GMカンファランス2019
第3回 国際医療福祉大学からの3症例 大平善之先生
26歳男性 右目とその周囲の痛み
・2日前の午後から右眼とその周囲の痛みが出現し、近医眼科では眼圧は正常であり、結膜炎の診断のもとに点眼薬を処方されたが改善しないため、当科を受診した。
・痛みは持続的で夜間覚醒と伴う。受診日の朝から悪心も出現した。光過敏や音過敏はない。
・既往歴、家族歴、生活歴に特記事項なし。
・体温36.7℃、血圧96/62mmHg、脈拍86/分
・右眼球結膜の充血を認め、右前額部に触れると深いな違和感を生じる
・頭頚部に皮疹、雑音や髄膜刺激徴候を認めない。眼球運動は正常。
キーワード
・右眼とその周囲の痛み 不快な違和感
↓(SQに置き換えると)
・片側 頭痛 異常感覚
翌日、三叉神経第1枝領域に皮疹
Hutchinson徴候あり
その後の経過
・直ちに開始した1週間のアシクロビル全身投与および眼軟膏により症候は改善した。
・受診前の結膜炎および受診時の悪心は、それぞれ帯状疱疹の眼圧上昇を含む眼合併症によると考えられる。
最終診断
・眼部帯状疱疹とそれに伴う眼合併症
眼部帯状疱疹Hwrpes Zoster ophthalmicus
・約50%で眼合併症を引き起こし、最多は結膜炎(結膜充血、眼痛、流涙など)
・ぶどう膜炎、網膜炎を来すと視力に影響することあり
・三叉神経第一枝領域の帯状疱疹で、鼻根部、鼻尖部に皮疹→眼合併症の頻度が高くなる(Hutchinson徴候)(眼科コンサルトを要する)
・角膜病変や失明の確率を減少させるため、早期発見・治療が必要
・帯状疱疹では、障害されたデルマトームに一致する皮膚異常感覚(dysesthesia or paresthesia)が皮疹に3~5日先行しうる
(参考)痛みに関する言葉の定義
(日本ペインクリニック学会用語集 改訂第4版)
・不快な異常感覚:dysesthesia
・不快ではない異常感覚:paresthesia
・通常、痛みを感じないしげきによって生じる痛み:allodynia
Take Home Massage
・皮膚異常感覚を伴う片側痛は、帯状疱疹を想起する
(質問)治療は帯状疱疹の皮疹が出るまで待つのか出てなくても
開始するのか
(回答)ケースバイケース。眼合併症があれば治療開始。胸部などは皮疹が出てから治療することも。皮疹が出たらすぐに受診、あるいは治療薬を処方して皮疹が出たら内服開始。
(生坂先生からコメント)三叉神経痛は第3枝領域に一番多い。帯状疱疹は第1枝領域に多い。
40歳女性 四肢のむくみと関節痛
・受診10日前に37℃台の微熱、頭痛があったが改善した。
・2日前の起床時に両手、両下腿のむくみを自覚し、1日前から37℃代の微熱、頭痛も伴うようになり受診した。
・両手は動かしにくく、動かすと痛みがある。既往歴に特記事項なし。
・約3週間前に2歳の子どもに感冒様症状があった。
・体温37.3℃
・両手指関節に自他動時痛を認める。
・顔面、四肢に明らかな皮疹は認めない。
キーワード
・手足 むくみ 手指の痛み
↓(SQに置き換えると)
・四肢 浮腫 多関節炎
関節炎の鑑別疾患
急性・多関節炎
・細菌性関節炎(感染性心内膜炎、淋菌性)
・ウイルス性
・慢性多発関節炎の初期
検査所見
・一般血液・生化学検査
WBC4800/µL、RBC372万/µL、Hb11.6g/dl、MCV95fl、血小板35.9万/µL、Fe54、フェリチン100ng/ml、CRP0.09
・自己抗体
C3 72mg/dL(86~160)、C4 9mg/dL(17~45)、補体価16.8CH50/ml(25.0~48.0)、抗核抗体陰性、抗CCP抗体陰性
