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Dr.岡とDr.渋江のプレチナセッション
COVID-19公開症例検討
岡先生と、実際にクルーズ船のCOVID-19患者を診療した横浜みなと赤十字病院感染症科・渋江先生の講演。
症例1.はCOVID-19の軽症例、症例2.はCOVID-19の重症例、症例3.はCOVID-19との鑑別 緑色は先生がたのつぶやき
症例1. 69歳女性 発熱・咳嗽
・クルーズ船旅行中に、2/Xに咳嗽出現
2/X+1に38℃台の発熱が出現して、
2/X+4にSARS-CoV-2 PCR検査し、
2/X+6に陽性と判明して当院へ搬送
・BP128/60mmHg、P76/分、RR16/分、BT37.2℃、SpO2 95%(室内気)
・併存疾患・既往歴:特記なし
・ROS+:発熱、悪寒、咳嗽、倦怠感、筋肉痛、下痢
・身体所見:シックさはあまりない、眼瞼結膜蒼白なし、口腔内特記なし、胸部所見・腹部・背部・四肢に特記なし、皮疹なし
(印象は通常の感冒)
(倦怠感も他疾患と違いはないか)
血液・生化学検査:WBC7200、SEG70%、LYN22%、EOSINO0.2%、PLT13.4万、T-bil0.5、AST22、ALT12、LDH200、BUN12、Cr0.6、CRP2.6、glu123mg/dl
(この身体所見で検査をするか?→通常は感冒として帰宅にするだろう)
(COVID-19の可能性はあるので、経過をみて改善しない時は連絡してもらう)
胸部X線:右中肺野淡い陰影
(軽症でも肺炎像があるのが特徴)
(通常感冒と思っても胸部X線をとるべきか→今どきは検査の閾値を低くする)
胸部CT:両側肺(右S2、左S1+2、両側S6、S9-10)末梢の背側優位に汎小葉性の分布の斑状のGGOが散在
(片側でもCOVID-19は否定できないが、片側に浸潤影だとらしくない)
COVID-19
<臨床像>
・集中治療を要する症例では死亡率は5割
・平均的な死亡率は0.7%~高くて2%
・ただし80歳以上の高齢者では15%程度の死亡率と高い
・死亡者の多くが高齢者、心疾患や糖尿病を有している
・臨床症状は初期には4割ほどしか発熱しないことも多いものの、肺炎があれば経過のなかで9割に発熱あり
・咳81%、息切れ31%と呼吸器症状が主体
-加えて、筋肉痛や倦怠感
-喀痰は27%と目立たない
-鼻汁や消化器症状はまれであるが、少数ではみられる
(経過をみて流れの中で診断をつける。特異的な症状がない)
身体所見のどこに注目する?
・最も診断に有用なのは呼吸数
(高齢者ではRR>24はとくに有用)
・体温<37.8℃、HR<100/分、RR<30/分
肺炎の確率はかなり低下(陰性尤度比0.18)
(COVID-19では通用しない)
Heckerling score
・体温37.8℃以上
・心拍数100/分以上
・Crackleがある
・呼吸音低下がある
・喘息がない
合計0-1だと肺炎の可能性は1%以下
(COVID-19では通用しない)
(当てはまれば、むしろ市中肺炎を考える)
<診断>
・WBCは90%が正常から低下
-リンパ球数低下が35%で低下
-初期からWBC上昇しているとらしくない
・CRPは多くは上昇し、5程度上がる
-あまり高いとらしくないかもしれない
・プロカルシトニンは6%でしか上昇しないため、除外診断に有用な可能性
・WBC24%で低下、9%で上昇
・リンパ球は35%で低下
・LDHが76%で上昇
・軽度の肝障害35%
・腎障害13%
・CRP平均5mg/dlと上昇 86%で上昇
・PCT6%で上昇
(Lancet Jan 29,2020)
他のウイルス性肺炎、間質性肺炎と鑑別困難!
