サツマイモの出来はどうだ?とキョーコさんに聞かれたから、「よくないね。この畑はサツマイモには向いてないよ」と答える。すると、キョーコさんは言う。
「草生やしっぱなしじゃぁ、サツマイモだって負けるわ」
はい、おっしゃる通りでございます。
キョーコさんが、サツマイモ畑を越えて、隣の畑も越えて歩いていく。
キョーコさんが歩いていく先には、たわわに実るみかんの木が。
「おっと、これはいいことがありそうじゃないか」
僕は慌ててキョーコさんを追いかける。
みかんをもぐキョーコさん。僕に一つ実を渡す。
僕は渡されたみかんの皮を剥きながら尋ねる。
「へぇ、このミカンの木もキョーコさん家のなんだぁ」
キョーコさんがみかんを次々ともぎながら言う。
「違うよ。他所んちのだよ」
ガーン・・・。ガーン・・・。みかんドロボウ。みかんドロボウとその手下。みかんドロボウ一味。ガーン。
まぁ、いいか。
みかんを食べる。甘くて美味しい。でも、ちょっと皮が硬い。
うまいか?と聞かれたから、うまいよと答える。
キョーコさんもみかんを食べる。
キョーコさんは言う。
「皮がコワイな」
コワイってのは、硬いという意味だね。
皮がコワイなと言ったキョーコさんが驚くべき行動に出る。
両手いっぱいに持っていたみかんを、僕のズボンのポケットに入れ始めた。入らない分は、僕の手に持たせる。
そして言う。
「ほれ、なんか言われたら、もらったって言えな」
そして、キョーコさんは去った。
ドロボウした美味しくないみかんを親分に全部持押し付けられて、現場に一人取り残されたドロボウの子分である。
なるほどなるほど。勉強になるなぁ。
こうやって、親分は助かって子分は捕まる仕組みってわけなんだな。なるほどなるほど。勉強になるなぁ。
ちょっと硬い皮を「ベッ」と吐き出しながらみかんをもぐもぐ。哀愁のドロボウの背中を夕陽が照らす。
ドロボウの子分が一言。
「今日もいい一日だったなぁ」
おわり。
写真は、川越の「時の鐘」の上からみた川越の屋根景色。普段は絶対に観られないんだよ。