HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ブームから趨勢に。

2021-06-23 06:32:19 | Weblog
 6月2日の本コラムで、「インテグレートな再生。」と題し、ピラーシェルフの部材を再利用したリメイクを取り上げた。すると、19日付けの繊研plusメールマガジン土曜版の繊研センサスが「おうち時間でDIYしてますか?」というアンケート調査を行った。

 業界人の一定層はリモートワークで空いた時間をDIYに利用したり、関心を持つようになったということだろう。アンケートは以下になる。回答項目も列挙されているが、ここでは文字数の関係から割愛する。




 Q1.おうち時間を過ごす上で、DIYをしていますか?
 Q2. Q1で「コロナ流行前からしている」「コロナ流行後から始めた」と回答した方にうかがいます。その理由は何ですか?(複数回答可)
 Q3.Q1で「していない」と答えた方に伺います。DIYをやらない理由は何ですか?(複数回答可)
 Q4.これまでに DIYで作ったことがあるものは次のうちどれですか?(複数回答可)
 Q5.DIYの楽しさはどんなところだと思いますか?(複数回答可)
 Q6.今後挑戦してみたいDIYはどれですか?(複数回答可)
 Q7.DIYをする際に参考するものはどれですか?(複数回答可)
 Q8. その他DIYに関してコメントがあれば、お願いします


DIYをしていない人を引き込む施策はあるか?

 筆者もアンケートには答えたので、個人的なものと業界の人々の回答を想像しながら、DIY浸透の可能性やビジネスへの影響を考えてみたい。

 まず、DIYのような活動は、おうち時間がクローズアップされる以前は、はっきり両極端に別れていたと思う。アンケート項目のQ2Q3にあるように「している」か、「していない」である。業界で企画やデザインに携わる人々は、している派に属する人が多いと思う。仕事でモノづくりばかりやっていると、プライベートではしたくないとの言い訳ができるが、やはり自分の持ち物は自分で作ってみたい願望は強いのではないか。

 小売業でもショップオーナーになると、店づくりから自分で手がける人が少なくない。日々の生活そのものがDIYとシンクロしているわけだ。もちろん、店舗コストの削減などの目的もあるだろうが、自店は自分の城だから内外装から什器、ディスプレイツールまでにオリジナリティを出したいはず。今はそれらをネットでアピールできる環境だから、なおさらDIYに向かうのは自然な流れだと言える。

 筆者が知る大手ファッションチェーン販促部の元チーフは、仕事ではディスプレイツールをデザインされていたこともあり、退職後に始められた雑貨店では「店の備品は昔とった杵柄でDIYで製作しているよ」と仰っていた。「チェーン店時代はタッカーなどの道具は高価だったけど、今は100円ショップで手軽に購入できるから良いね」とも。

 地元セレクトショップのバイヤーは新店舗を開発するにあたり、スタッフと海岸で拾ってきた流木をDIY加工。アクセサリー用の什器に仕上げたところ、お客さんの反応も上々で、店舗を軌道に乗せる手応えを感じたという。回答項目にもあるが、公私問わずDIYする人たちは「市販に欲しいものがないため」とか、「自分の好みのサイズや仕様のものを作るため」というのが多数派だと思う。



 一方、DIYをしていない人は、どうだろう。回答項目には、「忙しくて時間がない」「作り方・やり方が分からない」が挙げられているが、大多数は全く関心がないのではないか。背景には「不器用なので、失敗しそうだから」というか、DIYはある程度の技術を必要とするので営業職や販売職であれば、技術が磨ける環境に身を置いていないことがある。

 こうした人々がおうち時間を過ごす上で、DIYに関心を持った人をいかに引き込むか。そうした施策がビジネスを広げることになる。DIYをしていないという回答項目に、「用品・用具をそろえるのが面倒だから」「家に作業するスペースがない」が挙げられているが、これはホームセンター(HC)が工作室を充実させて、道具を貸し出せば十分に解決できる。アドバイスや技術指導にも注力すれば、未経験者を引き込める。

 また、郊外SCやGMSが頭打ちのテナント誘致対策として、モノからコト消費に舵を切るなら、DIYの業態開発も一つの手だと筆者は考える。それをHCなどに新業態として開発・出店を要請するのか、それともデベロッパーが自ら木材や金属などの加工業者、手芸店などとタイアップし業態開発に打って出るなど、いろいろある。