WBC↑
好中球↑
リンパ球↓
LDH↑
D-dimer↑
が重症化リスク
<治療>
・確立した有効な治療はない
・試験管内の効果からロピナビル・リトナビル、ファビピラビル、Remdesivir、クロロキン、トシリズマブが期待されている
・対象れ用法はイブプロフェンを避けてアセトアミノフェンの処方が無難かもしれない
重症化を見抜くには
・発熱は長引く
・呼吸数の増加
・酸素飽和度の低下
・検査所見の悪化
・画像所見の悪化
<予防>
・接触、飛沫感染予防策を行う
→流水またはアルコールの手指衛生、顔を極力触らない、咳エチケットが大切
・支柱において無症状者のマスク着用は感染予防のエビデンスに乏しく、不要なコストと必要時の供給不足を招くためCDCは推奨していない
・症状がある患者とそのケアをするものはサージカルマスクを着用
・採痰、気管挿管、NPPV、気管支鏡
実施、CPRなどエアロゾル発生の恐れがある場合にはN95マスク、フェイスシールドを着用
・ただし物品が十分でない場合にはN95マスクは必須ではなく差0時かるマスクで代用可
発症者
・隔離予防の解除は、臨床症状の消失と2回の気道検体からのPCR陰性が目安
・軽快後、24時間後のPCR陰性
・さらに24時間後のPCR陰性
・感染管理管理の責任者と相談のこと
症例2 69歳男性 発熱、咳嗽、呼吸困難感
・クルーズ船旅行中に、2/Xに発熱・咳嗽出現し、徐々に呼吸困難感が増悪した。
2/X+6にSARS-CoV-2 PCR検査提出(咽頭拭い)し、同日当院へ搬送となった。
・BP118/72、P78/分、RR18/分、BT38.2℃、SpO295%(O21L/分カヌラ)
(一見軽そうに見えるのが特徴)
・併存疾患・既往歴:糖尿病(食事療法のみ)
・ROS+:発熱、咳嗽、呼吸困難感
身体所見:シックさはあまりない、眼球結膜蒼白なし
口腔内特記なし
胸部:右側胸部でlate inspiratory cracklesあり、腹部・背部・四肢特記なし 皮疹なし
血液・生化学検査:
WBC3100、SEG 72%、LYN 20%、EOSINO 9%、PLT9.8万/μL、PT-INR 1.01、APTT31.9秒、D-Dimer 0.6μg/mL、T-bil 0.6mg/dL、AST 67、ALT39、LDH 521BUN 12mg/dL、Cr 0.6mg/dL、CRP 3.7mg/dL、glu 154mg/dL、HbA1c 7.1%
胸部X線:右中肺野に浸潤影
胸部CT:右肺S2にcrazy paving patternを伴う汎小葉性のGGO
(マスクメロンの皮のような陰影)
宿主
・バイタルサインは?
-急性?慢性?市中?院内?
-既往歴、基礎疾患は?抗菌薬使用歴は?
-免疫不全の関与は?
-病原体暴露の可能性は?
(渡航・出身、動物、食事、趣味、仕事、Sick contact)
市中肺炎の起炎菌
1.肺炎球菌
2.インフルエンザ菌
3.モラキセラ・カタラーリス
4.マイコプラズマ
5.クラミドフィラ
6.レジオネラ
インフルエンザウイルス後
→黄色ブドウ球菌
・糖尿病、肝疾患、アルコール多飲
→クレブシエラ
・動物接触
→オウム病、Q熱、野兎病、パスツレラ
・気管支拡張、嚢胞性線維症、好中球減少
→緑膿菌
この症例は、入院時の咽頭拭い液SARS-CoV-2のPCRは陰性
新型コロナウイルス2019
<診断>
・咽頭よりも鼻咽喉の方がウイルス量が多い
・PCRは鼻咽喉スワブまたは喀痰をエアロゾル対策のもとで採取
・気道検体が取れない場合には便や尿も検体になる
・実際には明らかなウイル性肺炎像を呈して、初期のPCRは陰性で、のちにPCRが陽性となりうる
経過:
第6病日入院
セフトリアキソン+レボフロキサシンで開始
第12病日
酸素化増悪O2 5L/分
WBC 3700、neut 80↑ 、Lymph 16↓、AST 53、LDH 376、CRP 12↑
ロピナビル・リトナビル開始
・シクレソニド 200μg1日2回1回2吸入14日間
あるいは
・ロピナビル・リトナビル2錠1日2回14日間
※薬剤相互作用の注意、HIV検査陰性を確認
