HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

人の英知で勝ち抜く。

2019-06-05 04:36:43 | Weblog
 このところ、メディアが業界を取り上げる中で、際立っているのが「ワークマン」だ。5月末でざっとピックアップしただけでも、以下のような見出しが躍る。しかも、内容はどれもポジティブなものばかりである。

 快進撃ワークマンの秘めた成長力 ユニクロ超えの1000店体制へ(5月21日、日経クロストレンド)

 たった¥980【ワークマン(WORKMAN)】300g超軽量スニーカーの実力を検証!(5月25日、ハッピープラス)

 【ワークマン女子が進化中】ファッション性もさらにアップした夏にピッタリなアイテム5つ(5月28日、マネーの達人)

 「ワークマンプラス」が出店計画を上方修正 一般客とプロ客の“二毛作”で店舗売り上げ2倍以上(5月28日、WWD)

 ワークマンが大ブレイク、低価格高品質でも利益が出せる3つの秘訣(5月29日、ダイヤモンド)

 ワークマンの国内店舗数がユニクロ超え、FCオーナーに希望者殺到の理由(5月30日、ダイヤモンド)

 ワークマンがカジュアル衣料大ヒットでも「職人の顧客」を最重視する理由(5月31日、ダイヤモンド)

 特に経済誌のダイヤモンドが立て続けに記事を配信するのは、何らかの意図があるのだろうか。そんな詮索が野暮に思えるほど、ワークマンは経済界が認めざるを得ない快進撃を続けている。筆者がこれらの記事で、注目するのは以下の3つ。どれもワークマンの英知が生かされた結果ではないかと思う。

 一つは、ダイヤモンドが5月29日付で発信した「3つの秘策」で取り上げられた「MDが何よりこだわるのは値付けである。市場調査を徹底した結果、設定した売価を“絶対基準”とし、その売価を超えるものは作らない」である。

 今シーズンのヒット商品に躍り出た980円の「汚れが落ちやすい耐久撥水半袖ポロシャツ」。加盟店からは1980円でも売れるとの声も出たが、本部のMD担当者は「ヒットを出すには980円でないといけない」と、頑に値付けを守っている。しかも、原価率はあのトウキョウベースをはるかに超える65%という。

 単純計算すると、荒利益は35%しかない。これでよくやっていけるなと言われそうだ。正直、筆者もそう思う。それを可能にするのは、海外工場との直接取引や広告費の低減、セールの撤廃だが、それは一般的な経営論に過ぎない。大手アパレルでは販売管理にコストをかけセールを乱発するから、原価率を30%程度まで引き下げている。それが商品の品質を下げ、客離れを起こす悪循環を招いている。むしろ、ここが問題なのだ。

 つまり、ワークマンが考えて導き出した解は、「大手の逆を行けば、原価65%でも十分に収益に繋がる」ではないだろうか。今の業界環境を考えると、ワークマンの戦略の方が至って実利を伴い、お客が抱く商品ニーズの本質を見抜いていると言える。

 そもそもガテン系の方々は、個人で仕事着をネット購入することはあまりないはず。これは筆者がプロ向けのHCを頻繁に利用し、来店する彼らを観察しての持論だが、当たらずとも遠からじだと思う。それゆえ、店舗で商品を確かめて購入し日々の仕事で着ているから、原価率の高さに裏打ちされた品質の良さを身をもって体感している。絶対基準とは、決めた原価率を厳守しての荒利益。セールもせずに売り切るから、売れ残りを想定した値入れも必要ない。ヒット商品になるというのもうなづける。

 二つ目は、 5月30日付の「FCオーナーに希望者殺到の理由」にある「店舗オーナーになるための要件」だ。ワークマンは 2019年4月時点で国内の店舗数は839店。そのうち約9割が、FC契約店という。オーナーになるには実店舗の面接を受けるか、既存店を引き継ぐか。これ自体はそれほど高いハードルではない。

 ところが、個人契約で一人1店舗。夫婦での登録が原則とか。さらに新規出店では本部が店舗を建てるので、オーナー募集の店舗にしか応募できない。土地勘がない見ず知らずの町に行く覚悟がいるのだ。それを承諾しても、本部スタッフがオーナーとして認めるまで「6回も面接」するというから、一般企業が行う採用試験の比ではない。おそらく、本当にFCオーナーの資質があるのかをくまなくチェックされるということだろう。

