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千葉大GMカンファランス2015
ちょっと古いが、また見なおした。症例2ではノンレム睡眠・レム睡眠の違いの説明から始まり、目からうろこのカンファランス。回答しているのは研修医なので、ズレた回答でも、生坂先生は極力褒めるようにしている。緑色は生坂先生の発言。
症例1 31歳男性 全身の筋肉痛様の症状
現病歴:
・1か月前から体の痛みを自覚していた。
・2日前(月曜日)起床時に全身の痛み(特に大腿と胸腹部)で近医に受診した。血液検査で異常なく帰宅
・前日(火曜日)トイレに起きた際、再度全身の痛みを自覚。痛みで動けず、救急車を要請した。ボルタレン50㎎を挿肛し、点滴を1本行ったところ動けるようになり帰宅。
・(水曜日)原因検索目的に当部紹介。
社会歴:妻と二人暮らし。2か月前に昇進。
嗜好歴:タバコ20本/日、機会飲酒
既往歴:特になし
内服歴:(健康食品も含めて)なし
ROS:食欲低下、体重減少(3か月で10Kg)
身体診察:
BT37.2℃、PR78回/分、BP123/60mmHg、SpO2 98%
身長172cm、体重85Kg、BMI28.7
頭頚部・胸腹部:異常所見なし
四肢:末梢動脈触知良好、浮腫なし
筋骨格系:異常所見なし
神経所見:正常範囲
血液・尿検査
WBC5200、Hb14.1g/dl、血小板23.3万、TP6.1g/dl、アルブミン3.7g.dl、AST26、ALT79、LDH175、ALP223、γ-GTP49、CK124、BUN18、Cr0.70、Na143、K4.2、Cl108、血糖103、HbA1c5.2%、CRP0.1、尿検査異常なし
VINDICATE+Pの中でも
SQ:発作性だと
↓
VAPES
V:Vascular
A:Allergy/Autoimmune
E:Endocrine-Metaolic/
Electrolyte/Environment
P:Psychiatric/Psychogenic
S:Seizure/Syncope
追加の問診
・日曜日の夕食はラーメンとチャーハンを食べ、妻が残したラーメンも食べた
・月曜日の朝、1回目の発作
・月曜日の夜、実家へ帰り、母の手料理を堪能
・火曜日の朝、2回目の発作で救急受診
・水曜日に当部受診
追加の検査
・TSH<0.003μU/ml(0.2-4.5)
・FT3 19.13pg/ml(2.2-4.3)
・FT4 2.81ng/ml(0.8-1.6)
・TR-Ab 4.6U/l(2.0未満)
発作性の病気
発作時は受診できないので、確認できない
失神、けいれんなど
誘発?
経口負荷試験
血清K低下→痛み・脱力
膝を曲げない
・膝関節痛
・脱力(筋力低下)があると、膝を屈曲できない
診断
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺
+甲状腺中毒性ミオパチー
周期性四肢麻痺
・反復性・発作性に四肢の弛緩性麻痺を来す疾患
・筋痛を伴うことがある
・病因は骨格筋膜における電解質チャネル異常
・血清カリウム低値型(甲状腺機能亢進症合併型または遺伝性)、および正常~高値型(遺伝性)
・本邦では青年男性例の甲状腺機能亢進症に伴う低カリウム性が多い(10万人に1人)
-アドレナリン↑やインスリン↑が誘因(激しい運動、ストレス、高炭水化物食)
-発作は暴飲暴食後の早朝に多い
-発作時にカリウム補充、発作予防にβブロッカーが有効
Take home masssage
・For Students:周期性四肢麻痺は、反復性・発作性に四肢の脱力を来す疾患。多くは低カリウム性で甲状腺機能亢進症に伴う。
・For Doctors:疼痛は筋力低下をマスクする(病歴、身体所見ともに)。甲状腺機能亢進症でも食欲低下を来す。
症例2 70歳男性 咳嗽、喀痰
A総合病院からの紹介状の内容
1.病的骨折
2.夜間の異常行動
3.帯状疱疹
4.ファムビルによる横紋筋融解症
5.舌潰瘍
6.咳と痰
7.大腿部腫瘤
(8か月前)
右大腿部腫瘤に気づいたが放置。
(4か月前)
皮膚科で帯状疱疹。ファムシクロビル内服翌朝から背部痛出現。横紋筋融解症(CK2万)、胸椎圧迫骨折でA総合病院整形外科入院。内服中止後CK正常化。
(3か月前)
舌潰瘍でB歯科大学病院紹介。舌左側に16ミリの潰瘍、細胞診でclassⅡ。
(2.5か月前)
起床時に左顎関節痛、その1週間後の起床時に右顎関節痛を自覚しB歯科大学病院紹介。両側下顎骨を骨折指摘。
(2か月前)
早朝、トイレから自室に戻らず別室で寝ていた。その後週1回程度、亜y館の異常行動を認める。
(1か月前)
睡眠時無呼吸症候群疑いにてC大学病院呼吸器内科紹介。
(2週間前)
咳、痰が出現。
(3日前)
呼吸器内科よりREM睡眠行動異常疑いにてC大学病院神経内科紹介。CRP13.9mg/dl判明。腰椎穿刺を予定されたが、咳・痰が悪化し、総合的精査目的に当部紹介。
社会歴・嗜好:妻と二人暮らし、子供二人は独立
タバコは5年前まで2箱/日、機会飲酒
既往歴:高血圧症、肺気腫、胃食道逆流症
常用薬:オルメテック20㎎、カルブロック16㎎、パリエット10㎎、スピリーバ吸入
