HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

橋渡しの力。

2017-10-18 06:52:50 | Weblog
 先日、繊研PLUSがデザイナー森永邦彦氏が率いる「ANREALAGE(アンリアレイジ)」を取り上げていた。(https://senken.co.jp/posts/anseason_anrealage1)同ブランドは2015年春夏から発表の場をパリに移し、半年ごとに次々と新しい技術やコンセプトを打ち出していく中で、森永氏はクリエーションを半年で過去に追いやることへの葛藤があることを伝えている。

 「表現者としての自分は、一つのシーズンが終わったらそこから離れたくなるが、作り手としては、1シーズンで終わらせるのではなく、作り続けなければならないと思う」(原文のまま)だそうだ。

 確かに1シーズンにコンセプトづくりからイラストスケッチまで何百点と生み出しながら、実際にサンプル制作にまでこぎつけるのは数十点だろう。さらにその中から商品化されていくものは限られてくる。展示会に出展されても、VOIDになるケースもある。デザイナーとしての創作には膨大なエネルギーを要するのだ。

 しかも、お客が気に入ったデザインでもワンシーズン限りというのはザラ。これに惜しむ声があるのは当然だろう。デザイナー自身も顧客から評価されたクリエーションに対して、表現者としての矜持から次シーズンに残さないことに矛盾を抱えているのがよくわかる。それが「アンシーズン」というアーカイブなブランドの登場につながったことは、必然なのかもしれない。

 一方、ファッションビジネスとして考えれば、デザイナーが組織的に活動しブランドを存続させていくには、年間数億円規模の収益が求められる。欧州の若手デザイナーのように、コレクションデビューにユダヤ人実業家やアラブの王様が谷町になってくれた時代なら、収益を気にせずに創作活動に邁進できた。

 しかし、最近ではファンドが資金を拠出するなどスポンサードのバリエーションが増えた反面、支援の条件としてビジネスが優先され、短期に収益を確保しなければならなくなっている。コングロマリット系の老舗メゾンではなおさらだ。売れなければ、ベテランデザイナーと言えども契約を切られる運命なのである。

 そのため、ブランド側も収益の確保、安定を優先条件と考え、シーズンごとの服づくりではクリエーション優先の見せる部分と、ビジネス優先の売れる部分のバランスを何より重視するようになっている。その比率は3:7であったり、2:8であったり、1:9だってあるうる。こうしたバランスの中でも、2〜3割の見せる部分からヒット商品が生まれることもある。リスキーだからこそ、やり甲斐があるのがデザナーズブランドなのだ。

 かつてのブランドはそこそこのバリュウや知名度が確立すれば、商社やメーカーにライセンス権を販売してロイヤルティ収入で収益基盤を安定させるところもあった。さらに見せるコレクションラインやファーストラインと売るディフュージョンライン、セカンドラインとに分けるデザイナーズブランドは今も存在する。コムデギャルソンとて、コレクションラインやジュンヤワタナベの他に記号で売るプレイを創り出している。

 しかし、ライセンス系ビジネスは、ロゴマークという記号を確立しライセンシーが増えることで収益拡大を望めるものの、商品のカテゴリーが広がることでブランドが陳腐化するのは避けられない。売上げのために何でもブランド化すれば良いというものではないのだ。もはや使い尽くされた旧態依然の手法と言って良いだろう。

 アンリアレイジ が「見せるコレクション」の中で、ヒットしたアイテムをアーカイブとしながら、定番的で普遍的なクリエーションとして売って行くためにアンシーズンを立ち上げたのも、ブランドを存続させるための収益安定のためではないのか。

 そこにはデザイナーとしてクリエーションを記録として残しながら、ファンの気持ちに応えていこうという思いもあるだろう。記事はそれをデザイナーの森永氏のコメントを軸に掘り下げて書いているわけで、手法として特段に新しいものではないが、デザイナーズブランドのチャレンジとしては大いに評価されて良いはずだ。



 そのアンリアレイジ には異業種からもスポットが当たっている。福岡では後発のラーメン店ながら、今や世界戦略にまで打って出ている「一風堂」。同社がスタッフのユニフォームにアンリアレイジのデザインを採用したのである。福岡市の中心部に事務所をもつ筆者は、毎日のように一風堂大名本店の前を通る。今年の春先だったか、店先に立って観光客の行列に指示を出すスタッフのエプロンに目がいった。

