HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

アレンジする独創。

2017-10-11 06:49:53 | Weblog
 10数年前からデザイン、制作を始めたレザー。アクセサリーや小物になると、すべて自分で作っている。とっかかりはクラフトショップを仕事の合間に覗く程度だった。そのうちに工具が欲しくなり、菱目打ちや打ち台、蝋引き糸、針、トコフィニッシュなど一通り買い揃えた。革は店頭で端革や1デシ分を売っているので、服よりも気軽に制作に取りかかれ、ダイアリーカバーや名刺入れは手作りのものを愛用している。



 先日、自宅用のブックシェルフを新たにデザインし、設計図面が完成したので、材料の板を物色しにHCの「ハンズマン」に出かけた。以前は家具産地の大川に材料を提供する材木商から調達していたが、面倒な切削、鉤などの加工までは受けてくれなくなったので、自分で手掛けるしかなくなった。その点、ハンズマンには工作室があり、道具も自由に使えるので、たいへん重宝している。

 ハンズマンは宮崎県都城に本社があるアメリカライクなメガHCで、全国メディアにも度々登場している。プロ向けの道具から金物や金属部品、カン類まで豊富にラインナップし、欲しい材料の注文にも気軽に応じてくれる。ただ、レザークラフト用品は最低限の品揃えしかなく、アクセサリーづくりに合致する小ぶりで繊細なパーツには期待はしていなかった。

 ところがである。資材館で板をセレクトした後に本館も覗いていると、今年春、「某有名デザイナーズブランド」が発表した「カラビナ キーリング」とほぼ同じパーツを発見した。カラビナキーリングは栃木レザーなどを使用したものネット等で見かけていたが、パーツについてはレザークレフト店では見かけたことがなかったので、オリジナルで制作したとばかり思っていた。





 ところが、ハンズマンにはパーツがあったのだ。メーンで使われているのは、「スプリングスナップ」という吊り具。本来の用途は産業機械や工具の脱落防止に使われる補助金具らしい。穴の部分にワイヤーロープを入れて固定し、フック部分を機械や工具に連結して使うようだ。そう考えると、クラフトショップよりもプロ向けのHCの方に品揃えされることに納得した。ニッケルメッキで防錆性に優れ、相当の荷重に耐えうる設計なので、キーホルダーとしても十分過ぎるくらいである。ちょうど愛用のキーホルダーがだいぶ古くなり、買い替えようと思っていたので、一気に創作意欲に火がついてしまった。
 
 だから、今回は純粋にアクセサリー職人になった気持ちでハンズマンで見つけたパーツを使い、某ブランドはじめ市販されているカラビナキーリングを真似して作ってみることにした。他に使われているパーツは、カギを取り付けるための「甲丸スナップ」、それをまとめる「丸カン」大小、そしてスプリングスナップと丸カンをつなぐ「革紐」、革紐を留める「カシメ」になる。一応、材料の価格を確認しておくと、スプリングスナップ(50mm)が200円、丸カンが4個入りで115円(大)同100円(小)、真ちゅうニッケルメッキの甲丸スナップが2個入りで100円になる。すべてハンズマンで入手できた。

 革紐は残っていた革を切って作り、カシメは以前に購入していたものが大きさ的にちょうど合った。作業としてはスプリングスナップの穴に通る幅で革をカットし、カギを下げた時にダランとしないように紐の長さを調整。見てくれを良くするために紐の両端角を彫刻刀で丸く落とし、 紐の縁(こば)や裏側にはトコフィニッシュを塗る。革を合わせカシメを通す箇所のみを薄く削り、まずパンチで穴を空ける。そこにカシメを通し、打ち棒で打てば完成。まあ、こんな作業手順なんだが…

 丸カンが動かないように紐で固定した方がキーリングとしては使い易い。そのためには紐を8の字状にするしかない。これならカシメを突き通せるから、打ち台も手持ちのものをそのまま使え、作業的にも多少は楽である。実際、作業時間は30分とかからなかった。実際、某ブランドも市販のものもそのように革紐を接合していた。

 ただ、某ブランドも市販のものもスプリングスナップが大ぶりで、一般のカラビナと同じぐらい大きい。これはやはりハードなアメリカンアクセサリーを意識したもので、ジーンズや革パンのベルトループに取り付けた方が似合うデザインだ。筆者はワンサイズ小さなスプリングスナップを使用し、小ぶりなアクセサリーに仕上げた。これならジャケットのポケットに入れても脹らまないし、カギを付けても重く感じないから、個人的には使い易いと思う。

 某ブランドではスプリングスナップにロゴマークが小さく刻字されている。ここがブランドロイヤルティの決め手にわるわけだ。さずがにそこまでは真似することができない。おそらくロゴデータを自動刻削機に読ませて、先端が針のような極細のニードルで刻字したのではないだろうか。町工場の先端技術が生かされているのである。

 某ブランドがキーリングをどれほど量産したのかはわからない。それとも、MDのスタッフは刻字の作業ロットから逆算し、ペイラインを割り出したのだろうか。自動刻削機を使えば、作業料は1個500円くらいになるだろう。材料費と合わせると、総コストは1000円くらいになる。市販のノンブランドは売価が1000円程度。筆者が作れるくらいだから、パーツを大量に仕入れでコストを下げ、あとは注文を見計らって生産すれば利益を出るとの計算ではないのか。

 ともあれ、行きつけのHCで偶然にもパーツを見つけたことで、キーリングを手づくりすることができた。また、実際に制作することで、職人さんがどのような要領でブランドのアクセサリーを制作しているかを再確認した。

 もっとも、アクセサリーだから専用のパーツを使用したんでは、オリジナリティもクリエイティビティも発揮できない。それにしても某ブランドのアクセサリーの担当が他社が作るアクセサリーを自社ブランドに焼き直しただけというのはいかがなものか。全部がそうだとは思わないが、少しイージーな気もする。

 ともあれ、異業種をこまめに廻り、異素材をじっくり吟味して、そこからデザインを発想する。これもクリエーションでカギになるのは確かだ。原価やコストを考えると、オリジナルでパーツを造ることは厳しいが、パーツの組み合わせを変えてオリジナリティをいかに出すかも重要だ。そこがクリエイティビティの妙ではないか。

 その意味ではせっかくの職人技を生かしきるようなオリジナリティを発揮しないと、もの作りの手応えは感じられないような気がする。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする