雪月花廊にトトはいない。
雪月花廊にトトはいる。
6年前にちょこっと立ち寄った旅人のことなど、トトもカカも覚えてはいない。
ただ、僕が覚えているというだけのことだ。
僕はカカに話す。僕が雪月花廊で過ごして数日間のことを話す。
トトがいつも「腹減ってないか?」と聞いてくれたこととか、僕に何かを食べさせてくれたこと。シチューとか肉豆腐とか。
カカが「寒いからどうぞ」とロイヤルミルクティーとかアップルケーキとかを食べさせてくれたこととか。
僕は旅の最後でお金がなくて、お金を払って食べたものなど何一つなかったこととか。
カカは言った。
「そんなに優しかったの?」
ははは。そんなに優しかった。すごく暖かかった。
トトもカカも、すごく優しくて温かくて、雪月花廊がとても暖かかった。