台北の街をぶらぶらと歩いている。
台湾は50年間日本だった。日本が台湾を占領していたという歴史がある。
第二次世界大戦という名の戦争が終わって、戦争に負けた日本が台湾から去った。
日本の代わりに台湾にやって来たのは、毛沢東率いる共産党軍に追われた、蒋介石率いる国民党の軍だった。
中華人民共和国に追われた中華民国が台湾にやってきた。
それ以来ずっと、中華人民共和国と、中華民国つまり台湾は戦争状態にある。
台湾には中華人民共和国が攻めてきた時のための防空壕がたくさんある。
僕は普通に街を歩いた。ただ街を歩いていた。
交差点に差し掛かると、警察官が笛を吹いた。
ピーーーーピピ!!!
こっちへ来いと手招きをされた。
手招きをされた方へ歩いていく。
日本人か?と聞かれた。
そうだ。と答えた。
警察官が日本語で言う。
今、防具避難訓練をやっている。
今は街を歩くことは出来ない。しばらくここにいろ。ここでじっとしていろ。
見ると、大通り、つまり、いつもはバスや車やスクーターがひっきりなしに何千台も通っている大通りがひっそりとしている。車は一台も走っていない。バスがバス停で停車したままになっている。
お店から出てきて通りを歩き始めた人は、すかさず警察官から笛を吹かれる。
何時までだ?と僕は聞く。
2時までだ。と警察官が答える。
ははは。一時間もあるじゃん。
僕はアーケードの下の日陰に入って腰を下ろした。
待つしかない。避難訓練に逆らった人は罰金を払わなければいけない。
アーケードの下の日陰に座って、僕は考えていた。
街の機能を、一時間も停止させる。これは尋常なことではない。おざなりな防災避難訓練とは少し違う。
この国はいまだに戦争状態にある。という話を本で読んだ。この国の軍事費は世界第6位だという話も本で読んだ。
アーケードの下に、人々が次々と入ってくる。警察官は日本語と英語と中国語で、それぞれに説明している。みんな、渋々、アーケードの下で時間を潰している。
蒋介石が死んで、蒋介石の息子の蒋経国も死んで、台湾の政治が変わった。
台湾は、自由にモノを語れる国家となって、経済的に豊かになった。
時計の針が2時を回った。
警察官が、訓練終了の合図を出す。
止まっていた街の時間が一斉に動き出す。
止まっていたバスは動き出し、止まっていた人が歩き出す。
たった数分で、街はいつもの街の姿に戻っていった。何事もなかったかのように。
僕も、歩き出す。
「そろそろ帰るかな・・・」
さっきまでバスが停車していたバス停に向かって歩きながら、僕はつぶやいた。
相変わらず、陽射しは強い。
僕はだいぶ陽に焼けたみたいだ。
よく歩いた。
さて・・・そろそろ帰るよ。
止めていた僕の時間も、そろそろ動かさないといけない、