HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

郊外SC=アメカジ、ファミリーの定石をくつがえせるか。

2013-09-19 12:07:57 | Weblog
 先月、ネットに「地方の若者はなぜ『イオンモールを目指す?』というタイトルの記事が掲載された。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130804-11300029-webhon-ent

 そこには、山内マリコ氏の小説「ここは退屈迎えに来て」から、「ファスト風土」として地方の風景が描写されていた。それが以下である。「ブックオフ、ハードオフ、モードオフ、TSUTAYAとワンセットになった書店、東京靴流通センター、洋服の青山、紳士服はるやま、ユニクロ、しまむら、西松屋、スタジオアリス、ゲオ、ダイソー、ニトリ、コメリ、コジマ、ココス、ガスト、ビッグボーイ、ドン・キホーテ、マクドナルド、スターバックス、マックスバリュ、パチンコ屋、スーパー銭湯、アピタ、そしてジャスコ。」

 全国津々浦々の地方都市で、ステレオタイプのショップ羅列になってきている。これはすでに多くの流通関係者が感じていることだろう。さらにその背景や理由についても、作家先生よりは正確かつ詳細に分析しているはずである。日本の郊外マーケットは、バブルが弾けた90年代半ばに脚光を浴び始めた。洋服の青山などの紳士服量販店が安さを武器に一気呵成に出て、それとリンクするように専門店もロードサイドへの出店を加速した。その中にはユニクロもあった。

 一方、流通システムでは自国が一番と言ってはばからない米国は、「円高は日本が内需を拡大しないせいだ」とへ理屈をこいて、大規模小売店法の改正に踏み切らせた。これがCSCやRSCといったショッピングセンター、ディスカウントストアの開発に弾みをつけさせた。ある意味、米国の外圧によって、日本の郊外マーケットを開発されたと言ってもいいだろう。その手先となった企業がジャスコ、今のイオンではないだろうか。

 ところが、労働力となる若者は、まだ東京を目指していた。仕事=ファッション=都会という図式が地方の若者には根強かったからだ。それを助長したのが裏原ファッションの台頭だろう。Macでデザインしたフラットなパターン、ロゴマークがついたカットソーや裏毛のトレーナー、ファッション雑誌がタイアップ記事を掲載。たちまち全国にブランド情報が伝播し、販売日には早朝から若者が集まり、長打の列を作る。
 
 しかし、裏原ブームの終焉、さらにネット通販が登場して、若者の消費構造は完全に変わる。それ以上に産業構造の変化や能力格差が地方の若者を襲った。昔のように高校や大学を卒業しても、地方には安定した雇用がない。かといって上京しても正規社員として採用されるケースは少ない。地方でも都会でも非正規雇用が主流になる中で、ファッションだのクルマだのに消費意欲をかき立てられる時代ではなくなったのだ。

 上京しても正社員になれなければ、たとえ雇用に恵まれても生活のリスクが伴う。そうであれば親元で暮らした方がたとえ非正規でも、生活は安定すると考えるのは不思議ではない。例えば、現在、地方で唯一大量雇用の場となっているのは、自動車や家電、情報機器の部品工場。ここも親会社や発注元のサプライチェーンに組み込まれているわけだから、製品の売上げ状況で生産調整に入らなければならない。そのリスクヘッジとしてスタッフを派遣社員で賄うのが当たり前になっている。

 ここでは都会で夢破れ帰郷したものや、地方の企業が倒産し解雇されたものが働いている。こうした層は自宅があり、両親や祖父母が健在であれば、我が子可愛さから「頑張って社員を目指すか。他のチャンスを待つか。ぼちぼちやんなさい」って庇護されがちだ。これも地方独特の社会構造なのだから、否定するつもりはない。当の本人たちも「厳しいビジネスシステムの中で、働かされるよりも今の方がましだ」と思うと、気分的にゆとりが出てくる。それが一定量になれば、マーケットになるということである。



 こうした「しょうがない。でいいか」って層は、イオンモールや郊外店の格好のターゲットになると言える。モールやロードサイドには衣食住+生活サービスのカテゴリーがほぼ揃っている。テナントやショップの商品は、一定以上の感性レベルをキープしている。吉祥寺に行く度にカレー用のスパイスやフォーションの紅茶を買った「カルディコーヒーファーム」が、今はイオンモール鹿児島にもあるのだ。こだわる人間にとって全く不便はないのだから、彼らにはなおさらのことだろう。

 ファッションについては、ナショナルチェーンがほぼ出揃っている。レディスについてはクオリティを除けば、感度、テイストとも幅広い。でも、メンズはアメカジが主流で、今後もオールドネイビーやアメリカンイーグル、ホリスターが控えており、同系テイストには事欠かない。モード感のあるものは、大人向けのザラ、TKタケオキクチ、アズールバイマウジーと、ブランド力をもつテナントは少ない。それほどのマーケット規模はないからと、開発に二の足を踏んできたと思える。

 ところが、ここにきて変化が生まれている。郊外マーケットに手応えを感じたデザイナーズ系のメンズアパレルが、SC向け業態の開発に力を入れ始めたのである。Men’s Bigiの「ユニオンステーション」は、シルエットやサイズを完全に若者狙いにシフト。バッグや小物も充実させ、30代以上の攻略も狙う。Nicoleは「ハイダウェイ」で、郊外のデザイナーズ市場の開拓を進める。店舗には玩具や小物も置いているため、父親狙いだ。PAZZOの「リクエスト」も、まだ2店舗ながら、今後は増えていく可能性は高い。

 従来のSCには、お兄系のおとうさんが好むショップや商品がなかっただけに、郊外マーケットが一定量に達した今では差別化戦略として有効かもしれない。裏を返せば、ビギにしても、ニコルにしても、都心のビルインで販売効率を上げていくのは難しいということだろうか。それが郊外なら店舗スペースに余裕があり、MDでも冒険ができると踏んだのだろう。あとはどこまでリピーターを増やし、郊外にブランド力を浸透させられるかである。

 でも、かつてのDC世代としては、クオリティや感度の面でやはり満足はできない。かといって都市部でも、それらを十二分に備えるブランドや新業態が生まれる雰囲気はない。やはり海外から持ってこないと無理だろう。都会からも郊外からも外れている人間のファッションライフは、しばらく続きそうである。

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