2年ほど前、日経ビジネスがビームスの設楽洋社長のインタビュー記事を掲載した。そこで、設楽社長は楽天の三木谷浩史社長から「楽天市場にビームスを出店してほしい」との誘いを受けたが、すでにAmazonやZOZOTOWNに出店し、自社サイトも運営しているため、「楽天に出しても面白くない」と断った様子だった。
ただ、設楽社長は「では、何ができるだろうか」と、一考。三木谷社長に楽天市場が展開している商品数を訊ね、1億3000万点もあると告げられると、ビームスがこの中から商品を選ぶ=キュレーターとなり、ビームスの仮想店舗を作ってしまおうと考えたと、答えている。
2014年、ビームスは実験的に「Rakuten meets BEAMS」というHPを作り、同社が選んだ楽天の商品を提案した。この時はキュレーションビジネスと言えどもそれほどは注目されず、ネット上で商品を紹介する程度に止まった。だから、どこまで商品のプロモーションに繋がったのか。業界関係者から参考になったとの話は聞こえて来なかった。ただ、「ビームスと楽天が手を組んだ」という実績を生んだのは間違いない。
この試みがきっかけになったのか、今回はビームスは楽天と正式に協業した。 コラボ企画は4年前のものを踏襲し、「楽天・ミーツ・ビームスジャパン」とのタイトルで5月23日からスタートしている。
内容はビームスのスタッフが「楽天市場で実際に購入し、使っている商品をネットと店舗の紹介する」ものだ。楽天市場の専用ページ(https://event.rakuten.co.jp/rakuten_meets_beamsjapan/)、実店舗のビームスジャパンで、それぞれバイヤーやプレスなど16人のスタッフが選んだ商品が紹介されている。
現在、楽天市場が取り扱う商品は2億5000万点にも及ぶ。このうち、生活に必要とする雑貨や食品がどれくらいあるかはわからない。もちろん、 楽天・ミーツ・ビームスジャパンでは紹介される商品からは、消耗品や必需品は除外されている。
当然だろう。セレクトショップという立ち位置や権威から「こだわりの逸品」でなければ、キュレーションには値しない。専用ページを見ると、コスメや雑貨、家電、食材、そして趣味関係のグッズやギアが並ぶ。あるスタッフは料理が趣味のようで、フランス生まれのキッチンウエア「ル・クルーゼ」を紹介。自身で調理した料理の写真も公開している。
こうした企画は、「MONOマガジン」得意の鉄板企画で、単に商品紹介だけでなく、使用方法や使った満足感まで訴えるのが編集の肝になっている。商品紹介だけでは企業側が一方的に流す広告に過ぎず、効果は限定的だ。商品を使う人間が自分の言葉で感想を語る、または編集者が商品の利用方法や使った満足感までを使用者に取材して記事を書けば、読者(消費者)側の共感や信頼も得やすくなる。
ただ、楽天・ミーツ・ビームスでは、スタッフが自分で商品を使っているシーンまで詳細に公開するのは、厳しかったのだろうか。 動画による本人の一方的なナレーションやショッピングSNS「ルーム」 で、ユーザー同士のコメントのやり取りに収まっている。ビームスジャパンでも、恒久的な商品展開に踏み込むにはスペースや仕入れの問題などがあるだろう。雑貨関連の編集力では東急ハンズが格段に上だし、食品や食材についても見せ方は、カルディコーヒーファームのような専門業態にはかなわない。
ビームスのバイヤーやプレスというロイヤルティはあるにせよ、商品紹介に終始し消費者に対する訴求力は少し弱いかなと感じる。まあ、ステルスマーケティングとは言わないまでも、楽天としては「ハンズやカルディなどにある商品は、うちでも扱っていますよ」ということをビームスのスタッフを通じて訴えたかったわけだ。
そこにはビームスや楽天がそれぞれ単独で手を伸ばしてもつかみきれない潜在顧客を掘り起こす狙いがあるようだ。しかし、そうしたお客がビームスのスタッフが紹介した商品くらいで、本当になびくのだろうか。はるかに先のライフスタイルを行っている気がしてならないが。果たして。
