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いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

負担をシェアする。

2024-01-10 07:33:18 | Weblog
 政府は、ネット通販などで注文した商品を「置き配」で受け取る利用者へのポイントを通販事業者に与える。今年からトラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間を上限に規制される。そのため、通販事業者にポイントを付与することで置き配を促し、運送事業者の負担になっている再配達を削減する狙いとみられる。

 具体的な仕組みは以下だ。通販事業者にはポイントの原資として1回あたり上限5円分が補助される。ポイント付与は、ネット通販の商品購入時に「置き配」や「コンビニ受け取り」「ゆとりある配送日時」などを選んだ人が対象となる。購入者にどれくらいのポイントを還元するかについては、各事業者の判断に任せるという。

 国土交通省によると、2023年4月の宅配便再配達率は11.4%。前年同月(約11.7%)、前年10月(約11.8%)と比べると減少しているものの、宅配全体の約1割が再配達になっている。荷物の受取人宅に何度も配達することはそれだけ時間を浪費し、ドライバーの時間外労働に繋がるが、配送料金は変わらずドライバーの報酬アップにもつながらない。さらに再配達でトラックの走行が増えれば、その分のCO2排出も増加するので、地球環境に負荷をかけ脱炭素社会にも逆行する。

 ただ、ポイント付与がどこまで置き配の促進につながるのかは、全く不透明だ。まず、国が通販事業者にポイントの原資として補助するのは1回あたり最高で5円。このうち購入者にどのくらいのポイントを還元するかは各通販事業者の判断に委ねられている。ポイント還元率の高さと商品の購入数量は比例するだろうから、置き配と連動したポイント還元の原資に活用されるケースが多いと思う。つまり、通販事業者がさらにポイントを上乗せすることで、置き配を浸透させるキャンペーンを展開することも考えられる。

 ネットではポイントを賢く貯める方法が紹介されている。ポイント取得の達人からすれば、政府の方針を通販事業者がどう活用するかをチェックした上で、彼らなりに賢い貯め方を伝授していくだろう。政府が通販事業者に補助する金額は購入1回あたり5円なのだから、できるだけ多くポイントを得るには、商品をバラバラに注文して、購入回数を増やすしかない。当然、置き配は増えていくと思われるが、新たな問題も出てくる。それが「盗難」や「汚損」「破損」「滅失」だ。




 コンビニでの受け取りやクロネコヤマトの「PUDOステーション」などを利用すれば、荷物の安全は担保されるが、自宅を置き配に指定する場合はわからない。戸建住宅では玄関前に荷物が置かれると、無防備なことから盗まれる確率が高くなる。ドライバーが「ファスナー付きの簡易宅配BOX」に収納していても、宅配BOXごと盗まれたケースもある。アパレル通販で購入する商品は、ダンボールの箱にZOZOをはじめとした事業者のロゴマークが表示されている。窃盗犯とすれば箱を見ただけで中身がわかるのだから、格好の獲物として盗み出すケースはより高くなるのではないだろうか。

 オートロックのマンションでも、すでに置き配の盗難被害が出ている。別の住民が入口ドアを開ける時に、窃盗犯がすれ違いで入ることはできるし、非常階段の塀を乗り越えれば侵入できるマンションもある。筆者は、事務所を構えるマンションの非常階段に潜んでいた窃盗犯らしき人物と鉢合わせしたことがある。いかにも宅配ドライバー風の装いで、階段の踊り場からそっとフロアを伺っていたのだ。しかし、名札は付けず、伝票や業務端末、小型プリンターも一切携行していない。筆者が1階の郵便受けから新聞を取った後、下りエレベーターで降りてきて、何食わぬ顔をして手ぶらでマンションの外に出て行った。

 窃盗犯であっても、姿形が運送業者風なら盗んだ荷物を持っていても、すれ違った住民は荷物の受け取りか、不在または誤配かとしか思わない。最近ではマンションからオフィスや店舗、戸建住宅までに防犯カメラが設置されているが、窃盗犯が堂々と犯行に及ぶのはテレビニュースでも枚挙にいとまがない。映像は容疑者が逮捕・起訴されると裁判の証拠になるが、犯罪の抑止力としてはあまり機能していないと言える。マンションの場合でも常駐する管理人がいるならともかく、不在の場合は「ロッカー式の宅配BOX」で受け取らない限り、安全は担保されないと考えた方がいいだろう。

 また、玄関前に荷物を置いていると、雨に濡れて汚れる場合がある。これが汚損だ。ガレージや物置に置き配してもらったことで、何かのひょうしに落下して壊れてしまうのが破損。自転車のカゴに入れてもらったところ、荷物が軽かったため風で吹き飛ばされてしまうこと、いわゆる滅失もある。さらに受取人がドライバーの前で荷物を確認しないために「誤配」が起きたり、届くはずの荷物が別の住所に「誤送」されるなんてトラブルも起こり得る。


荷受人がラストワンマイルの配送に代わる

 法律(商法第570条~/物品運送)では、577条に物品の運送に関しての損害賠償が規定されている。それによると、運送事業者は荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関して注意を怠っていないことを証明しなければ、荷物の滅失、毀損及び延着につき損害賠償の責任を免れることはできないとされている。ただ、置き配についてまでの規定はないので、各運送事業者がそれぞれの約款で免責の条件を決めていくのではないかと思われる。