 工作スペースでは作業用の道具をレンタルするにしても、興味をもった人がその場合でネット購入できるような仕組みまで整えればベターだ。ニトリにしても、カインズにしても次のビジネスチャンスとして開発の検討余地はあるのではないか。ファッション業界も、手芸の延長戦で新たな業態開発に挑んでもいいと思う。布帛のバッグ、アクセサリーや革小物のキットから市場を探るという手もある。


DIYは経験を積むことで学習効果につながる

 筆者の場合、あるデザイン事務所での体験がDIYをより極める契機となった。ここではコンクリート打ちっぱなしの壁面にブロックと板だけによる幅・高さ180cm、5段の簡易シェルフが置かれていた。それをこしらえたというグラフィックデザイナーは、シェルフを指指しながら「リタイアしたら家具大工になるよ」と語っていた。しかし、シェルフは資料の本や雑誌の重みで板が反っていた。




 これを見て、筆者が実感したのが棚の構造。本や雑誌を収納すると、横板が60cm以上になれば重みで反ってしまうので、縦板を咬ませて支えなければならないということ。市販の棚は横幅が60cm程度で横板を上下に動かせるよう「棚タボ」式になっている。だが、横板の長さを広げると「カギ」状で縦板を組まないと、本など重たいものを支えるのは厳しい。

 以来、当事務所はシェルフやローボードはカギを採用したデザインにした。これもDIYだからこそ、なしうることだ。DIYは、Q5の回答項目にあるように「趣味が合う人とつながれる」し、失敗体験が学習効果をもたらしてくれる。筆者の場合は木材加工だけでなく、レザークラフトなども含め、DIY経験は引き出しを増やし、クリエイティブソースにもなっている。



 6月2日のコラムでは、illustratorで制作した設計図面とHCでカットしてもらったところまで公開した。その後、梅雨の晴れ間を利用して自宅の庭でペンキを塗り、組み立てを行ってシェルフは完成した。塗装用のローラーは以前に購入していたし、水性塗料は100円ショップで少量の使い切りタイプを購入。ネジも前のシェルフで使っていたものを再利用した。




 今回のシェルフは幅が60cm程度だが、以前に製作したピラーシェルフのデザインをそのまま流用し、横板にかかる荷重を縦板と棒状の「バンキライデッキ材」で支える構造(テレコ組み)にした。接合部分の見た目を良くするにはタボで止める方法がベストだが、部材に以前のビス穴があり、タボ穴の見当を合わせるには精密な工作機械を必要とする。流石にDIYではそこまでは不可能だから、ビス留めを用いた。

 背板を付ければ、横揺れにも対応できるが、家電品を置くと配線がしにくくなる。そのため、設計段階では半分だけ背板をつけることも考えたが、再利用する部材が足りなくなるので断念した。そこで背板には余っていたベニヤ板を代用した。それでも、しっかり組み上がり揺れにも強くなったので、満足している。

 あれこれ考えて工夫をするDIYは、クリエイティブワークの一つ。最初は決して上手くなくても経験を積むことで引き出しが増え、アイデアソースにもなる。これもDIYの魅力だろう。最近は「ウッドショック」なるニューが経済紙を賑わせている。米国や中国の旺盛な住宅需要に伴う木材相場の高騰だ。木材が値上がりしてもDIY程度にはそれほど影響はないと思うが、木材に限らず天然素材は有限だからリユースまで考えなければならない。

 先日、Facebookで見た動画が印象に残った。https://www.facebook.com/BusinessInsiderJapan/videos/495851194992368
米国のバンクーバーでは、毎日10万本の箸が捨てられ埋立地行きだったという。Chop Value社はそれらを回収して仕分けし水溶性の樹脂に浸した後、圧をかけて集成材タイルにリサイクル。そうした材料を活用して大きなカウンターやテーブルを製造している。ある意味、国家的なプロイジェクトビジネスとも言えるし、こうしたモデルにDIYを組み込めば、タイルのニーズはもっと増えると思う。

 日本ではどうか。小泉進次郎環境大臣は、盛んにプラスチックごみの削減に言及している。しかし、木材が自然に戻せるからと言って、使用後の割り箸を焼却処分しているようではCO2削減には繋がらないし、SDGsの流れにも逆行する。プラスチックゴミを減らすというなら、紙や木の道具を復活させてリサイクルまでの仕組みをきちんと整えるべきではないか。

 DIYの良さは端材や端革、端切れを利用できて、自分で作るから愛着が湧いて使い勝手もいい。リメイクもできるし、長く使える。そこが使い捨てとは違うところだ。SDGsの流れからしても、DIYをコロナ禍の俄景気で終わらせるのではなく、トレンドとして、さらに定着させていく仕掛けが業界にも求められるのではないだろうか。
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