密な計算がそこにはあったのだ。
 
 ここからも谷川は
 
 「これで本当に攻めきれるのか?」
 
 という懸念の声もなんのそので、あざやかな連続攻撃を次々とくり出していく。
 
 手順だけ書けば(飛ばしていただいて全然かまいません)、△95飛に以下、▲61飛成、△41歩、▲95銀、△同香、▲89玉、△76桂、▲95馬、△97銀、▲77銀、△57角、▲98歩、△88香、▲同銀、△同銀成、▲同金。
 
 
 
 
 収束も見事だった。
 
 次の一手で佐藤が投了
 
 
 
 
 
 
 
 △97銀がきれいな捨駒。
 
 退路封鎖の手筋で、▲同歩の一手に、△79金、▲98玉、△88桂成、▲同玉、△78金打
 
 
 
 
 ここで▲97逃げられないのが、銀捨ての効果。
 
 ▲98玉△89金寄まで、持ち駒ひとつ余らないきれいな必至
 
 ▲96歩と突いても、△79角成までピッタリの受けなしだ。 
 
 並べてみると、ずいぶんと簡単に攻略しているようだが、そうではない。
 
 将棋の強い人の終盤は、
 
 「むずかしく見える局面を、あっさりと勝ってしまう」
 
 という特徴がある。
 
 よく、動画サイトにある「TAS」動画などで、
 
 
 「本当は激ムズのゲームなのに、TASさんだと簡単に見えて困るな(苦笑)」
 
 
 なんてコメントが流れることがあるが、そう、谷川浩司の「光速の寄せ」とは、将棋における「TAS動画」なのだ。
 
 すごすぎて感激、てゆうか、もはや笑える。まさにこの終盤戦も、あの佐藤康光が「止まって見える」ほどの破壊力なのだ。
 
 多くの棋士が、
 
 
 「頭を割って、中を直接のぞいてみたい」
 
 
 とまで感嘆した、谷川浩司のクリエイティブな終盤。
 
 いやホント、こうして並べるだけでもカッコよすぎて、ため息が出ますよ。
 
 
 
 (谷川編はまだまだ続く→こちら
 
 
 

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