一眼レフカメラは重い。大きい。荷物になる。邪魔。
旅に一眼レフカメラは必要か・・・という問題。
以前ならば、迷うことなく。一眼レフをバッグの中へ。
出発当日の朝まで迷っていた。・・・iPhoneのカメラで事足りてしまうんじゃないだろうか・・・。だって、一眼レフは、重い、大きい、邪魔。
僕の一眼レフは古い。古い上に、三年前の事故の時に雨にさらされてしまった。そのせいか、あまり調子がよろしくない。その上、三年前からほとんど使っていない。
以前ならば、迷うことなく・・・なのだが。
以前は、外国で撮った写真をポストカードにして、路上で売った。売りまくった。海外への渡航費用は、ポストカードで賄える。つまり、僕は旅人写真家、と言えなくもなかった。つまり僕は、詩人として海外を周っていたり・・・とか。
今は・・・撮った写真を売りまくれるわけでもないし、iPhoneのカメラの性能はすこぶる良いし。というわけなのである。
荷物は出来るだけ減らしたい。
ヨーロッパを三ヶ月放浪した時は、Tシャツとパンツと靴下を3枚ずつ。それしか持って行かなかった。それだけで旅をした。それと、寝袋と、MA-1。
荷物は出来るだけ減らしたい。何せ、リュックを背負って歩くのだから。
台中の夜市へ出かけた。逢甲夜市。
夜市に着いた時、もうすでに疲れていた。一日中歩き回って、バスを乗り継いで、夜市まで来た。
ところどころで座って、また歩き、座って、また歩き。何をしたわけでもないのだが、ウロウロと歩き回って、宿へと戻るバスに乗った。
バスに乗って10分ほどだったか。
宿まであと20分ほどだったか。やっと宿へ戻って寝られると思っていた頃だったか。
あっ!あれ!うそ!
・・・カメラが・・・ない。
迷いに迷った挙句、台湾まで運んで来た僕の一眼レフ。首からぶら下げていた一眼レフカメラがないのである。・・・がびちょす。
バスに揺られながら考えた。
「もういいかな・・・カメラ」
「見つからないよな・・・カメラ」
「いつからないんだろう・・・カメラ」
「どこへ置いて来たんだろう・・・カメラ」
僕は、そのまましばらくバスに揺られていた。
少しだけ呆然としていた。
逢甲夜市は広い。あてどもなく広い逢甲夜市を歩き回った。探すといってもどこからどこまで・・・。広すぎる上に、疲れすぎている・・・。
探すだけ探して・・・警察に届けて・・・運が良ければ出てくるか・・・カメラ。
僕は、ピンポーンと、バスの降車ボタンを押した。
座った場所に置いたはずである。カメラ。
記憶をたどりながら。
タトゥー屋の前の道端。
大学の入り口の垣根。
屋台の横のシャッターの前。
・・・ないなぁ。まぁ、あるわけないよなぁ。警察、遠いかなぁ。時間かかるよなぁ。
すると、屋台の横のシャッターの前、の屋台のお兄ちゃんが手招きをした。
カメラだろ?とジェスチャーを送ってくるじゃないか。
うそだろ?
カメラ、あんの?
ほんとに?
屋台の奥の店の中のテーブルの上に、僕の一眼レフがチョコンと置いてあった。
逢甲夜市に着いて、最初に座った場所である。 つまり、かれこれ3時間。3時間も、僕は自分がカメラをなくしたことに気づかなかったというわけ。バカだねぇ。
バカがバカたる所以は、バカは自分がバカだということを知らないということ。
それからの旅。
僕は一度も首から下げたカメラを、首から外さなかったんだよ。どんなに重くても、どんなに疲れていてもね。
僕はもうバカじゃない。
でも、バカがバカたる所以は・・・なんでもすぐに忘れちゃうということでもあるんだけどね。
一眼レフは、重くて、大きくて、邪魔だけど。
一眼レフにしかない良さがある。
それは、その重さと大きさと邪魔さをカバー出来るものなかどうかは分からないのだが・・・。
帰って来て、一眼レフで撮った写真を眺めていると・・・
あぁ・・・やっぱり一眼レフはいいなぁ・・・などと思ったりする。
そして、それを忘れて、また一眼レフを持っていくかどうか、散々迷ったりするんだよなぁ。
いつもいつも。