だいたいわかるというのは、だいたいしかわからない、というのはことである。
だいたいしかわからないというのは、わかるの対極にあるものであって、つまりそれは、ほぼわからないのと同じなのである。by マハトマシングー
ミツバチの話。
秋は、ニホンミツバチの養蜂家にとって、一番楽しみな季節だそうだ。・・・採蜜の季節。
セイヨウミツバチの養蜂家は、年に三度も四度も蜜を採るのだが、ニホンミツバチの群れからは年に一度しか蜜が採れない。なぜか?それはね、ニホンミツバチは越冬するからだよ。
ミツバチの群れは、自分たちが集めた蜜を少しずつ少しずつ食べながら冬を越す。だから、春から夏へ、夏から秋へ、ずーっと蜜を集め続ける。
ニホンミツバチの養蜂家は、その蜜のほんの少しを頂く。何段も重ねてある巣箱の、一番上の段に入ったハチミツだけを頂く。
だから、この世界に出回るハチミツは、ほとんどがセイヨウミツバチが集めたものになるというわけ。ニホンミツバチのハチミツは、滅多に手に入らないそうだ。貴重。とても貴重。この世で一番貴重。
そして、秋。
ミツバチ師匠のキムキムにーやんが我が家にやって来た。
見た目はヤクザそのもののキムキムにーやん、素人の僕に採蜜のやり方を教えに来てくれたのだ。優しいのである。でも怖いのである。
右手にナイフを持ったキムキムにーやんの怖さっていったらもう・・・警察を呼んじゃいそうになるのでたる。
キムキムにーやんが手際良く、巣箱の段の間にナイフを入れていく。色々と講釈をしてくれるのだが、手際がいいのと、速いのと、ちょっと怖いのとで、実際のところ、素人の僕には色々と分かりかねるところがあったりする。でも、まぁ、だいたいはわかる。実際の作業を目にしているわけだから、だいたいはわかる。
結局、キムキムにーやんが全部やってくれた。
パン切りナイフで蜂の巣を切りながら上段の巣箱を外して、切り取った上段の巣箱をオーガンジーという名の網を張ったバケツの上に載せる。
巣箱の木枠から蜂の巣を外して、蜂の巣からハチミツが零れるように、蜂が塞いだ蜂の巣の蓋をパン切り包丁で切っていく。
ある程度切れたら、あとはそのまま、自然にハチミツがバケツの中へ落ちるのを待つ。
終了。
わかった?
まぁ、僕くらいになるとね、わかった気がする。結構わかった気がする。
「次は自分一人でできるな?」
とキムキムにーやんは言う。
「はい」と答える僕なのだが・・・。まぁ、なんとかなるだろう程度の自信しかない。
次の採蜜の時に、キムキムにーやんがそばにいて、「さぁ、やってみろ」とか言われたら、きっと僕は死亡することになるだろう。だから、キムキムにーやんがいない時に、こっそり採蜜をやってしまおうと心に誓うのである。
1.5キロくらいの百花蜜が採れた。
とても美味しいハチミツが採れた。
世界には、こんなにも美味しいモノがあるんだなぁ・・・と、僕は思った。
それが、去年の秋の、ニホンミツバチと僕の出来事。