HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ファストファッションの定義を明確にすべし。

2012-04-03 18:37:34 | Weblog
 4月2日、ダイヤモンド社の総合ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」に「最後の大型ブランドが上陸 ファストファッション戦争再燃か」と題した記事が掲載された。

 この中で、ダイヤモンド編集部の記者は日本上陸を果たした「低価格衣料ブランド」が、すべてファストファッションかのように語っているが、大きな間違いである。正確に言うなら、これらは外資系SPAという括りはできるが、商品内容やターゲット、価格戦略などでは微妙に異なるので、同じ土俵で語ることはできない。
 もし、この記事がネタ不足の中で無理矢理仕立てられたものとすれば言語道断だが、経済誌の記者として基本的な認識不足なら、もっとファッションを勉強して論述していただきたい。
 一般紙誌でも、外資系SPAの出店ラッシュを報道する時、読者に切り口をわかりやすくするためだろうか、「ファストファッション○○」と一括りにする傾向がある。これも一般大衆の誤解を招き、はてはWikipediaにまで間違った語釈が掲載されている。

 ここはファストファッションの正しい定義をしておこう。ファストとは、文字通り「速い」である。つまり、店頭に「素早く新しい商品を並べる」ことだ。そうすれば、お客がいつ店を訪れても売場の鮮度は高く、商品を買う気にさせる。またトレンドを押さえ、お客の嗜好=マーケットに合わせるにはスピードが欠かせない。当然、商品が売れると新しい商品を並べられるので、売場の鮮度が高まるという好循環になる。
  ファッションビジネスの基本原理として、店頭在庫をロスなく(マークダウンやセールで消化するのではなく)売り切るには、なるべく多品種少量の在庫で商品にトレンド変化を付ければ良いと言われる。商品投入のスピードを上げれば、それが可能になるのである。

 次に、売場に素早く商品を投入するには、商品の企画生産に時間をかけられない。自社でデザイン&パターン、提携工場で縫製をやっていると、そのうちにトレンドが変わりシーズンが終わってしまう。
 だから複数のアパレル生産業者や商社にアウトソーシングして、企画頻度を上げながらスピードアップを図っていく。海外生産が当たり前になった今日、その手法は生産のみを外注するOEM(Original Equipment Manufacturing)、デザイン企画までも依存するODM(- Design -)とある。
 ただ、生産ロットが小さいと開発スタッフの人件費などが嵩み、価格は割高になるから素資材や縫製などでコストダウンを図るのだ。結果として、高い完成度やクオリティは望めないが、安価なトレンド商品を生み出すことはできるわけである。

 つまり、ファストファッションとは「トレンドデザインに特化し、品質と開発期間を圧縮して、低価格と鮮度を実現したもの」ということになる。それゆえ、ベーシックなアイテムを自社企画し、時間をかけて売り減らしていくギャップやユニクロは、ファストファッションには入らない。
 定番のジーンズが8000円以上するギャップは、低価格衣料でもないだろう。なおさらその弟ブランドのオールドネイビーは、ギャップの派生型で価格帯のみを下げたのだから、ファストには当たらない。
 ザラは適度なモード感はもつが、トレンド商品が次々と投入されるわけではなく、何より自社企画で高い品質を維持している点では、ファストの範疇には入らないというのが筆者の見方である。
 
 まして、ポロシャツ1枚が1万円以上するアバクロンビー&フィッチがファストファッションに当たるはずがない。こうした国内&外資系SPAを十把一絡げにファストファッションとして論じるのは、あまりに短絡過ぎないだろうか。
 むしろ、ファストファッションを切り口にするなら、H&Mやフォーエバー21といった外資と、迎え撃つしまむら、後発のアズール・バイ・マウジー、フリーズマートなどの国内勢との対立軸で論じる方が的確だろう。
 また、東京銀座のファッショウォーズにスポットを当てるとすれば、ファッション市場が成熟の領域に達している日本だからこそ、いろんなマーケットチャンスを狙って国内勢や外資が業態開発や進出にしのぎを削るという論調なら理解できる。
 
 経済誌が一般読者への理解を促すためにワイドショー的な括りで論じると、かえって誤解を招いてしまう。何より、ベーシックなデザインとモデレートな価格帯で日本市場の攻略を目指す新参外資にとって、日本のメディアにファストファッションと定義されることが一番心外なはずである。
コメント
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