もっとも、ビームス全体を俯瞰してみると、すべてのスタッフがどこまで日々の生活にこだわりをもって暮らしているか。それが気になるところだ。今回のキュレーターはプレスやバイヤーなどに限定された。おそらくみんな本社勤務で、そこそこの年収があり可処分所得は高いと思う。洋服や靴以外の趣味や娯楽、美容などにも投資できるはずだ。
ビームスは上質で高感度なファッションを国内外から仕入れて編集し、それをメディアを通して広く露出させることで、ブランドバリュを築いてきた。だから、一般のお客は同社のスタッフがもつセンスやスキルを通して、楽天市場の商品にも信頼感をもつことができる。ただ、実際にビームスの商品を販売しているのは、店頭の販売スタッフである。彼らが日頃どんな生活をしているのか。また、服飾を除いた生活用品について、どこまで楽天市場が販売する商品を購入しているのか。
これについては言うまでもないだろう。服飾に給料の大半を費やしているはずだから、それ以外の商品にこだわって生活を楽しむ余裕は、それほどないと思う。社員割引があるとは言え、20代前半のスタッフなら可処分所得はそれほど高くない。まず売場に立つための服装だけで、生計は圧迫されているのではないか。ビームスクラスが扱う高級ブランドなら、トップスからボトムス、靴まで揃えると軽く10万円は超えてしまう。
キュレーションビジネスといっても、ビームスと楽天のトップ同士が手を組み、本社の上層部が関わるだけでは、売場のスタッフから「現場の俺たちには関係ない」「販売員にはゆとりがないのに」と、冷めた声も聞こえてきそうである。
2年前の16年、ビームスは創業40周年を迎え、「セレクトショップの枠を超えて、モノやコト、そしてそれらを通じて生まれるコミュニティを提案していく、新しいブランドのカタチを目指していく」と、発表している。服飾衣料品から生活文化的なことまでに事業領域を広げていこうということだ。しかし、そのためには末端の販売スタッフまでがそうした提案をできてこそ、企業目標は達成でき、ブランドが形成できるのである。
かつてアパレル業界、特に小売業では「洋服バカ」がもてはやされた。とにかく三度のメシより服が好きだから、業界で働きたい。当然、経営側も洋服バカを歓迎した。だが、ファッション専門学校や大学を卒業したての若者は、 それを「単なる洋服が大好き」「コーディネートやスタイリングが得意」「センスが良いと言われる」としか、解釈していなかった。業界の実態を知らないのだから、無理もない。
企業側が考える洋服バカとは、アパレルに対する一途な思い、業界をどうしたいかという意気込みを持つ人間だったはずである。しかし、企業側がそれを真の狙いと謳ったところで、社員に服を買わせてきたのは事実だから、どこか嘘くさい。また、まず学校を出たての若者にそんな高尚な目的が理解できるはずもなく、とにかく社販で服を買いまくり、いつの間にかローンが数百万円にも脹らんだという話は、枚挙に暇がなかった。
バブル期には「夜霧のハウスマヌカン」という唄で、販売職は揶揄されていた。今もファッション専門学校生の中には、1日カップラーメン1食で過ごし、ひたすらコレクションデビューの夢を見ながら、ブランドの服買い集めて作品づくりに励んでいるものもいる。自己実現のためにそれくらいの覚悟は、決して無意味なことではないと思う。
ただ、ことファッション衣料を販売する小売業界は、洋服について蘊蓄を傾けたい人間がいるからこそ、成り立っている。ビームスのようなセレクトショップについても、それは否めない。同社が自らセレクトショップの枠を超えて、モノやコト、それらを通じて生まれるコミュニティを提案していくのを標榜するのなら、まずスタッフが服飾ばかりに投資するような洋服バカでは務まらないはずだ。
生活の基本は衣食住であるから、衣以外の食や住から文化的な生活を見つめていける人間が育たないと、ビームスが目指すポジションには到達できない。そのためには、販売スタッフも服を買い揃えるなら、まずそれを収納するインテリアにも拘り、DIYで製作して暮しをより豊かにしたり。いろんな食材を見つけて料理をし健康でクリエイティブなライフスタイルを楽しんだり。さらにアートや舞台、アウトドアなどにも触れあい、生活に取り入れることで造詣を深めたり等々が必要ではないのか。
