HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

卒業制作にビジネス企画は要らない。

2012-02-13 18:25:37 | Weblog
 2月となれば、専門学校では卒業作制作の発表会が目白押し。筆者にも時々、審査依頼が舞い込んでくる。最近やたらと増えているのが、プレゼンテーション形式の発表だ。パワーポイントを使って企画書を作り、コンセプトからビジネス展開まで、ご丁寧に説明してくれる。
 ただ、審査を行なう上で、これが逆に厄介である。単に作品のレベルを評価するだけなら楽だ。問題点を指摘したり、技術面でアドバイスしたり、出来が良ければ素直に褒めて上げればいいからである。
 しかし、マーケティングやビジネスを語られると、どうしてもプロの理屈に照らして見ていかなければならない。「これがファッション市場の現状です」なんて説明されても、所詮、学生目線でしか調査しておらず、客観性を欠く。また、「ポスターは街中に張ります」「ブランドショップを出店します」と平気で盛り込んでいるが、どれくらいの資金を要し、どう回収するかといった収支面が語られることはほとんどない。

 ある学校の卒業制作でこんな経験をした。ファッションビジネス学科の学生が「オリジナルスニーカーを作ります」という企画をプレゼンした。企画書には定石通り、意図、背景、ターゲット、価格、販路がまとめられ、イラストレーターで作成したデザイン画も添付された。ここまでは別に悪くはないのだが、価格を「ヤングが買える1万円前後」と設定している割に、コスト計算が全くされていないのだ。
 オリジナルスニーカーと言っても、基本は靴を製造するわけだから「木型」が不可欠である。学生によると「フォルムのオリジナリティが決め手」だそうだから、納得いくデザインになるまで何度も修正が必要になる。この木型制作費が高いのだから、その分のコストを価格に乗せなければ、ペイしない。
 ところが、その説明が全くされていない。おそらく木型すら理解していないのかもしれない。ナイキのように量産すれば、価格の範囲内でコスト吸収は不可能ではないが、それでは学生が意図するレアなスニーカーにはならない。 コンバースをダブルネームで企画するのと同じ次元なのだ。

 一方、カフェ学科で教えている知り合いが、先日、こんなことを話してくれた。真面目で成績もよく、留学経験もあって英語も喋れる学生が、スターバックスの社員募集に応募。ところが、全く関係ない学部の大学生が採用され、本人は不採用。 とても納得いかない様子だったという。
 ただ、ここにも認識の甘さがある。グローバル企業のスターバックスが求めるのは、カフェビジネスの経営に携われる人間で、 コーヒーの入れ方の巧拙ではない。 極論すればMBA資格さえ必要かもしれない。
 そんなことすらよくわかっていない専門学校生が企画でビジネスの領域に踏み込むと、中途半端になるは目に見えている。学生だから大目に見てくれ。それは筋が違うと思う。
 業界が学生に求めるスキルは、基礎をどれだけマスターして、それを生かした作品を作り上げているか。だから、プレゼンするなら「見やすいレイアウトを心がけました」とか、「襟付け、袖付けには自信があります」なんて力を入れた点を強調してほしい。

 業界に入れば嫌というほど、現実を見せつけられる。そして理想とのギャップを知り、もがき苦しまなければならない。実体験のない専門学校生のビジネス企画なんて、机上の空論にすら遠く及ばないのである。
コメント
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