HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

どの大統領候補がモードのセールスマン足るか。

2012-04-06 20:15:11 | Weblog

 ユーロ危機や不法移民問題、そして大統領選挙。この春のパリは例年になく騒がしい。特に大統領選の結果如何でフランスの経済政策は転換し、企業活動への影響は避けられない。
 3月末の世論調査における予想得票率は、最大野党・社会党のフランソワ・オランドが28.5%でトップ。それを現職のニコラ・ラルコジが27.5%で追い上げている。4月22日の第1回投票の結果次第で、オランドとサルコジの決戦投票になる公算が高い。問題は大統領が決まった後、フランスの政治経済やユーロ圏におけるポジションがどう変わるかである。

 先日、パリ在住のアパレル関係者にメールで尋ねたところ、返事が来た。
 「VATを引き上げるサルコジと金持ちへの増税を進めるオランドの対立。メディアは争点がわかりやすいと言っているけど、正直どっちが良いかはわからない。元々高いVATがさらに上がると、もっとモノが売れなくなるかもしれないし。それでなくても値段が安い海外製品が入ってきているのだから。逆に金持ちへの増税は必ず海外移住などの抜け道をつくる。でも、米国ではオバマがVATを導入するなんて言ってるし。こちらもやってみないとわからないだろう」

 VATとは付加価値税のこと。日本の消費税に当たる。しかし、フランスGDP実質成長率は12年第1四半期で-0.1%と悪化。失業者は280万人を超え、失業率は10%近い過去12年間で最悪の数字だ。なのにサルコジは増税するというのだから、景気回復への展望など見えるわけがない。どこかの政府と似た政策である。
 また、produire en France(フランス国内で生産しよう)も提唱するが、国際分業でコスト・パフォーマンスの良い商品が流入してフランス人の購買力を上げたのも事実。今さらproduire en Franceなんて言ったところで、所詮、国民の愛国心をくすぐる選挙戦術に過ぎないのは、誰が見てもわかる。

 一方、オランドが公約に掲げる金持ちへの増税は、年間所得が100万ユーロ以上の場合、100万ユーロ超過分に75%を課税するもの。例えば、年間120万ユーロを稼ぐサッカー選手なら、課税額は超過分を合わせて約58万ユーロにも達し、年俸の約半分を税金で持っていかれる。これにはかなりの反発がある。
 また、年金支給年齢を62歳から60歳への引き下げると提唱しながら、国の財政赤字をEUの上限基準であるGDP3%未満にまで縮小すると言うのも整合性を欠く。財政赤字は国の成長力で解消したい上げ潮派だろうが、元会計検査官としての理詰め通りにフランス経済が動くと考えるのはあまりに楽観的だ。
 サルコジ、オランドのどちらの政策も一長一短。無党派のアパレル関係者は、投票を決めかねているというのが正直なところのようだ。

 フランスのアパレル産業を客観的に見ると、ユーロ体制によって貿易の自由化は図られたものの、安価な海外製品がどんどん入って来た結果、零細のアパレルが廃れていったのも事実だ。中堅メーカーでさえ、ユーロ圏以外の東欧や中近東に生産を委託し、何とか競争力を保っているのが現状だ。
 「政府も安い輸入品に対抗できるような国内産業の再生を怠ってきたしね」と、このアパレル関係者は語るが、結局、自国の経済停滞は貿易収支が赤字になったことが原因と見ている。

 EU発足後に通貨の大幅な変動防止を旗印に導入されたユーロだったが、それで各国別の産業政策が疎かになったのは言うまでもない。地域や経済、通貨は統合されても、国内産業の保護は政府の役目だ。当然、倒産によって雇用が失われれば、財政負担が増えていくのは当たり前である。
 ただ、アパレルのような産業がすべてを国内で行なう時代はとうの昔に終わっている。企画デザインやMDの設計は別として、縫製以降はすべてアウトソーシングである。
 つまり、国際分業が当たり前の今日、Nos emplettes sont nos emplois(フランス製を買うことは雇用に繋がる)なんてのは、幻想に過ぎないのである。とすれば、新政権はユーロ安による貿易拡大で収支の赤字を解消し、まず財政再建から手をつけなければならないのは自明の理だ。

 アパレル産業もユーロ安ならラグジュアリーブランドの輸出は促進されるだろうし、さらに中価格帯を得意とするメーカーは、モード感性を武器にして世界中からOEMやODMを受けても良いのではないか。フランスの企画やデザインのみが世界中に切り売りされれば、ベーシック一辺倒のグルーバルSPAも少しは目を覚ますかもしれない。
 タイムラグの問題は、ITを駆使すれば十分解決できる。トレンド変化も雑誌のパリ特集を見る限り、20年前のものさえ古く感じないから、とるに足りないだろう。やはりフランスは文化などのソフトパワー、デザイン感性で勝負するしかないのだ。

 EV(電気自動車)が普及すればどんな小さな自動車メーカーでも、簡単にクルマが作れると言われる。プラモデルの世界が現実になるわけだから、シトロエンの優美なボディだけ輸出しても、それはそれでビジネスになるかもしれないということ。事例が適切ではないかもしれないが、そんなイメージである。
 グローバル経済、国際分業が当たり前の中で、最終的な完成品だけで競争になるはずがない。ソフトや感性といった付加価値でもいかに外貨を稼ぐか。ユーロ危機を迎えている中で、新政権には厳しい舵取りが求められるが、アパレル産業界にも新たな取り組みが必要だと思う。
 最後にこれは日本人の荒唐無稽なアイデアではなく、フランス文化に敬意を表する上での意見、考えであることをご理解いただきたい。
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