
しまむらが好調だ。同社が4月3日に発表した2023年2月期連結決算は、売上高が前期比5.6%増の6161億2500万円、営業利益が同7.9%増の533億200万円で、売上高、営業利益ともに過去最高を更新した。伊勢丹新宿店も23年3月期は、過去最高だった1992年3月期実績を大幅にクリアする見込みという。市場がいくら縮小しようとも、店舗や業態によって「一人勝ちしているところはある」と見て間違いない。では、しまむらの何が好調要因なのか。
決算リポートには、「EC限定のインフルエンサー企画やキャラクターを拡充したこと」とある。EC事業の売上げは、前期比46.4%増の41億円と大幅に伸長した。コロナ禍で外出できず、アべイルやバースデイでもECで買い物したお客が多かったと見られる。EC事業は2022年11月のスタートと後発だが、会員は既に300万人を突破。遅れをとったものの、確実に売上げを押し上げていると見て間違いない。
また、SNSでの情報発信がそのままECと連動していることも大きい。しまむらでは社内にスタジオを設け、インスタライブを配信。こうしたデジタルによる販促が非常に大きな効果をもたらした。実際、見てみるとプロが作ったというより、社内チームが取り組んだ動画制作にシマラーはじめ、多くのお客は惹かれているようだ。「らしさ」というか、気を衒っていない作りがちょうど良く、現物を見てみようという気にさせる。

お客さんの代表であるインフルエンサーの活用も奏功している。「ここのデザインがこうだったら」「この商品なら素材はこっちがいい」なんて、しまむらの服で自分が感じた印象をSNSを通じて発信する。それに共感を持つフォロアーが多ければ、アパレルや小売りとしても無視はできない。
「等身大コーデのMUMU」「星玲奈」。専属インフルエンサーとのコラボブランドが全国の主婦から絶大な支持を得たり、キレイ&カジュアルのスタイリング提案がヒットアイテムを生み出したり。その他「ULTRAMAN」や「王様戦隊キングオージャー」といったキャラクターものもキッズ向けでは王道のようで、こちらも売上げを牽引している。
業態別に見ると、しまむらの売上高は前期比4.9%増の4616億5500万円。売場の断片しか見ずに、メーカーの残在庫を安く仕入れているという識者もいたが、それだけなら昨季の好調はなかったと思う。同社はメーカーではないので、オリジナルは開発しない。しかし、ロットが大きいから、ベンダーは「同社専用商品」とするケースが多い。

それを進化させたのがPB、そしてサプライヤーと共同開発するJB(ジョイント・ディベロップメント・ブランド)だ。一時の低迷から脱却するためにコンセプトを見直し、高価格帯にシフトしながら、お客を捉えたことが好決算にも貢献したと言える。たとえば、「CLOSSHI」では機能性を高めた「CLOSSHI PREMIUM」、ビジネス向けの「CLOSSHI BIZ」を拡充させている。
ホームウエアや寝具の「ここちラボ」、洗濯機で洗える「お手軽シリーズ」、美脚ジーンズの「しまデニ」と、それぞれの特徴や機能を明確にしたリブランディングが奏功。しまむらが安さで売れてきたのは確かだが、同社内では高い機能性がお客にとって価値があるものなら、価格が多少高くなっても十分に勝負できるという手応えを得たと思う。その自信がさらに企画のレベルを上げていくはずだ。
筆者はしまむらをよく訪れる。以前は天神のノース天神に店舗があったが、ミーナ天神との一体改装で撤退。そのため、博多駅バスターミナルの店舗で売場、商品のチェックを行なっている。以前に比べると、テイストやルック提案が分かりやすくはなり、リブランディングされたPBではそれが解消、整理されつつあるように感じる。
一方、ECではPBが独立して打ちされているので、欲しかった商品を探しやすい。お客はそのままサイトで購入することもあれば、実店舗を訪れるケースもあるだろう。しまむらは安いからこそ買い逃しも、衝動買いもしたくないと、賢い消費者は考える。そんな心理にOMOというか、売り方のバリエーションがうまくフィットしたわけだ。
紙媒体の広告は見直すべきか
しまむらは2024年2月期の純利益が前期比4%増の395億円になる見通しも発表した。3期連続で最高を更新させよというのだから、PBなどで高機能、高価格帯の商品を拡充して売上げに寄与したことが自信に繋がっているようだ。
今期の売上げ目標は3%増の6365億円。しまむら業態の既存店売上げが1.5%伸びると想定しての目標額だ。原材料や人件費、物流費などの上昇で、商品単価は6~9%上がるというが、機能性を高めたPBなどをさらに拡充することで乗り切る構えと見て取れる。
正社員やP/Aの給与は、日本全体で賃上げ機運が盛り上がっているだけに、しまむらとして避けて通れない。優秀な社員やP/Aを確保する上ではなおさらだろう。それでも販売管理費は26%弱とわずかの増加にとどまる。計画では年に50店舗以上を出店するというから、売上増によって販管費は吸収できるとの目算なのだろうか。