(HIV陽性者にHIVの薬を単独使用すると耐性化)
いずれの場合も適応外使用である
ロピナビル・リトナビルの重症肺炎に対するRCTは声明予後の改善は証明できずウイルス量の減少も差はないが、1日ほど改善が早い
消化器症状による中断が多かった
第13病日の鼻咽頭拭い液PCR陽性
・実際には明らかなウイルス亜飛円像を呈しても、初期のPCRは陰性で、のちにPCRが陽性となりうる
・重症例で疑いが強ければ、PCR検査は繰り返してもよい
-気道検体を複数箇所採取してもよい
-1回では51%しか陽性にならず
-3回目で11%陽性になる
第17病日
酸素化増悪O2 15L/分
WBC 4800、Neut 89、Lymph 6、AST 30、LDH 450、CRP 21
人工呼吸管理へ(転院)
重症化のパターン
・発症から7日くらいの経過で症状が増悪し、数日のうちにARDSになる
・肺炎の回復には2週間程度、重症なら3~6週間要する
症例3 40歳女性(医療従事者)発熱、咳嗽
・3/Xから頭痛がありその後発熱が出現し、近医受診して感冒と診断されてロキソプロフェン、デキストロメトルファンが処方された。
改善せず、38-39℃台の発熱が持続し、3/X+2で再度受診してガレノキサシン、バロキサビル・マルボキシルが処方された。
発熱が持続して3/X+3に精査目的に当院受診。
とくに渡航歴、シックコンタクトなし
・BP 128/60mmHg、P 76/分、RR 16/分、BT 37.2℃、SpO2 95%(室内気)
・併存疾患・既往歴:特記なし
・ROS+:発熱、悪寒、乾性咳嗽、頭痛
・ROS-:咽頭痛、鼻汁、鼻閉、下痢、嗅覚・味覚障害
・身体所見:
シックさはあまりない、眼球結膜蒼白なし、口腔内特記なし、
胸部:左側胸部にinspiratory crackles、腹部・背部・四肢特記なし、皮疹なし
血液・生化学検査:
WBC 4400、SEG 58%、LYM 29%、EOSINO 0.7%、PLT 31.3万/μL、T-bil 0.3mg/dL、AST 28、ALT 33、LDH 238、BUN 7.9mg/dL、Cr 0.6mg/dL、CRP 16mg/dL、glu 105mg/dL
胸部X線:左下肺野に浸潤影
(COVID-19との鑑別のためCT施行)
胸部CT:左肺S9末梢に浸潤影
(陰影が片側で浸潤影=COVID-19らしくはない)
非定型肺炎疑い
1.年齢60歳未満
2.基礎疾患がないor軽微
3.頑固な咳
4.胸部聴診上で所見が乏しい
5.痰がない、迅速キットで原因不明
6.末梢白血球10000/μL未満
4つで特異度93%
・尿中肺炎球菌抗原陽性でキノロン継続とした
・その後マイコプラズマ咽頭拭い液陰性、SARS-CoV-2のPCR陰性判明(医療従事者のため検査)
・数日以内で解熱して改善した
ガードを固めて、正しく恐れる
そして、いつもの風邪、肺炎診療の応用だ
すべての気道感染症に対してCOVID-19の可能性を考えて対応する
感染臓器
・発熱+α
-発熱+咽頭痛
-発熱+頭痛
-発熱+下痢・・・etc
・発熱+αがない
-尿路(腎盂腎炎、前立腺炎)
-肝・胆道系(肝炎、胆管炎)
-胸膜炎(膿胸含め)
-初期のカンピロバクター腸炎
-皮膚・軟部組織(蜂窩織炎、足壊疽)
-感染性心内膜炎、菌血症
-リケッチア、レプトスピラ、輸入感染症(マラリアなど)
・ウイルス性疾患
※ROSなど病歴をしっかりと訊くことが大前提
Modified Centor Score(細菌性咽頭炎)
・38℃以上の発熱 1点
・咳嗽なし 1点
・前頸部リンパ節腫脹・圧痛 1点
・滲出を伴う扁桃腫脹 1点
・年齢15歳未満 1点
・年齢45歳以上 -1点
RSAT(Rapid Streptococcal antigen test)陽性
まとめ
・COVID-19は症状のバリエーションに富んでおり、症状経過・所見など総合的な判断が必要
・疑ったら接触予防策+飛沫予防策が基本だが、すべての患者対応に標準予防策は必要
・発熱以外の+αからCOVID-19以外の疾患も考慮し、思考停止しない