HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

見せる踵、隠す踵。

2018-06-20 07:13:48 | Weblog
 6月12日、シンガポールで米国と北朝鮮の首脳会談が開催された。メディアは史上初とか、非核化への道筋とか、いろいろ書き立てた。しかし、外交には武力はもちろん、大国の後ろ盾など様々な要素が絡む。実態はトップ同士が話し合う前に、政府の要人たちによる事前の詰めが行われているわけで、曖昧な落とし所になるとの予想通りになった。

 と言っても、このコラムで政治を語ったところでつまらないので、ファッションネタを考えてみたい。北朝鮮の金正恩委員長は祖父の金日成、父親の金正日氏と肥満体質の家系。身長こそ日成氏は176cmと高かったが、正日氏は158cmと小柄。その血を引いたのか、正恩委員長も背が低いと見られている。そのため、一国のトップとして他国の首脳と堂々と渡り合うためにいろいろ腐心していると、様々な報道が飛び交っている。

 正恩委員長の身長は162cmとも、165cmとも、170cmとも言われ、実際のところはよくわからない。今回の米朝首脳会談でトランプ大統領と並んだ写真を見ると、身長差は10cm程度しかないようにも見える。ツーショット撮影で背の高さの合わせるため、業界で言う「雪舟」、いわゆる足場を積み上げたわけでもないだろう(映画「戦場にかける橋」に出演した日本人俳優の早川雪舟が多用したことから)。

 ただ、トランプ大統領の身長は190cmと言われるので、写真を見比べると正恩委員長は180cm程度ということになる。仮にトランプ大統領が身長でサバを読んでいるにしても、あの差を見れば正恩委員長が背を高く見せる「シークレットブーツ」を履いているのは間違いない。もしかしたら相手に合わせてヒールの高さを変えていることもあり得る。

 北朝鮮のトップは歴代、人民から「尊敬する指導者」とか、「偉大なる領導者」とか、「敬愛する将軍様」とかと呼ばれているので、貧相で寸足らずではとても話にならない。体重はとにかく食べれば増やせるが、身長は親の遺伝だから如何ともし難いのである。父親の金正日氏もシークレットブーツを履いていたと言われており、息子が愛用するのも何となくわかる気がする。

 すでにメディアにはいろんな写真が露出しているが、正恩委員長が履いているシークレットブーツは、北朝鮮のトップゆえに特注品と見ていいだろう。一般に市販されているものはドレスシューズ型で、アウトソール、いわゆるヒール部分と上げ底の部分を数cm高くする。トータルで身長は6cm〜高くできるのが売りになっている。

 これなら163cmくらいの身長が170cm程度に見えるのだから、低身長が悩みの男性にとっては救世主と言えるのだ。正恩委員長が背が低いのを悩んでいるかどうかはわからないが、写真を見ると、履いているのはインソールの部分が高いことから、足首が折れてねん挫しないように足首を覆う革の部分がより広げられている。つまり、ハーフブーツタイプということになる。



 一方で、つま先部分には細工がなく、ヒール部分が3cm程度、インソールが7〜8cmだと仮定すれば、踵部分だけが高くなる構造だ。女性のパンブスを履いたのと同じで、男性なら前のめりになってしまうのではないかと思う。そんな心配をよそに専門家の話では、「履くと重心が前に来るので、後ろに体重がかかりやすい太った人や胸を反らし気味の人は、バランスを取りやすい」のだそうだ。これは意外だった。

 正恩委員長にとって祖父・金日成のような威光を放つために偉そうにふんぞり返り、しかも本当の身長を知られずに上げ底靴を隠すには、シークレットブーツはマストアイテムということである。しかし、いくらブーツタイプで足首が保護されているとは言え、見るからに度を超えた肥満体型だ。実際の身長が160cm台とすれば、おそらく肥満度4、BMIは50に近いのではないだろうか。

 2014年には正恩委員長が約40日間、公の場に姿を見せなかったのは、シークレットブーツを履きすぎたため、両足首にひびが入ったのが原因ではないかとも伝えられている。常識的に考えても、膝はもちろん、足首にも相当の負荷がかかっているはずだ。そうでなくても、健康不安説が度々持ち上がっている。それでも権威を振りかざすために、見栄を張って我慢しないといけないのか。国のトップを務めるのもたいへんである。まあ、大きなお世話かもしれないが。

 本当の身長を知られず、上げ底を誤摩化すのがシークレットブーツなら、堂々とハイヒールを見せる「ロンドンブーツ」もある。年齢が60歳前後の方々には懐かしい、1970代に大ヒットしたアイテム。世界でも背が高い人種と言われるアングロサクソンの間で誕生し、日本では先頃亡くなった西城秀樹氏が履いていたところを見ると、必ずしも身長の低さをカバーするものではなかったと思う。ファッショントレンドだったのである。

