Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

NTLive オセロ 感想

2014-12-15 16:48:00 | その他の映画・ドラマ・舞台
今年、ベネディクト・カンバーバッチの「フランケンシュタイン」で始まったナショナル・シアター・ライブもいよいよ最後の演目「オセロ」となりました。舞台と言えばバレエとミュージカルしか興味のなかった私が、全部見ました。自分でも驚いています。

なぜ全部?それは来年の8月にたぶん見る「ハムレット」があるからです。チケット完売後に婚約発表なんて事態になりましたけれど、胸やぶれたコレクティブですけれども、久しぶりにロンドンに帰るいいきっかけだし、どうせ世界で1番求められたチケットを手にするならば、その作品を多角的に見られるように他の舞台も見ておいた方がいいと思ったのです。

シェイクスピアも3つも入ってました。イギリスの映画やドラマに引用される率ナンバー1のシェイクスピアの一流の舞台を見るチャンスでしたから。昔、娘のヴァイオリンの先生が言ってました。「本物だけを聴くといい演奏と下手な演奏の区別がつきますよ。」これが舞台鑑賞にも当てはまると勝手に思いましたですよ!



あらすじ:

舞台はヴェニスの軍隊、時代は現代。黒人の将軍のオセロは、若くて美人の白人奥さんデズデモーナと新婚。オセロの部下イアーゴーは自分が評価されないことに逆恨みを抱き、デズデモーナが不倫をしているとオセロに思い込ませ、オセロに奥さんを殺させてしまう。


キャスト&スタッフ:

「オセロ」の第一印象はNTライブシリーズで一つ前の「ハムレット」と似ている!と思ったら、俳優ロリー・キニアだけでなく同じ監督・デザイナーでした。

この舞台、この主要キャスト3人がそれぞれはまり役でした。

オセロ役はエイドリアン・レスター、私は初めて見ましたが、勲章(将校/OBE)を授与された俳優で、同じランクの人にはヒュー・ローリー、JKローリング、野田秀樹や吉田都など日本人もいます。つまり、成功している大御所俳優なんですね。そこがオセロに必要な威厳のある存在感にぴったり。

ロリー・キニア演じるイアーゴーはオバカな友人や同僚をダシにしてあたかもデズデモーナが浮気しているかのように工作します。オセロには忠実な部下のふりをし、同僚には虚勢をはっています。ロリーはテノールぽい声を張り上げることが多く、軍人として上にいる人間だと主張しているようです。

オセロの妻デズデモーナ役は、見覚えあると思ったら二つ前の「リア王」で三女の役だったOlivia Vinallという、プラチナ・ブロンドに可憐な瞳の乙女役にぴったりの女優さん。

この戯曲のテーマは「嫉妬」だと公式パンフレットの解説に書いてあります。愛する妻を殺して自分も自害するほどの悲劇を引き起こしたのは「待機中の軍隊という閉ざされた世界」と。

確かに狭い世界ではちょっとしたことも大きく気になるものです。いったんその考えに捕われたら、他に目を向ける対象がないので、そのことで頭がいっぱいになってしまいますよね。うん、それはわかる、でも・・・・

私が「あああ!」と感情移入してしまったのは、ベッドで奥さんを殺してしまうオセロが、それはそれは奥さんを愛してる様子を見せた時でした。

軍の将軍と言ったらかなりの高官です。ヴェニスといったら、保守的なイタリアの中では自由な都市国家だったからムーア人という有色人種でありながらもその地位につけただろう、とシェイクスピアは設定したかもしれません。でもヨーロッパでは今でも有色人種が白人組織で出世するのは少ないです。つまりオセロは軍で相当の功績がある強者で、将軍という地位から考えて年齢は若くても40代。白人社会で相当な苦労をしていることは、娘を嫁にとられた奥さんの父親の怒りよう、嘆きようからわかります。人間だと認められてないくらいです。

そんな彼が、若くて奇麗な箱入り娘のお嬢さんに愛されて結婚できたんです。だから、イアーゴーの罠にかかってしまったんだと思います。閉鎖的な部隊やトルコの暑い風土も理性を狂わせるけれども、オセロの場合は特殊で、有色人種である劣等感の方が大きくないか。彼女に愛されることで幸福ながらも、自分を何10年間も虐げてきた白人社会の権化のような色白の奥さんに、自分が愛されているという自信がなかったのではないかな。

だから、ものすごく愛してるのに、自分を愛さないと思った奥さんを、泣きながら子猫の首をひねるように殺してしまう。そして死んでしまったと、また泣く。その時の奥さんをなでる仕草が悲しくて悲しくてたまりませんでした。それまでは、劇を見ながらイアーゴーの策略なんかにひっかかるなんてバカな将軍だな、と思いながら見ていたのですけど、あのぐずれるオセロを見た瞬間、愛すべき人間の愚かさを見たと思いました。

いくらシェイクスピアが天才でも、ヨーロッパの上層部に生きる有色人種の心理までわかっていたのかどうかは謎です。むしろ450年前に黒人の将軍を登場させたところからして斜め上を行っていたのですね。

ロリー・キニアの狡猾ぶりもうまかったのですけれど、ダウントン・アビーのトーマスほどには憎らしくないのは、つい「カムバック!」のダサかわいい姿を思い出しちゃったからかなあ。ロリーの演技を賞賛する方々には申し訳ないとは思っています。




ナショナル・シアター・ライブ、まだ来年の話は何も見かけませんが、今年のチケットは売れたのでしょうか。私が行った劇場は六本木と日本橋のTOHOシネマズでしたがどの作品も7割以上は席が埋まっていたと思います。特にベネディクトとトムヒの時は満席に近かった♪

シェイクスピアのような正統派も、それから「夜中に犬に起こった奇妙な事件」や「ピーター&アリス」などの新しい作品も見たいので、また来年に期待します。ぜひよろしくお願いします!