すべてのスタッフがいろんなモノ、コトに趣味嗜好の幅を広げて「この分野なら、あいつの専売特許だ」と言われるような企業像を作らなければ、セレクトショップとしてのコミュニティなんて高が知れている。楽天が2億5000万点も取り扱っていることを見れば、商品なんて掃いて捨てるほどあるのだ。その中から、本当にいいモノ、暮らしに活用できるモノ、生活を楽しめるコトをセレクトするには、自らの生活文化のレベルを磨いて、発想を豊かにしなければなし得ない。
ビームスのスタッフが末端まで、生活文化のキュレーター足るかどうか。また、それに共感を持つファンを集められるかが、コミュニティ提案のカギになると思う。かつてのダイエーは量販店のカラを抜け出して総合生活産業を目指し、あれもこれもと欲張り過ぎて、結局は破綻の道を辿ることになった。
洋服屋が洋服以外に目を向けることは、服離れを助長することになりかねない。それでなくても販売員人気は薄れている。小売業界で危惧されていることだ。ビームスも現時点では、目指す方向性が絶対に正しいとの手応えはないはずである。しかし、だからこそ、これまでの洋服バカではなく、生活文化全体を見通しながら、提案できる人間を育成することで、ビームスは洋服屋から一皮むけるのかもしれない。
それは楽天に出店する無尽蔵の商品から、いちばん安いものを見つけて3食をしのぎ、残りを服飾に投資するようなライフスタイルではない。そんな人間にその場限りの商品紹介をされても、潜在顧客と言われるお客が信憑性も説得力も感じるはずはない。
物を買って所有するのではなく、使って暮しを楽しむ。1シーズンの使い捨てではなく、メンテナンスしてできる限り長く使う。まずは末端の販売スタッフが生活を圧迫されること無く、少しでも文化的でクリエイティブなライフスタイルをおくれるような待遇の改善やバックアップ体制を築くことが必要だろう。
もちろん、年収は勤務年数と能力で決まるのだから、末端の販売スタッフはその範囲内で精一杯文化的な生活が楽しめるように工夫していくことが求められる。これが本当の生活力ということではないか。スタッフが単なる洋服バカではどうしようもないが、企業側のフォローも重要だと思う。
ただ、設楽社長は「では、何ができるだろうか」と、一考。三木谷社長に楽天市場が展開している商品数を訊ね、1億3000万点もあると告げられると、ビームスがこの中から商品を選ぶ=キュレーターとなり、ビームスの仮想店舗を作ってしまおうと考えたと、答えている。
2014年、ビームスは実験的に「Rakuten meets BEAMS」というHPを作り、同社が選んだ楽天の商品を提案した。この時はキュレーションビジネスと言えどもそれほどは注目されず、ネット上で商品を紹介する程度に止まった。だから、どこまで商品のプロモーションに繋がったのか。業界関係者から参考になったとの話は聞こえて来なかった。ただ、「ビームスと楽天が手を組んだ」という実績を生んだのは間違いない。
この試みがきっかけになったのか、今回はビームスは楽天と正式に協業した。 コラボ企画は4年前のものを踏襲し、「楽天・ミーツ・ビームスジャパン」とのタイトルで5月23日からスタートしている。
内容はビームスのスタッフが「楽天市場で実際に購入し、使っている商品をネットと店舗の紹介する」ものだ。楽天市場の専用ページ(https://event.rakuten.co.jp/rakuten_meets_beamsjapan/)、実店舗のビームスジャパンで、それぞれバイヤーやプレスなど16人のスタッフが選んだ商品が紹介されている。
現在、楽天市場が取り扱う商品は2億5000万点にも及ぶ。このうち、生活に必要とする雑貨や食品がどれくらいあるかはわからない。もちろん、 楽天・ミーツ・ビームスジャパンでは紹介される商品からは、消耗品や必需品は除外されている。
当然だろう。セレクトショップという立ち位置や権威から「こだわりの逸品」でなければ、キュレーションには値しない。専用ページを見ると、コスメや雑貨、家電、食材、そして趣味関係のグッズやギアが並ぶ。あるスタッフは料理が趣味のようで、フランス生まれのキッチンウエア「ル・クルーゼ」を紹介。自身で調理した料理の写真も公開している。