ただ、しまむらはしまむら業態の他にアベイルやバースデイでも、新聞折り込みのチラシを目にする。毎回感じるのは新聞購読者の減少とチラシのレスポンス率だ。筆者がすむ福岡市では発行部数がいちばん多い西日本新聞ですら、購読者の減少に歯止めがかからない。
過去に80万部と言われた部数は現在、42万部程度(ABC調査)にまで減少している。2022年11月には、同紙の元販売店店主が押し紙で損害を被ったとして約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁に起こしたほどだ。それに残紙を加えれば、とても40万部も購読されているとは思えない。対前年比7~8%の減部と見て間違いないだろう。
お膝元の福岡市は人口が増えているにも関わらず、その中心は30代以下の若年層ということもあり、新聞離れが著しいということである。購読部数の減少は広告効果に繋がらず、折り込みチラシの見直しにも直結する。しまむらにとっても販管費に占める販促経費は、利益を上げるためには手をつけるべき重要課題ではないか。
しまむらは折込チラシのデジタル版(各エリアごと)も制作している。しまむら業態は子供からお年寄りまでターゲットだから、折り込みチラシを見て来店するお客もいるだろうが、新聞購読者の減少を考えると、それも年々少なくなっているのではないか。だからと言って、戸別のポスティングチラシに切り替えればいいというわけでもない。
アベイルは30歳以下のヤング、バースデイは幼児を持つファミリーがターゲットになる。こちらはネット&スマホ世代で、デジタル版のチラシで商品や販促をチェックしているのは間違いない。この世代は、国の少子化対策における子育て支援ともリンクする。しまむらとしても子育てに奮闘する層に対して、別の角度からアプローチしてもいいのではないか。
また、バースデイはシングルマザーの御用達でもあると聞く。なおさら、彼女たちに新聞を購読するような金銭的、時間的な余裕はない。新聞折込のチラシにレスポンスを期待するマーケティング手法を見直す時期に来ているのではないだろうか。子育てに奮闘する母親や父親への支援というマーケティングなら、有効な施策になると思う。
EC連動のインスタライブが効果を上げているのは、紙媒体の限界と表裏一体と言える。今年度の販売管理費は微増なのだから、折り込みチラシの経費分を別のマーケティング費に活用してもいいのではないか。広告宣伝はブランドロイヤルティを高めるものだし、プロモーションは商品の販売を促すものになる。マーケティングには欠かせないのだが、要はその内容と費用対効果だ。それにはデジタルを活用した双方向のマーケティングが不可欠と考える。
AIがここまで発展していることを考えると、お客の反応をAIに学習させておけば、最善のマーケティング手法を提案してくれ、それでいて販管費を最適化してくれるような技術が登場するのも、夢ではない。しまむらが今後の成長を続け、高収益を上げていくには、高価格帯商品の拡充だけではなく、背景にあるマーケティング戦略をいかに進めていくかである。
お客さんはもう安さだけで買ってくれない。それに代わる価値やメリットをいかに生み出すか。これからもさらに進化させていくことが「安さだけじゃないしまむら」「高いしまむらを売る」ことに繋がっていくと考える。
決算リポートには、「EC限定のインフルエンサー企画やキャラクターを拡充したこと」とある。EC事業の売上げは、前期比46.4%増の41億円と大幅に伸長した。コロナ禍で外出できず、アべイルやバースデイでもECで買い物したお客が多かったと見られる。EC事業は2022年11月のスタートと後発だが、会員は既に300万人を突破。遅れをとったものの、確実に売上げを押し上げていると見て間違いない。
また、SNSでの情報発信がそのままECと連動していることも大きい。しまむらでは社内にスタジオを設け、インスタライブを配信。こうしたデジタルによる販促が非常に大きな効果をもたらした。実際、見てみるとプロが作ったというより、社内チームが取り組んだ動画制作にシマラーはじめ、多くのお客は惹かれているようだ。「らしさ」というか、気を衒っていない作りがちょうど良く、現物を見てみようという気にさせる。

