瓦屋の親方が、朝の4時に軽トラに乗って僕を迎えに来た。外は雨である。朝の4時は真っ暗である。つまり、真っ暗の土砂降りの朝の4時である。
目的地は関東東北豪雨の被災地、常総市である。
雨である。
前日。ボランティアセンターが翌日のボランティアは雨のため中止と、早々に発表していた。
僕は親方に電話をかけて、こう言った。
「明日は中止だってさ。ボランティア出来ないよ」
親方からはこんな返答が帰ってきた。
「うちのボランティアは、そういうの関係ないから。朝の3時に迎えに行くよ」
僕が思うに、朝の3時という時間は存在しない。3時は夜中だ。3時は朝ではない。だから、4時にしてくれ、と頼み、待ち合わせは4時になった。
常総市まで2時間半。軽トラに揺られて2時間半。
僕はこう思っていた。
「今日はきっと、ボランティア活動など出来ない。出来っこない。出来ないんだから、とっとと帰って来たいなぁ」
朝の6時半、常総市の水海道に着いた。
大雨から一週間、水は引いている。水が引いた形跡があちこちに見て取れる。
自動販売機が故障している。見たところ、頭まで水を被った跡がある。2メーターを超える水が来たということだ。ほぼ全ての建物の壁に、洪水の水位を知らせるかのような跡が付いている。
とりあえず、ボランティアセンターへと向かった。
今日はボランティアセンターは開いていない。だけど、ボランティアセンターへ向かった。なぜなら、他に行く場所がないからである。
僕はこう思っていた。
「早く親方の気が済んで、帰れたらいいなぁ」
ボランティアセンターの前の駐車場に車を停めて、少し待った。何を待つのか?それはわからない。何かを待つのだ。
僕らの軽トラの横のスペースに、黒いプリウスがゆっくりと入って来た。ゆっくりと入って来て、消えた。
駐車場の奥は堀になっている。
つまり、黒いプリウスが消えたということは、堀へ消えたということだ。
なんでだ?
外へ出てみると、黒いプリウスが堀へ落ちていた。
朝の7時前に、どうしてプリウスは堀へ落ちたんだろう?不思議でならない。
とりあえず、今回のボランティアかつどう最初の作業は、消えたプリウスの救出作業である。
うちの親方は張り切っているのである。軽トラをプリウスに繋いで、堀から引っ張り出すのである。
20分後、消えたプリウスは救出された。外は土砂降りの雨である。
騒動の最中、ボランティアセンターの建物に出入りする人がたくさん集まってきた。
その人たちに僕は聞いた。
「ボランティアに来たんですけど、何か手伝えることはないですか?」
予想通りの答が返ってくる。
「今日はボランティアセンターで中止を発表してるから、何もないよ」
ずぶ濡れになって軽トラに戻る。センターの人の言葉を親方に伝える。
「あんね、こんな日に来るんじゃねぇよ、今日は休みって言ってんだろ、さっさと帰りやがれ!って言われたよ。プリウスも助けたことだし、さぁ、帰ろうか?」
そして、僕たちは、また待つ。
何を待っているのかは、わからない。
ただ、フロントウィンドウを打ち付ける雨を眺めながら、知らない町でじっと待つのである。
そもそも、そこに知らない軽トラが停まっていることはおかしな事なのである。
出勤して来る職員たちが、不審な目を向けながら通り過ぎていく。
首から名札をぶら下げたおばちゃんが、傘を差しながら僕らの軽トラに近づいてくる。明らかに不審な眼差しを向けながら。
「何をなさっているんですか?」
困っている人の手助けをするってのも、なかなか難しい。
そんなことを、僕は学んでいるのである。
目的地は関東東北豪雨の被災地、常総市である。
雨である。
前日。ボランティアセンターが翌日のボランティアは雨のため中止と、早々に発表していた。
僕は親方に電話をかけて、こう言った。
「明日は中止だってさ。ボランティア出来ないよ」
親方からはこんな返答が帰ってきた。
「うちのボランティアは、そういうの関係ないから。朝の3時に迎えに行くよ」
僕が思うに、朝の3時という時間は存在しない。3時は夜中だ。3時は朝ではない。だから、4時にしてくれ、と頼み、待ち合わせは4時になった。
常総市まで2時間半。軽トラに揺られて2時間半。
僕はこう思っていた。
「今日はきっと、ボランティア活動など出来ない。出来っこない。出来ないんだから、とっとと帰って来たいなぁ」
朝の6時半、常総市の水海道に着いた。
大雨から一週間、水は引いている。水が引いた形跡があちこちに見て取れる。
自動販売機が故障している。見たところ、頭まで水を被った跡がある。2メーターを超える水が来たということだ。ほぼ全ての建物の壁に、洪水の水位を知らせるかのような跡が付いている。
とりあえず、ボランティアセンターへと向かった。
今日はボランティアセンターは開いていない。だけど、ボランティアセンターへ向かった。なぜなら、他に行く場所がないからである。
僕はこう思っていた。
「早く親方の気が済んで、帰れたらいいなぁ」
ボランティアセンターの前の駐車場に車を停めて、少し待った。何を待つのか?それはわからない。何かを待つのだ。
僕らの軽トラの横のスペースに、黒いプリウスがゆっくりと入って来た。ゆっくりと入って来て、消えた。
駐車場の奥は堀になっている。
つまり、黒いプリウスが消えたということは、堀へ消えたということだ。
なんでだ?
外へ出てみると、黒いプリウスが堀へ落ちていた。
朝の7時前に、どうしてプリウスは堀へ落ちたんだろう?不思議でならない。
とりあえず、今回のボランティアかつどう最初の作業は、消えたプリウスの救出作業である。
うちの親方は張り切っているのである。軽トラをプリウスに繋いで、堀から引っ張り出すのである。
20分後、消えたプリウスは救出された。外は土砂降りの雨である。
騒動の最中、ボランティアセンターの建物に出入りする人がたくさん集まってきた。
その人たちに僕は聞いた。
「ボランティアに来たんですけど、何か手伝えることはないですか?」
予想通りの答が返ってくる。
「今日はボランティアセンターで中止を発表してるから、何もないよ」
ずぶ濡れになって軽トラに戻る。センターの人の言葉を親方に伝える。
「あんね、こんな日に来るんじゃねぇよ、今日は休みって言ってんだろ、さっさと帰りやがれ!って言われたよ。プリウスも助けたことだし、さぁ、帰ろうか?」
そして、僕たちは、また待つ。
何を待っているのかは、わからない。
ただ、フロントウィンドウを打ち付ける雨を眺めながら、知らない町でじっと待つのである。
そもそも、そこに知らない軽トラが停まっていることはおかしな事なのである。
出勤して来る職員たちが、不審な目を向けながら通り過ぎていく。
首から名札をぶら下げたおばちゃんが、傘を差しながら僕らの軽トラに近づいてくる。明らかに不審な眼差しを向けながら。
「何をなさっているんですか?」
困っている人の手助けをするってのも、なかなか難しい。
そんなことを、僕は学んでいるのである。