HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

日持ちを伸ばしてブランドか。

2014-02-02 18:25:02 | Weblog
 先日、約1年ぶりに博多の老舗菓子舖「IMD」社のIZ社長とお会いする機会をもった。そこで興味深いお話を聞くことができた。

 博多のお菓子は全国的に名前が通ったものが少なくない。古くから愛される「鶴乃子」「ひよこ」「千鳥饅頭」、最近人気が上がっている「博多通りもん」などだ。筆者も子供のころからほとんどのブランドを食べた経験をもつ。

 これらは「土産菓子」として駅や空港、高速のPAといったお土産店で売上げを伸ばし、ブランド力をつけていった歴史的背景をもつ。

 ところが、最近はお土産店の売場でなるべくスペースを確保することが、販売効率を上げ、そのまま売上げにつながるようになってきたという。つまり、菓子業界全体が激しい生存競争に勝ち残るために、「日持ちのするお菓子」に走ろうとしているのだそうだ。

 例えば、饅頭系なら40日、あんこを使ったものでも10日から2週間といった感じ。お土産店側にすると、店頭に日持ちのする商品を山積みすれば、露出が増えて訴求力も高まり、高回転して機会ロスも抑えられる。当然、それは収益につながるのである。

 近年、年間で40億円も売上げを誇る某大ヒットの菓子は、日本人はもとより、中国、韓国のお客さんまでが買って帰っている。言われてみれば、売場にも他社のものより在庫は多く積まれている感じだ。ゆえにロス率はゼロに近いかもしれない。それを考えるとこの方法に行きつくのは、わからないでもない。

 しかし、焼き菓子のようなものならともかく、40日もたった饅頭が美味いはずがない。以前、三重の赤福は本店では賞味期限2日の商品を、お土産店向けでは一旦回収して冷凍し、再び出荷したことが問題となった。これを食って美味いと感じる人間の舌は、いったいどんな神経なのだろうか。

 IZ社長は、「営業サイドがお土産店の売場を取り、取引先が売りやすくするがあまりに、菓子屋が美味しさを犠牲にするようになっている。でも、うちが100年以上もやってこれたのは、お客様に美味しいと言ってもらえるお菓子を作り付けてきたから。TKが売れ続けているのが何よりの証拠だ」と仰った。

 老舗、銘菓と呼ばれる商品は得てして、日持ちが短いものだ。新鮮だから美味しいのである。伝統の技と味はこうして守られてきたのである。とは言え、経営者としては「マーケットの現状もあるのだから、日持ちのするお菓子も開発していかないといけないだろう」と、IZ社長は仰った。

 この話を聞いていて、そのままファッション業界のブランドにも通じると思った。それはヒット商品が先か、ブランドが先かということにもなるが。どちらにせよ、売上げ効率を上げたい商品は「日持ち=ベーシック」に収まり易いと言うことだ。

 勘のいい業界諸兄なら、何を言いたいかおわかりであろう。「店頭に日持ちのする商品を山積みすれば、露出が増えて訴求力も高まり、高回転して機会ロスも抑えられる。当然、それは収益につながる」。それはまさにユニクロやギャップのもの作り、販売手法に共通するということだ。

 言い換えれば、シーズン毎にトレンドを打ち出せば、それはお客の好き嫌いに左右され、鮮度も短くなる。当然、山積みはできないし訴求力も弱く、高回転などあり得ない。パリコレに登場するメゾン系やデザイナーが作るようなブランドがそうだろう。

 でも、伝統の技も味わいをもたず、ただ日持ち優先の工業製品的な商品が、どこまでファッションの歴史を刻むことができるのだろうか。洋服の原点でもあるヨーロッパのブランドなら、歴史があって当然じゃんかと言われるかもしれない。ギャップと言っても高々40年、ユニクロは20年だから、比較しても意味がないという意見もあるだろう。

 しかし、日本だって明治以降、150年近くも洋服を着てきたわけだ。そうした中で、どれほどのブランドが存続しているか。デビューはしたものの、いつの間にか、売上げ効率のみを追っかけ、売れなくなると姿を消してしまう。その繰り返しばかりではないか。しかもそのサイクルはどんどん短くなっている。

 ユニクロはブランドとして認知された。これは多くの業界関係者が認めることだから、異論を挟むつもりはない。しかし、そこに伝統の技や味わいがあるとは思えないし、それを培っていこうという思想も見えてこない。

 まして、ブランドの世界観ということでは、どこに見いだせばいいのだろうか。デザインは飽きがこない。生地や縫製はそこそこ良い。値段は手頃。それらはあくまで性格や特徴であって、ブランドの世界観とは思えない。

 ファッションブランドは名前ではない。生地や質感によって生み出されるデザインや着心地、姿見に映った自分を見るときの気分の変化、気に入ったものを着こなす高揚感などだ。それらが少しずつブランド力を生み、少しもぶれることのない伝統の技や味わいが世界観を醸し出していくのである。まさに100年以上の暖簾をもつ老舗菓子舗が作る「TK」そのものだ。

 IMD社の社長は仰った。「菓子屋にけじめがなくなっている。これではもう銘菓は出にくいと思う」とも。これはそのまま「ファッション屋にけじめがなくなっている。これではもうブランドは出にくい」と言い換えることができる。老舗菓子舖のように永く続くファッションブランドとは何か。真剣に考えなくてはならないと思う。
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