・ウイルス抗体
ヒトパルボウイルスB19抗体 IgM陽性
その後の経過
・NSAIDsの内服による対症療法で、関節痛、四肢の浮腫、微熱は数日で改善し、指輪も容易に外せるようになった。
最終診断
成人ヒトパルボウイルスB19感染症
成人ヒトパルボウイルスB19感染症
・暴露後、約1週間でウイルス血症→発熱などの全身症状。17~18日後に皮疹、関節症状
・成人発症では顔面の皮疹を認めるのは20%以下
・成人では四肢の浮腫、関節痛などを認める場合が多い。手指、手、肘、足関節を対称性に侵す→関節症状が残存することあり
Take Home Massage
・四肢のむくみ・関節痛の鑑別にヒトパルボウイルスB19感染症を含める
(小児との接触)
63歳女性 四肢の脱力
・2か月前の或る日から両肩の痛みが出現し、寝返り、着換え、トイレの便座に座るのが難しくなった。
・1か月前から両手に力が入りにくくなったため、整形外科、膠原病内科を受診したが、原因不明であり、当科を紹介受診した。
・来院時には痛みはなく、四肢に力が入れないと訴える。症状は起床時に悪化を認める。
・既往歴、生活歴、家族歴に特記事項なし。
(患者さんの動画)
両上肢の挙上、立ち上がりが痛い
座る時に中腰で止まっている(筋力低下ではない)
筋痛があると、筋力低下はなくても、痛いので力が入らない(結果、脱力になる)
・体温36.8℃、血圧108/62mmHg、脈拍72/分、酸素飽和度99%
・両上肢の挙上、椅子からの立ち上がり及び立位からの座位へ体位変換が困難
・等尺性負荷運動では筋力低下を認めない
・上下肢の深部腱反射は亢進、減弱、左右差なし バビンスキー反射は陰性
尿検査および一般血液・生化学
尿検査異常なし
WBC11300、Hb10.5g/dl、血小板51.3万、血沈123mm/時、CRP8.54mg/dl、AST 14、ALT 14、γ-GTP 20、CK 53、BUN 11、血清Cr 0.59、Na 140、K 4.3、Cl 102
特殊検査
抗核抗体<40倍、抗CCP抗体<0.6、MPO-ANCA<1.0、PR3-ANCA<1.0、C3 182mg/dl(86~160)、C4 43mg/dl(17~45)、補体価81CH/ml(<0.5)、プロカルシトニン0.0038ng/ml(<0.5)
(プレドニンン15mg/日後の患者さんの動画)
その後の経過
・プレドニン15mg/日内服を開始したところ翌日には症状改善傾向となり、3日目にはほぼ発症前のADLに戻った。
最終診断
リウマチ性多発筋痛症
リウマチ性多発筋痛症
・50歳以上、特に70~80歳代に多い
・突然~急性発症の頸部、肩、臀部(四肢近位部)の著明な痛みとこわばり(特に朝のこわばりは高率)
・治療:プレドニゾロン10~15mg/日
・50歳以下、進行性の経過、朝のこわばりの欠如、少量プレドニゾロンが奏効しないなどの非典型例では、悪性腫瘍を含めた他疾患を考慮する
Take Home Massage
・脱力では「痛み」と鑑別する
・高齢者の急性発症の四肢近位部痛はリウマチ性多発筋痛症を想起する
(生坂先生からのコメンント)
日本の高齢女性は痛みを訴えないことがある。脱力さえ訴えないことがある。痛いんだけど言わない。痛みではなく、貧血・体重減少の精査で受診する。痛みを訴えないのに、湿布を貼っている。
(大平先生)
本症例も湿布を貼っていた。痛いかと訊くと、「気持ちがいいから」と答えた。
大平先生の、回答者に対する突っ込み方や答えの引き出し方は生坂先生にそっくりだった。今年は学会が軒並み延期・Web配信への切り替えになっている。GMカンファランスもなくなるかな。