こうした企画は、「MONOマガジン」得意の鉄板企画で、単に商品紹介だけでなく、使用方法や使った満足感まで訴えるのが編集の肝になっている。商品紹介だけでは企業側が一方的に流す広告に過ぎず、効果は限定的だ。商品を使う人間が自分の言葉で感想を語る、または編集者が商品の利用方法や使った満足感までを使用者に取材して記事を書けば、読者(消費者)側の共感や信頼も得やすくなる。
ただ、楽天・ミーツ・ビームスでは、スタッフが自分で商品を使っているシーンまで詳細に公開するのは、厳しかったのだろうか。 動画による本人の一方的なナレーションやショッピングSNS「ルーム」 で、ユーザー同士のコメントのやり取りに収まっている。ビームスジャパンでも、恒久的な商品展開に踏み込むにはスペースや仕入れの問題などがあるだろう。雑貨関連の編集力では東急ハンズが格段に上だし、食品や食材についても見せ方は、カルディコーヒーファームのような専門業態にはかなわない。
ビームスのバイヤーやプレスというロイヤルティはあるにせよ、商品紹介に終始し消費者に対する訴求力は少し弱いかなと感じる。まあ、ステルスマーケティングとは言わないまでも、楽天としては「ハンズやカルディなどにある商品は、うちでも扱っていますよ」ということをビームスのスタッフを通じて訴えたかったわけだ。
そこにはビームスや楽天がそれぞれ単独で手を伸ばしてもつかみきれない潜在顧客を掘り起こす狙いがあるようだ。しかし、そうしたお客がビームスのスタッフが紹介した商品くらいで、本当になびくのだろうか。はるかに先のライフスタイルを行っている気がしてならないが。果たして。
もっとも、ビームス全体を俯瞰してみると、すべてのスタッフがどこまで日々の生活にこだわりをもって暮らしているか。それが気になるところだ。今回のキュレーターはプレスやバイヤーなどに限定された。おそらくみんな本社勤務で、そこそこの年収があり可処分所得は高いと思う。洋服や靴以外の趣味や娯楽、美容などにも投資できるはずだ。
ビームスは上質で高感度なファッションを国内外から仕入れて編集し、それをメディアを通して広く露出させることで、ブランドバリュを築いてきた。だから、一般のお客は同社のスタッフがもつセンスやスキルを通して、楽天市場の商品にも信頼感をもつことができる。ただ、実際にビームスの商品を販売しているのは、店頭の販売スタッフである。彼らが日頃どんな生活をしているのか。また、服飾を除いた生活用品について、どこまで楽天市場が販売する商品を購入しているのか。
これについては言うまでもないだろう。服飾に給料の大半を費やしているはずだから、それ以外の商品にこだわって生活を楽しむ余裕は、それほどないと思う。社員割引があるとは言え、20代前半のスタッフなら可処分所得はそれほど高くない。まず売場に立つための服装だけで、生計は圧迫されているのではないか。ビームスクラスが扱う高級ブランドなら、トップスからボトムス、靴まで揃えると軽く10万円は超えてしまう。
キュレーションビジネスといっても、ビームスと楽天のトップ同士が手を組み、本社の上層部が関わるだけでは、売場のスタッフから「現場の俺たちには関係ない」「販売員にはゆとりがないのに」と、冷めた声も聞こえてきそうである。
2年前の16年、ビームスは創業40周年を迎え、「セレクトショップの枠を超えて、モノやコト、そしてそれらを通じて生まれるコミュニティを提案していく、新しいブランドのカタチを目指していく」と、発表している。服飾衣料品から生活文化的なことまでに事業領域を広げていこうということだ。しかし、そのためには末端の販売スタッフまでがそうした提案をできてこそ、企業目標は達成でき、ブランドが形成できるのである。
かつてアパレル業界、特に小売業では「洋服バカ」がもてはやされた。とにかく三度のメシより服が好きだから、業界で働きたい。当然、経営側も洋服バカを歓迎した。だが、ファッション専門学校や大学を卒業したての若者は、 それを「単なる洋服が大好き」「コーディネートやスタイリングが得意」「センスが良いと言われる」としか、解釈していなかった。業界の実態を知らないのだから、無理もない。
