五月の話である。
ゴールデンウィーク。僕にとってはゴールデンウィークが10連休だろうが100連休だろうがまったく関係ないのだが、ちょっと世間一般と関わったりすると、そんな連休がちょっと関係あったりするのである。
嵐山へ遊びに行きたい!とよく言われる。たまに言われる。
そんな時は、決まってこう言う。
「そうだねぇ、暖かくなったらねぇ。春かなぁ・・・」
みんなにそう言う。だって、嵐山の冬は寒い。
そして春になり、五月になり、世間一般がゴールデンウィークに突入し、ゴールデンウィークの最中に出掛ける気なんぞない僕のところへ、冬の間に交わした軽い約束を果たしに、次から次へと、友人たちがやって来るのである。
そんなある日のことである。
朝である。早朝。
アイフォーンの呼び出し音。電話が鳴る。
「今すぐにハチの巣箱をうちへ持ってきなさい」と、電話の主が言う。
電話の主とは・・・ハチ師匠。キムキムにーやんである。元マル暴の、刑事と書いてデカ。見た目はヤクザそのものの、キムキムにーやん。
「え?今ですか?今はちょっと・・・来客がありまして・・・えぇ、近いうちに持っていきますよ」
「今だよ。今持ってこないとダメなんだよ。すぐな!」
「・・・」
さてさて、どうするっか。昨日から泊まりの来客なのである。なんとなくの予定も立ててあるのである。
「まぁなぁ・・・行くしかないよなぁ」
客人に告げる。
「ちょっと申し訳ないんですけど、2時間半ばかり出掛けてきます」
ハチの巣箱をバックシートに載せて、ジムニー号、出発なのである。
キムキムにーやんは、なぜ巣箱を持って来いと言ったのか?
説明しよう。
キムキムにーやんは沢山の巣箱、たぶん11個くらいの巣箱にニホンミツバチを飼っていたのだが、アカリンダニの被害に遭い、生き残ったのはたった二つの巣箱だった。
その巣箱に入っているハチの群れに新しい女王蜂が産まれると、古い女王は群れの半分を引き連れて巣を出て行く。これを分蜂という。
なぜか知らないが、ハチは何度も何度も分蜂するらしい。
今回、今年は、もう諦めていた。キムキムにーやんもそう言っていた。今年は無理だと。
キムキムにーやんの巣箱に入った蜂が今年4度目の分蜂をしそうだというのである。
つまり、本当に分蜂すれば、キムキムにーやんがその群れを捕らえ、蜂箱に入れ、僕にくれるというわけだ。我が家に再びニホンミツバチがやって来るというわけだ。
僕が客人を置いて、車を走らせているのは、そういうわけだから、なのである。
キムキムにーやんの家に着いて、巣箱を置いて、すぐに帰ってきた。
その日の昼間に、キムキムにーやんから電話があった。
「分蜂したぞ。なっ、だから言っただろ?すぐに持って来いって」
さすがなのである。さすがの師匠なのである。僕のハチの群れ。
「やったぁ!」
と叫び出したい気分・・・いや、実際、「やった!と叫んだのである。
こんにちは、はちみつのカフェ。
そして、これもまた・・・悲劇の始まりだったりして・・・
つづく。