 「ユニフォームメーカーの規格品にしては、カッコ良すぎる」。そんな印象を受けたのである。早速、調べて見ると、デザインを手掛けたのは、森永氏が率いるアンリアレイジだった。プレス資料によると、店舗環境やスタッフの観察から、コンセプトを人と人の距離とし、着心地の良い構造に加え、「生地に遠近で見え方が変化する特殊なプログラム」を施したとあった。

 2月末から国内店舗ユニフォームを順次刷新していて、筆者が見かけたエプロンは首から掛け、腰で巻くこともできる2ウェイタイプだった。他には社員とアルバイトリーダーが着る長袖シャツ、店長向けのマネージャージャケット、社員やバイトが選べる4種の帽子(ハット、キャスケット、ワークキャップ、ベースボールキャップ)がある。

 機能面ではサイズフリーに対応させるべくストレッチ性を重視。また、厨房作業での熱や油汚れに耐えながら、洗濯しても直ぐに乾く特殊加工生地を採用するなど、快適に働けることを目的としたようだ。

 当然ながら、一介の外食企業がここまでユニフォームづくりのノウハウを持つわけがない。間にアパレル会社が介在したのは言うまでもなかった。そのコーディネター役をはたしたのが、昨年から知名度を上げている熊本の「シタテル」だ。同社がアンリアレイジへのオファーからコンセプトの構築、デザインまで依頼したのだ。

 デザイナーの森長氏はそれを受けて、一風堂の店舗環境やスタッフをじっくり監察した上で、コンセプトを「人と人との距離」と設定。ユニフォームとしての着心地の良さだけでなく、一風堂の理念「KEEP CHANGING TO REMAIN UNCHANGED(変わらないために変わり続ける)」をユニフォームから浮かび上がらせるなど、同社を世界に印象づける仕掛けにも注力している。パリコレに参加するアンリアレイジにとっては、「されどユニフォーム」なのである。

 縫製に関してはシタテルがネットワークをもつ福岡と熊本の工場を使っている。これがニューヨークやパリの一風堂でも見られるのだから、まさにワールドワイドなユニフォームプロジェクトだと言える。外食産業と言えど、ブランディングに注力する以上、サプライメーカー調達の「たかがユニフォーム」では、済まされないということだ。それは福岡の企業と東京のデザイナー、そして熊本ほかの工場が一つのコンセプトを理解することなしには、成し得なかったと思う。

 デザイナーは誰しも、自分が思い描くクリエーションを服に落とし込みたいと願っている。そして、そのクリエーションがパリコレという檜舞台で、メディアやバイヤーの喝采を浴びて、名声を博すことを望みながら服づくりに膨大なエネルギーを費やす。しかし、一度脚光を浴びたブランドを存続させていくには、ビジネス抜きには考えられない。

 デザイナー自らがビジネスマインドを持てばこれ以上のことはないが、それはむしろ稀少だ。大概はプロデュースやマネジメントに当たる有能なブレーンが不可欠になるわけだが、デザイナーと衝突や軋轢が生じるとビジネスがうまくいかなくなることは往々にしてある。

 デザイナーの熱い思いを理解しつつ、ビジネスの面でも決して手を抜かない優秀な人間が社内にいることが理想だが、インターネットが発達した時代には社外ブレーンでも十分に機能するのではないかと思う。

 その意味で、クリエイティブ担当のアンリアレイジとビジネス含めてコーディネート役にまわったシタテルがそれぞれ持前の力を発揮したことで、一風堂のユニフォームプロジェクトは実現したと言える。こうした動きがとかくクリエーションに拘り過ぎて、ビジネスの面で今ひとつ攻勢をかけられないデザイナーズビジネスの一助になればと思う。

 ファッションもビジネスである以上、「売れてなんぼ」である。森長氏は早稲田大学とバンタンキャリアスクールをダブルで学んでいるだけに、高度な思考能力に加え、斬新な発想力も兼ね備えている。

 クリエーションとビジネスを二律背反を両立させるのは決して簡単なことではないが、デザイナーと企業との間にコーディネーターが入ることで、デザイナーの能力が企業のブランディングで引き出せたのは、デザイナーズビジネスの手法の一つに加えてもいいだろう。今回のようなケースは、デザイナーにとっても、ポートフォリオとしても重要な意味を持つからだ。

 高度にITが発達した現在は、ネットワークを駆使してビジネスの領域を広げられる。いずれはそれをAIが担当するかもしれないが、デザイナーのクリエイティビティ、ファッションビジネスを生かすも殺すも情報技術とネットワークであることは確かのようである。

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