10月に書いた「BBC BOOKS」を読んでくださった”ましゅまろさん”から、「THE HOUND OF THE BASKERVILLES のベネディクト・カンバーバッチによる序文」の後半も、というお声をいただきました。「え?私の和訳でいいの?いいの?!」と柴犬のように素直に尻尾を振って書き出したしましまです。
この本とは、サー・アーサー・コナン・ドイルの原書に、BBCテレビドラマ「シャーロック」のスタッフやキャストが1冊にひとりずつ序文を寄稿したシリーズです。序文は全4ページで前半2ページの和訳が過去記事に。後半2ページの英文はアマゾンさんの「クリックなか見検索」から読めます。
では後半は3ページ1行目、Holmes からですよ
「ホームズは後に自分自身を『犬の1種、そして狼ではない』と記述している。そして、匂いの追跡中には興奮しすぎた狩猟犬のようであるのと同時に、一方、彼は時おり221Bの暖炉辺で気怠く無気力だったり、憂鬱そうに白日夢にふける、イヌ科の習性の別の面を披露するのだ。人類の親友らしくなく、彼はしばしば溶解度7%のコカイン投与の助けを借りてそこにいたるのだけれど。
ホームズ聖典には、犬科はよく登場する。夜吠える犬や吠えない犬。『The Gloria Scott』で披露されるのは、大学在学中のホームズがブルテリアに噛まれて回復するのに10日もかかったという話だ!それからトビーという興味深い混血の犬がいる。忠実なスパニエルが半分、もう半分がラーチャーの血をひいている(と言うことはグレイハウンドが1/4とアイリッシュ・ウルフハウンドが1/4がということだよね? 集中するんだ、カンバーバッチ!)。ともかく、ラーチャーの血が濃く出ているスパニエル犬(それは逆だと思うんだけど・・・大きさではそれが優勢だけどね、この事例では)という考察はさておき、ホームズは「あえてトビーに助けをかりる、全ロンドン警察にではなく」という事実を考えてほしい。
しかしホームズ聖典には唯一の本当に重要な犬がいる。そしてそれはダートムアの霧中を不吉にも音もなく足早に歩く ーいにしえの呪いがバスカヴィル家を訪れたのだ!
僕はこの素晴らしいお話を最初は読んでもらったのを覚えている。先生にだったか、楽しませてくれるのがうまい僕の父にかだった。僕はそのゴースト・ストーリーの要素は本当に恐かったけれど、僕達のヒーローが不断の論理遂行によって迷信の蜘蛛の巣を吹き飛ばすのに元気づけられた感覚も覚えている。だが、待てよ! ドクター・ワトソンはダートムアに行かされたんだった ・・・ ひとりで! 僕達の新しいバージョンであるBBCのシャーロックでは、僕達はロケ地で数日間を過ごした。ロンドンから逃れ、この話のもうひとつの主役であるダートムアを発見するために。それは呆然とするような景色だった。うねる丘陵や谷が荒野に開けた尊厳に割り込んでいき、その眺めは太陽が沈み行く中どこまでもどこまでも続いているのだ。太陽が沈むと今度は、急に寒くなり風景はどういうわけかその姿を変え、まったく今までとは違う荒れ地となる。これが荒涼としながらも美しい、コナン・ドイルがみごとに岩の丘陵と霧の悪夢の風景に変えた地だ。物音が近づいてくる。君の胸は締めつけられる。手を伸ばしても届かない闇の向こうには何が横たわっているんだろうという恐怖で。そして今度は彼方の遠吠え・・・その痛みと絶望にぞっとするような。飢餓の叫び、復讐に燃えた野獣!
というわけで、もし君が初めてなら、ようこそ、そしてページを繰ると君を待っているスリルが羨ましいな。もし古い友のところに戻って来るようにこの本を読み返すというのなら、君の時間をとらせたことを許してよね! 紳士淑女の皆さん、最も著名で、愛されていて、恐ろしくてシャーロックホームズの事件の趣に満ちた「The Hound of the Baskervilles」でございます。
これでよかった? もう1回やってもいい? どういう意味だい、撮影のようにはいかないって・・・?
Oh!
ベネディクト・カンバーバッチ 」
以上です!
最後の「Oh!」は、皆さん、シャーロックの声と抑揚で読まれたことでしょう!
・・・実はこの本、この序文が載っているので、ベネディクト来日の成田に持って行った本なのです。もしもチャンスがあったら、この序文のところにサインをしてもらいたいな~って! いえ、それは、来日の記事に書いたとおり、叶わぬ夢だったんですけど。
12/18追記:訳への注釈・コメントは文中では邪魔なのでこちらにまとめて
*人類の親友(man's best friend)「犬は人類の良き友」とはよく聞きますね。
*トビー(Toby)は「四つの署名The Sign Of Four」に出てきました。ラーチャー/lurcherとは犬種ではなく混血の密猟(純血種を使う貴族に対して)に使うための犬としてイギリスとアイルランドで発達したタイプの総称です。ベネディクトが書いた2種の他にもブルテリア、コリー、ジャーマン・シェパード、レトリバー等とのクロスもあります。他の雑種犬と違うのは、ラーチャーは狩猟に合わせて意図的に人間が改良したという点です。
狩猟は動物愛護の精神と矛盾、もめてる昨今ですけど、狩猟犬ラーチャーはイギリス&アイルランドで愛されているのがカレンダーが数種発行されていることからもわかります。雑種とも純血種とも違うなんともいえない可愛さです!