昔々・・・ある小さな国の小さな町に一人の少年と一人の少女がいました。
ある日少女は壊れてしまった靴を直してもらいに靴屋を訪れました。少年は少女の靴を丁寧に丁寧に直し、その靴は壊れる前よりももっと履き心地の良い靴になりました。
少女は少年の誠実さに心を打たれ、少年は少女の可憐さに惹かれ・・・二人はたちまち恋に墜ちました。
少年は世界一の靴職人になるのが夢、少女はお金持ちの暮らしに憧れていました。
少女の美しさはその小さな国でも有名で、身分を超えて貴族達の集まる数々の舞踏会に招待されるほどのものでした。
少年の靴職人としての腕もまた有名で、その小さな国のたくさんの人が履き心地の良い靴を求めて、少年の働く靴屋を訪れました。
恋人同士の少年と少女は互いに忙しい日々を過ごし、二人で過ごす時間が少しずつ減ってはいましたが、互いのことを忘れることはありませんでした。何故なら、二人は強い強い絆で結ばれていたからです。
長い月日の間、少女はたくさんの貴族達から求愛されました。少女の夢はお金持ちの暮らしをすることです。少女の夢は、もうすぐにでも叶えられるところまで来てました。しかし、少女の心の中にはいつも少年がいたのです。
少年は来る日も来る日も訪れる人のために丁寧に丁寧に心を込めて靴を作り続けていました。それはとても地味な仕事でした。少年は、いつになったら世界一の靴職人になれるのだろう?と、自分の未来に疑問を感じ始めていました。
そんなある日、その小さな国でも一二を争う有名な貴族が、大きな箱にたくさんの金貨とあふれんばかりの宝石を詰めて少女のもとを訪れ、プロポーズをしたのです。それはいかにも素敵な紳士で、それは誰もが夢見るような素敵なプロポーズでした。
実際、お金持ちの暮らしに憧れる少女の心はほんの少しだけ揺れてしまったのです。