ドストエフスキーが著した二作目の小説は、デビュー作である「貧しき人々」が好評を博したのに比べてその評価は芳しくなかったと言われています。
そのデビュー作と似たような設定ですが※、昇進か望むべくもないとはいえ、周囲からの評価を過敏に反応してしまう独り身の中年官吏である〈わたし〉ともう一人の〈わたし〉との物語です。
「それまで鏡だとばかり思っていたドアのところに、いつかと同じように、彼が立ち現れたのである」(p.282)
そこにあるそれをそうであると思うことは、それをそこにあらしめているということに他ならず、鏡に映った自らの姿に自らの劣等感や妬みを投影させているような気がします。
ひょっとしたら、自らの劣等感や妬みが〈わたし〉を凌駕するとき、もう一人のあるがままの〈わたし〉が、然るべき〈わたし〉として歩き出そうとする覚悟と別離を阻もうとしていたのかもしれません。
初稿 2023/04/15
写真「マリとキャシー」朝倉響子, 1989.
撮影 2023/01/22(千葉・佐倉)
注釈 ※)§165「貧しき人びと」, 1846.
そのデビュー作と似たような設定ですが※、昇進か望むべくもないとはいえ、周囲からの評価を過敏に反応してしまう独り身の中年官吏である〈わたし〉ともう一人の〈わたし〉との物語です。
「それまで鏡だとばかり思っていたドアのところに、いつかと同じように、彼が立ち現れたのである」(p.282)
そこにあるそれをそうであると思うことは、それをそこにあらしめているということに他ならず、鏡に映った自らの姿に自らの劣等感や妬みを投影させているような気がします。
ひょっとしたら、自らの劣等感や妬みが〈わたし〉を凌駕するとき、もう一人のあるがままの〈わたし〉が、然るべき〈わたし〉として歩き出そうとする覚悟と別離を阻もうとしていたのかもしれません。
初稿 2023/04/15
写真「マリとキャシー」朝倉響子, 1989.
撮影 2023/01/22(千葉・佐倉)
注釈 ※)§165「貧しき人びと」, 1846.