ROS:下顎骨骨折で摂食困難となり8kg体重減少
身体所見:
・体温37.0℃、脈拍119/分、血圧13/75mmHg、呼吸数30回/分、SpO2 92%(室内気)
・BMI23.5(170㎝、68kg)
・顎関節を含め頭頚部異常なし
・左下肺野にcoarse crackles(+)、心雑音(-)
・腹部、背部異常なし
・右大腿に15cmのsoft mass
・外傷痕なし、四肢異常なし
・神経学的検査異常なし
・HDS-R 30点/30
検査所見:
WBC17500、Hb14.5g/dl、血小板30.6万、TP7.1、Alb3.7、AST14、ALT15、LDH213、APL71、γ-GTP21、CK21、BUN24、Cr1.16、Na143、K4.2、Cl108、Ca8.8、P2.6、血糖98、HbA1c4.9%、CRP13.9、尿検査異常なし
胸部X線:左下肺野背側に浸潤影(肺炎)、滴状心(肺気腫)、胸椎圧迫骨折
vertebral sign(正常では脊椎は下位ほど透過性が亢進するが、してない)から浸潤影を指摘できる
前医の特殊検査:
・骨密度:YAMの96%
・TRACP-5b(骨代謝マーカー):544mU/dl(170-590)
・蛋白分画、免疫電気泳動異常なし
妻からの情報
・2か月前、朝方トイレから寝室に戻らず、空き部屋で寝ていることで気づいた。本人は覚えていないとのこと。以来心配で同じ部屋で寝ている(いびきがひどいので別に寝ていた)。
・入眠後2~3時間して、突然呼吸が荒くなり、両手を動かしてもがく。1~2分で落ち着くが、そのあと必ずトイレに立つ。翌朝、これらの記憶はない。
睡眠時随伴症Parasomia
■レム睡眠異常
・レム無睡眠行動障害(RBD)
■ノンレム睡眠異常
・睡眠驚愕障害(夜驚症):小児
・睡眠時遊行症(夢遊病):小児
・錯乱性覚醒(眠剤、アルコール)
■ノンレム睡眠
・脳は完全休息→眼球運動なし
non-rapid eye movement
・筋肉はある程度動く
寝返りを打つため
ノンレム睡眠異常とは脳の覚醒の障害→覚えていない
■レム睡眠
・脳は覚醒に近い=夢を見ている
・眼球運動(+)
rapid eye movement
・筋肉は完全脱力
(脳が完全に覚醒して、動けない→金縛り)
レム睡眠行動異常は(ゼロになるはずの)筋力に、スイッチが入ってしまう→夢の中の通りに動いてしまう。また、行動を覚えている。
この症例ではレム睡眠行動異常では合わない
・2か月間の夜間行動をまったくおぼえていない
・入眠2~3時間後に起きている(レム睡眠睡眠異常は朝方が多い)
放射線科医がわからない時に考える4つの疾患 SALT
S:Sarcoidosis
A:AIDS
L:Lymphoma
T:Tuberculosis
下顎骨骨折はまれ それも両側!
・外傷の既往なし
・ビスホスホネート製剤の内服なし
・?
VINDICATE+P
SQ:発作性
↓
VAPES
妻に夜間の発作をビデオに録ってもらった→けいれん発作(てんかん)
妻の解釈
・びっくりしたけど、両手がうごいていたので脳梗塞ではないと思い、安心した(すぐに病院に連れて行こうとは思わなかった)
・”てんかん”は遺伝性の若い頃からの病気と思っていたので全く考えなかった
最終診断
てんかん(複雑部分発作)
多発性脳梗塞(症候性てんかん)
Terminology
けいれんseizure
・すべての発作
・運動発作convulsion
てんかんepilepsy
・けいれんを繰り返す場合
てんかんの分類
全般generalized
・大(大発作grand mal)
・小(小発作petit mal、欠神発作)
部分partial、focal
・単純(意識障害なし)
・複雑(意識障害あり)
睡眠関連てんかん
・てんかん発作の70%以上が睡眠中に起きる
・入眠後3時間以内と覚醒直前のノンレム期に多い
・覚えていない”寝ぼけ”はてんかんを鑑別する(小児では夢遊病や夜驚症)
前頭葉補足運動野の発作
・非対称性の強直発作
・フェンシング肢位
-焦点と逆方向に頸部と眼球を回旋(向反発作)
-体側の上肢を伸展、同毒の上肢を屈曲
-発声や間代性発作も伴う
紹介元の神経内科で施行した脳波検査は異常なし
治療
・テグレトール100㎎眠前内服
・夜間の異常行動、骨折、横紋筋融解症、舌潰瘍、肺炎の再発なし
最終診断(細かく言うと)
睡眠関連前頭葉てんかん
Take Home Massage
・For Students:外傷歴が明らかでない高度の筋骨格系障害(骨折、脱臼、横紋筋融解症)では、けいれん発作を鑑別する
・For Doctors:覚えていない”寝ぼけ”の鑑別に睡眠てんかんを含める
・部分発作は左右差のため、目撃者はてんかんだと思わない
壮年以降の睡眠時随伴症
■レム睡眠異常
・レム睡眠行動障害(RBD)
■ノンレム睡眠異常
・錯乱性覚醒(薬剤)
・睡眠関連てんかん
80歳代では(累積)3%でてんかん発作を繰り返している
てんかん
→行動異常
→多発骨折
→誤嚥性肺炎
→咬舌~舌潰瘍
→横紋筋融解症
臓器横断的、bio-psycho-socialに関連づける総合診療医の思考プロセス