企業側が考える洋服バカとは、アパレルに対する一途な思い、業界をどうしたいかという意気込みを持つ人間だったはずである。しかし、企業側がそれを真の狙いと謳ったところで、社員に服を買わせてきたのは事実だから、どこか嘘くさい。また、まず学校を出たての若者にそんな高尚な目的が理解できるはずもなく、とにかく社販で服を買いまくり、いつの間にかローンが数百万円にも脹らんだという話は、枚挙に暇がなかった。
バブル期には「夜霧のハウスマヌカン」という唄で、販売職は揶揄されていた。今もファッション専門学校生の中には、1日カップラーメン1食で過ごし、ひたすらコレクションデビューの夢を見ながら、ブランドの服買い集めて作品づくりに励んでいるものもいる。自己実現のためにそれくらいの覚悟は、決して無意味なことではないと思う。
ただ、ことファッション衣料を販売する小売業界は、洋服について蘊蓄を傾けたい人間がいるからこそ、成り立っている。ビームスのようなセレクトショップについても、それは否めない。同社が自らセレクトショップの枠を超えて、モノやコト、それらを通じて生まれるコミュニティを提案していくのを標榜するのなら、まずスタッフが服飾ばかりに投資するような洋服バカでは務まらないはずだ。
生活の基本は衣食住であるから、衣以外の食や住から文化的な生活を見つめていける人間が育たないと、ビームスが目指すポジションには到達できない。そのためには、販売スタッフも服を買い揃えるなら、まずそれを収納するインテリアにも拘り、DIYで製作して暮しをより豊かにしたり。いろんな食材を見つけて料理をし健康でクリエイティブなライフスタイルを楽しんだり。さらにアートや舞台、アウトドアなどにも触れあい、生活に取り入れることで造詣を深めたり等々が必要ではないのか。
すべてのスタッフがいろんなモノ、コトに趣味嗜好の幅を広げて「この分野なら、あいつの専売特許だ」と言われるような企業像を作らなければ、セレクトショップとしてのコミュニティなんて高が知れている。楽天が2億5000万点も取り扱っていることを見れば、商品なんて掃いて捨てるほどあるのだ。その中から、本当にいいモノ、暮らしに活用できるモノ、生活を楽しめるコトをセレクトするには、自らの生活文化のレベルを磨いて、発想を豊かにしなければなし得ない。
ビームスのスタッフが末端まで、生活文化のキュレーター足るかどうか。また、それに共感を持つファンを集められるかが、コミュニティ提案のカギになると思う。かつてのダイエーは量販店のカラを抜け出して総合生活産業を目指し、あれもこれもと欲張り過ぎて、結局は破綻の道を辿ることになった。
洋服屋が洋服以外に目を向けることは、服離れを助長することになりかねない。それでなくても販売員人気は薄れている。小売業界で危惧されていることだ。ビームスも現時点では、目指す方向性が絶対に正しいとの手応えはないはずである。しかし、だからこそ、これまでの洋服バカではなく、生活文化全体を見通しながら、提案できる人間を育成することで、ビームスは洋服屋から一皮むけるのかもしれない。
それは楽天に出店する無尽蔵の商品から、いちばん安いものを見つけて3食をしのぎ、残りを服飾に投資するようなライフスタイルではない。そんな人間にその場限りの商品紹介をされても、潜在顧客と言われるお客が信憑性も説得力も感じるはずはない。
物を買って所有するのではなく、使って暮しを楽しむ。1シーズンの使い捨てではなく、メンテナンスしてできる限り長く使う。まずは末端の販売スタッフが生活を圧迫されること無く、少しでも文化的でクリエイティブなライフスタイルをおくれるような待遇の改善やバックアップ体制を築くことが必要だろう。
もちろん、年収は勤務年数と能力で決まるのだから、末端の販売スタッフはその範囲内で精一杯文化的な生活が楽しめるように工夫していくことが求められる。これが本当の生活力ということではないか。スタッフが単なる洋服バカではどうしようもないが、企業側のフォローも重要だと思う。