HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

安藤忠雄とDCブランド。

2008-04-12 16:49:35 | Weblog
 表参道ヒルズの設計で一躍その名が知られるようになった建築家の安藤忠雄氏。いわゆる“コンクリート打ちっ放し”という粗野なスタイルが同氏の特徴だが、無駄がなく隅々まで計算つくされた構造美は、まさに総合芸術として日本より海外の方で評価が高かった。
 だが、それ以前から同氏がファッション業界と深いつながりをもつのは、あまり知られていない。80年代初頭のDC (デザイナー・キャラクター)ブランド全盛時代、30年近く前の話である。 安藤氏はこの頃にメーカーのアトリエやオフィスビルの設計を数多く手がけているのだ。
 場所は表参道と同じ同潤会のアパートがあった代官山。今は再開発され、バブリーな観光地へと変貌してしまったが、80年以前は緑が多く、閑静な住宅街だった。山の手というロケーションで教会や大使館もあり、どことなくあか抜けたイメージからDCブランドの雄、ビギが本社を構えたのである。
 旧山手通り沿いには同社の本社をはじめ、ディ・グレース、キャトル・セゾン、BMD、P3などの関連会社が集まり、コンクリート打ちっ放しのアトリエやオフィスはどれも安藤氏が設計。ブランドによっては直営店の内装にもそのイメージが踏襲されていた。
 ビギの代表、大楠祐二氏の邸宅も安藤氏によるもので、東京・世田谷等々力にある冠木(かぶき)門を思わせる変わった門構えの家は、門の中央にはアルファベットでOKUSUとだけ刻まれ、窓がほとんどない要塞のような建物である。
 では、なぜビギが安藤氏を起用したか。ひとつはその服づくりがデザイナーによる考え抜かれた構築的なもので、それらを生み出し発信するベースは、極限まで無駄を排したものでなければならなかったからだ。つまり、同氏のコンクリート打ちっ放しは、DCブランドの服を際立たせる最高の舞台装置だったわけである。
 もうひとつは大楠代表の力がある。同氏は類いまれな感覚をもったデザイナー菊池武夫を発掘した。才能を見抜く力という点ではずば抜けていただけに、当時30代後半で血気盛んな建築家を見逃すはずがない。ファッション業界でビギは菊池氏が基礎を築き、大楠氏が発展・躍進させたと言われているが、そこに安藤氏の存在があったことも知っておくべきである。
 翻って現在はどうだろう。多くのブランドメーカーは賃貸オフィスで、ショップは木を主体にしたスタイルに変わっている。 セレクトショップは重厚で高級感あるものか、ナチュラルで気取らないルーム感覚。ギャル系は黒やビビッドな色を基調としたクラブのような内装である。
 店づくりについてはかなり手が込んでいるが、置いている商品はチープでカジュアルなアイテムばかり。どの店も似たり寄ったりで、オーラを感じるところは少ない。店を持たずに商品を売れるネット販売がそれに拍車をかける。
 そんな時代でも、ブランドを持ちたい、店を出したい、という声は多い。だが、安藤氏と大楠氏がDCブランドをブレイクさせたように、才能と才能を見抜く力なしでは新しいムーブメントは起こせない。DCブランドはマーケットにすり寄らないデザイナーの独創性の上に成り立った。安藤氏のコンクリート打ちっ放しも建築界の常識をうち破った。能力のある異端こそ、新たな時代を作るわけで、今のファッション業界にいちばん待ち望まれることではないだろうか…続く。
コメント
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