 ヤマト運輸は置き配(EAZY)で、以下のような条件を打ち出している。まず、届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップは、Amazon(クロネコメンバーズにご登録済み)の他に6社。注文時・もしくは届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップは、ZOZOTOWNの他に7社。つまり、これらの通販事業者では、受け取り方法の指定に置き配も含めるということになる。

 また、ヤマト運輸は置き配の場所を「玄関ドア前」「宅配BOX」「ガスメーターBOX」「物置」「車庫」もしくは「自転車のかご」で可能としているが、すべて自宅の敷地内に限定されている。ただ、悪天候により届け後の荷物の安全が確保できない(荷物が濡れるなど)、受け取り場所に荷物が安全に収まらない、受け取り場所への立ち入り(オートロック)ができない、マンションなど集合住宅の建物管理規程その他の規程により、置き配が禁止されている、受け取り場所を見つけられなかったとヤマト運輸側が判断した場合には、置き配されない。

 ヤマト運輸は置き配できない条件を細かく決めることで、盗難や汚・破損、滅失を回避する狙いだろう。運送事業者としてはリスクを考えると、どうしても置き配に二の足を踏まざるを得ない。結局、商品の購入者や受取人には再配達もしくは受け取り方法の変更が発生し、ポイントはもらえない。もっとも、今後は商品の購入者が置き配を承諾した以上、荷物の盗難、汚・破損、滅失が起こった場合では、運送事業者に全面的な責任を追求するのは難しくなるのではないか。それが置き配を選択する上での交換条件になると言えるだろう。

 では、置き配ポイントの付与が再配達を少なくし、ドライバーの時間外労働を減らせるようになるのか。まず、ポイントがもらえるなら、通販で購入した商品の置き配にする利用者は増えていくだろう。また、コンビニ受け取りや宅配ロッカーを利用すれば、商品の安全も担保される。もちろん、それが面倒臭いという人は一定数いると思うが、ポイントがもらえることで、多少の不便さを受け入れる人も増えるのではないか。

 一方で、置き配がある程度浸透するまでは、要領を得ない購入者もいると考えられる。運送事業者やドライバーとすれば、商品の安全が担保されなければ持ち帰るだろうから、一定数の再配達はあるだろう。それがドライバーの時間外労働にどこまで繋がるかは現時点ではわからない。これまでより置き配が増えて再配達が減っていけば、その分配送効率はアップするから、労働時間が削減されるとみて間違いない。

 それでも、物流、配送の構造的な問題は依然として残ったままだ。大手の運送事業者が元請けとなり、手数料を取って下請けの運送会社に配送を委託するケースがある。下請けはさらに配送先を仕分けし、孫請けの個人ドライバーが実際に配送することが常態化している。当然、孫請けは配送の収益は少ないわけだから、より稼ぐには数をこなさなけれならない。時間外労働を減らすどころか増やさないと、生活してはいけないのだ。表面上、時間外労働を制限しても、より零細の運送事業者にしわ寄せが行けば、抜本的な解決にはならない。

 また、宅配荷物ではないが、半導体関連産業の活況で工場向けの荷物が急増している。機械や部品のメーカーから半導体工場への輸送では、積み下ろしする「荷役」もトラックドライバーの付帯作業になっている。トラックが工場に入ると、先着順で荷物を搬入することになるが、運送事業者の中には荷物をバラ積みし、荷下ろしが煩雑になって時間を要するケースもある。後着のドライバーはそれが終わるまで待たなくてはならない。そのため、トラックドライバーは「時間待ち」を強いられてしまうのだ。

 また、長距離トラックドライバーは荷物を下ろした後、空のトラックで事業所に帰るわけではなく、どこかで別の荷物を積まなければならない。待ち時間が増えるとその分、次の荷積みや配送の時間も押してしまう。これらも運送事業者はAIを活用して効率のいい配送を進め、工場側が荷卸しスペースを拡張するなど態勢を確立していかなければ、時間外労働の削減にはつながらないと考える。



 宅配の荷物に限って言えば、まずは通販利用者が再配達にならないように心がけること。置き配は通販利用者、配送事業者にとって再配達解消のメリットではあるが、利便性ばかりを追求すれば、双方が盗難などの責任を負う必要も出てくる。安全性を担保するには通販に関わる全ての事業者、利用者が相互で負担を分け合うことだ。

 それにはやはり近隣のコンビニでの受け取り、ロッカー式の宅配BOXが有効だろう。ただ、宅配BOXはスペースの確保やコスト負担が不可欠で設置場所の条件にも左右されるため、一律に導入するのは難しい。やはり商品の受取人がラストワンマイルの配送に代わることで、ドライバーの無駄な業務をできるだけ抑えること。要は荷物の安全が担保されるところまで受け取りに行くことから始めるべきではないか。ポイント付与はあくまでその手段の一つに過ぎない。少しの負担を伴う行動を習慣化させることが第一歩になる。

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