 名前の通り、英国のロンドン(アッパーの柄がユニオンジャックタイプも)から世界中に伝わったわけだが、ロックミュージシャンたちが奇抜なステージ衣装の一つとして取り入れ、愛用したのが流行の始まりではなかったかと記憶している。正式名称は「プラットフォームシューズ」。かつて欧米の駅は地上がホームだったため、乗客が客車に乗る際には駅員が踏み台を置いていた。それからプラットフォームが生まれ、靴では「壇をつける」という意味から名付けられたとの説もある。

 この靴を日本で最初に履き始めたのは、やはりミュージシャンだった。当時のボトムはベルボトムジーンズや裾広がりのパンタロン、バギーパンツが主流だったため、丈を長めにすればロンドンブーツとの相性も良かった。筆者がロンドンブーツをいちばんお洒落に履きこなしたミュージシャンは「ガロ」だと思う。

 リードボーカルの大野真澄氏は、ユニットのスタイリストも担当していたほどで、そのセンスの良さは今も折り紙付きだ。あの長渕剛が上京して間もない頃、ウエアを購入するために原宿のショップに連れて行ってもらったことがあると語っている。だからと言ってセンスが磨かれたどうかは、その後のコンサート風景を見れば一目瞭然だが。

 それはさておき、ロンドンブーツは70年代のトレンドを過ぎると、巷で履いている人はほとんど見かけなくなった。だが、今まで地道にメンテナンスされてきたのか、レアアイテムとして販売している人たちもいる。今も愛用しているマニアがいるのだろう。90年代にはロックバンド・すかんちのローリー寺西(身長は公称で172cm)が履いているのを見かけたが、これはやはりロックミュージシャンとしての矜持からではなかったかと思う。

 まあ、お笑い芸人が有名司会者が履いているのをこれ見よがしに誇張したモノマネで笑いを取るなど、低身長の人を蔑視するかのようなアイテムに受け取られているは確かだが。 当時、ロンドンブーツのおかげで身長を高く、脚を長く見せることができた男性でも、今はほとんど履いていないと思う。やはり、流行だったのは間違いない。

 ロンドンブーツはつま先部分も高くなっているので、甲や足首への負担は解消される。とは言っても、これからメンズの一大トレンドになることは、おそらくないだろう。レディスでは、90年代に安室奈美恵が上げ底靴ブーツを流行させた。ハイヒールは不変のアイテムとして存在するわけだから、これからもトレンドになる可能性はある。こればかりは男女でハッキリ分かれる。

 正恩委員長の低身長やシークレットブーツについては、各国メディアの北朝鮮に対する敵愾心も多少はあるだろうし、肝心な交渉の行方が見えにくいだけに、報道各社は大衆を惹き付けるために取り上げた面もあるはずだ。

 「正恩氏の実際の身長はおよそ162.5cmだ」(朝鮮日報)

 「キムはトランプと身長差がつかないように、上げ底した靴を履いているようだった。北朝鮮はこの件に関して事前に慎重に検討したと思う」(英ニュース専門局 スカイニュース)

 「金氏の靴には身長を高く見せるための中敷きが入っており、1~2インチ(1インチ=2.54cm)ほど、実際の身長よりも高くなっていた可能性がある」(ビジネスインサイダー)

 「12~13cmは上げ底にしている」(シークレットブーツ専門家の話 ロイター=共同) 等々


 民放キー局の朝の情報番組はスタジオに人の等身大パネルを用意し、正恩委員長のパネルの下に板をはめ込み、「14cmのシークレットブーツを履いていたのでは」と、検証まで行っている。進行役のキャスターH氏は「14cmといえば、ちょっとした竹馬ですね」と、コメントしている。

 それを聞いた時、かつて知り合いが語っていた話を思い出した。このH氏はフリーになる以前はNHKのアナウンサーだったが、もともとは俳優志望で学生時代には劇団で活動もしていた。

 NHKにアナウンサーとして入局したのは26歳と遅く、駆け出し頃にはアルバイトでイベントの司会などもこなしていたという。広告会社に務める知り合いが当時流行っていたネルトンパーティの司会でH氏を起用。そこでは、場慣れせずによそよそしい男女の参加者をよそに、ステージで人一倍盛り上げてくれたのがH氏だったそうだ。

 友人曰く、「それは良かったんだけど、履いていた靴がシークレットシューズでさ。あれにはみんなドン引きだったよ」と。ちなみにH氏の身長は公称では170cmになっている。

コメント
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