 昨今、ワークマンに匹敵するほど、報道されているのがコンビニだ。特にオーナーの疲弊ぶりがクローズアップされているが、FCに加盟した時点では今の問題は想像さえしなかったと思う。本部がドミナント戦略の影響を説明したかどうかはわからないが、FC加盟希望者が「確実に儲かります」という勧誘の常套句を鵜呑みした面はあったのではないか。しかし、未来永劫繁盛する商売などない。時代も市場もお客も変わるのだ。

 まあ、ワークマンも10年先はどうなるかわからない。ただ、コンビニのオーナー募集では、退職金などの小金を持ちPCが使えるリタイア組みが「セカンドライフが充実したものになりますよ」という甘い言葉に誘われたケースは少なくない。また、酒屋からの転業者では、「レジを通さないと商品は持ち出せません。掛け売りがなく確実に売上げが積めます」との口車に乗せられた例もある。

 これらは筆者がコンビニの仕事をして、関係者から得た情報である。少なくともそうして彼らを口説いて来たコンビニと、慎重にオーナー選びを行って出店を進めるワークマンは大違いと言うことである。



 そして、三つ目が5月31日付けの「職人の顧客を最重視する理由」で取り上げられた「綿カブリヤッケがヒットした理由」である。このアイテムは火花が散っても服が燃えないように着るアウター。江戸時代の町火消が着ていた「刺し子半天」の現代版とでも言おうか。従来は溶接工などの専門職にしか必要とされないマイナー商品だった。

 ところが、ヒットアイテムになったのは、一般人までが購入したからである。それは冬のキャンプで皆が着ているダウンジャケットにたき火や調理の火で燃えるとたいへんなので、「1954円のヤッケを着るといい」との裏情報がSNSを通じて広まったからという。まさにネット時代ならではの口コミが販促に繋がったわけだ。




 この記事を読んで、あることを思い出した。90年代半ばに雑誌ターザンが別冊のジャングルブックで「都会派のアウトドアブック」と題し、登山やキャンプ、釣りなどのハウツーを特集した。その中で、服装では「化学素材の衣服は素晴らしい。どしどし重ねる」との見出しを付け、「防寒用にフリースのパーカを」「いまどきは、軽くて丈夫なフリース」と、謳っている。ユニクロが廉価でフリースを仕掛けるだいぶ前のことだ。

 他にもいろんな雑誌がフリースを取り上げたため、「L.L.Bean」なんかの人気が高まり、購入する人が増えていった。ところが、ターザンを含め当時の雑誌は「ポリエステル100%のフリースは、ダッジオーブンやたき火の火の粉で、焼け焦げる恐れもあるからご注意を」との警鐘は鳴らしていない。それゆえ、その後には「フリースをキャンプに着て行き、焼け焦がした経験をした人がかなりいる」との記事を読んだ記憶がある。

 この時代、ファッション雑誌はブランドを取り上げるだけで、そこそこ反響は大きかった。また、キャンプでフリースを着用する時の心得や注意点を掘り下げる編集者もいなかった。まして、読者の俄アウトドア派が「キャンプでは衣服に火の粉が振りかかる」なんてシーンを想像できるはずもない。それがブランドのフリースをお釈迦にする無惨な結果を生んだのだ。これは大ヒットしたとユニクロのフリース然りである。

 その点、ワークマンは職人というプロ向けを扱っており、そうした商品では機能性や耐用性がいちばん重視される。でなければ、労働災害は予防できないし、死に繋がる危険性もあるからだ。こうした商品特性をワークマンプラスのファッション性から顧客となった消費者がキャンプでの利用を思いつき、試してみたのではないかと思う。商品を使った人間がその良さをダイレクトに発信できるネット時代だからこそ、企画担当者もコンサルタントも思いもよらないヒットに繋がるケースもあるのだ。

 ワークマンの通販サイトを見ると、綿カブリヤッケは1型5サイズで、汚れが目立たないストーンブラックとキャメルの2色展開。アウトドア向けにも人気を集めたことで、カラーバリエーションを増やすことが企画の爼上に上がっていることも考えられる。

 価格戦略、出店政策、商品づくり。それらに共通するのは、みなワークマンが独立独歩で考えに考え抜いてきたこと。社員が培った英知で戦略を愚直に進める企業こそ、強さを発揮できるのをワークマンは証明している。

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