Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§22「君たちはどう生きるか」 吉野源三郎, 1937.

2014-01-04 | Book Reviews
 主人公のコペル君が百貨店の屋上から眺めた街角から、何千何万もの人びとの予測もおぼつかない世界を垣間見たときから物語が始まります。

 見上げた空のもっと上の天体の動きはすべて、運動方程式から予測された因果性に基づいた秩序があるはずなのに、見下ろした街に住む人びとが今、何をしているのか?どこに行こうとしているのか?さえも分からない。

 自らが視点を遠くに置いた時にはじめて社会の仕組みや物事の結び付きや人の繋がりがわかるものなのかもしれません。

 リンゴが木から落ちるときにニュートンが着想した万有引力。それは天体における地球と月も太陽と地球も同じように相互に引き合う力は、リンゴが木から落ちる力と同じ地球もまた質量を持つ物体のひとつに過ぎないという原理。

 天動説とは、地球を中心に太陽や惑星が廻ること。子供じみた自己中心的な考えや行動のたとえであり、主人公のコペル君は、その天動説を覆したひとのたとえかもしれません。

 人と人との関わりや歴史もすべて同じように、ひとりでは成りがたく、絶えず相互に影響を及ぼしていることを知ったときの手紙には、

 「すべての人がお互いによい友達であるような、そういう世の中が来なければいけないと思います。人類は今まで進歩してきたのですから、きっと今にそういう世の中に行きつくだろうと思います。そして僕は、それに役立つような人間になりたいと思います」

 とても、日中戦争前夜とは思えない、普遍的な作品のひとつだと思います。

初稿 2014/01/04
校正 2021/02/12
撮影 2013/09/28 (東京・西新宿辺り)