お客さんの代表であるインフルエンサーの活用も奏功している。「ここのデザインがこうだったら」「この商品なら素材はこっちがいい」なんて、しまむらの服で自分が感じた印象をSNSを通じて発信する。それに共感を持つフォロアーが多ければ、アパレルや小売りとしても無視はできない。
「等身大コーデのMUMU」「星玲奈」。専属インフルエンサーとのコラボブランドが全国の主婦から絶大な支持を得たり、キレイ&カジュアルのスタイリング提案がヒットアイテムを生み出したり。その他「ULTRAMAN」や「王様戦隊キングオージャー」といったキャラクターものもキッズ向けでは王道のようで、こちらも売上げを牽引している。
業態別に見ると、しまむらの売上高は前期比4.9%増の4616億5500万円。売場の断片しか見ずに、メーカーの残在庫を安く仕入れているという識者もいたが、それだけなら昨季の好調はなかったと思う。同社はメーカーではないので、オリジナルは開発しない。しかし、ロットが大きいから、ベンダーは「同社専用商品」とするケースが多い。

それを進化させたのがPB、そしてサプライヤーと共同開発するJB(ジョイント・ディベロップメント・ブランド)だ。一時の低迷から脱却するためにコンセプトを見直し、高価格帯にシフトしながら、お客を捉えたことが好決算にも貢献したと言える。たとえば、「CLOSSHI」では機能性を高めた「CLOSSHI PREMIUM」、ビジネス向けの「CLOSSHI BIZ」を拡充させている。
ホームウエアや寝具の「ここちラボ」、洗濯機で洗える「お手軽シリーズ」、美脚ジーンズの「しまデニ」と、それぞれの特徴や機能を明確にしたリブランディングが奏功。しまむらが安さで売れてきたのは確かだが、同社内では高い機能性がお客にとって価値があるものなら、価格が多少高くなっても十分に勝負できるという手応えを得たと思う。その自信がさらに企画のレベルを上げていくはずだ。
筆者はしまむらをよく訪れる。以前は天神のノース天神に店舗があったが、ミーナ天神との一体改装で撤退。そのため、博多駅バスターミナルの店舗で売場、商品のチェックを行なっている。以前に比べると、テイストやルック提案が分かりやすくはなり、リブランディングされたPBではそれが解消、整理されつつあるように感じる。
一方、ECではPBが独立して打ちされているので、欲しかった商品を探しやすい。お客はそのままサイトで購入することもあれば、実店舗を訪れるケースもあるだろう。しまむらは安いからこそ買い逃しも、衝動買いもしたくないと、賢い消費者は考える。そんな心理にOMOというか、売り方のバリエーションがうまくフィットしたわけだ。
紙媒体の広告は見直すべきか
しまむらは2024年2月期の純利益が前期比4%増の395億円になる見通しも発表した。3期連続で最高を更新させよというのだから、PBなどで高機能、高価格帯の商品を拡充して売上げに寄与したことが自信に繋がっているようだ。
今期の売上げ目標は3%増の6365億円。しまむら業態の既存店売上げが1.5%伸びると想定しての目標額だ。原材料や人件費、物流費などの上昇で、商品単価は6~9%上がるというが、機能性を高めたPBなどをさらに拡充することで乗り切る構えと見て取れる。
正社員やP/Aの給与は、日本全体で賃上げ機運が盛り上がっているだけに、しまむらとして避けて通れない。優秀な社員やP/Aを確保する上ではなおさらだろう。それでも販売管理費は26%弱とわずかの増加にとどまる。計画では年に50店舗以上を出店するというから、売上増によって販管費は吸収できるとの目算なのだろうか。


ただ、しまむらはしまむら業態の他にアベイルやバースデイでも、新聞折り込みのチラシを目にする。毎回感じるのは新聞購読者の減少とチラシのレスポンス率だ。筆者がすむ福岡市では発行部数がいちばん多い西日本新聞ですら、購読者の減少に歯止めがかからない。
過去に80万部と言われた部数は現在、42万部程度(ABC調査)にまで減少している。2022年11月には、同紙の元販売店店主が押し紙で損害を被ったとして約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁に起こしたほどだ。それに残紙を加えれば、とても40万部も購読されているとは思えない。対前年比7~8%の減部と見て間違いないだろう。
お膝元の福岡市は人口が増えているにも関わらず、その中心は30代以下の若年層ということもあり、新聞離れが著しいということである。購読部数の減少は広告効果に繋がらず、折り込みチラシの見直しにも直結する。しまむらにとっても販管費に占める販促経費は、利益を上げるためには手をつけるべき重要課題ではないか。
しまむらは折込チラシのデジタル版(各エリアごと)も制作している。しまむら業態は子供からお年寄りまでターゲットだから、折り込みチラシを見て来店するお客もいるだろうが、新聞購読者の減少を考えると、それも年々少なくなっているのではないか。だからと言って、戸別のポスティングチラシに切り替えればいいというわけでもない。
アベイルは30歳以下のヤング、バースデイは幼児を持つファミリーがターゲットになる。こちらはネット&スマホ世代で、デジタル版のチラシで商品や販促をチェックしているのは間違いない。この世代は、国の少子化対策における子育て支援ともリンクする。しまむらとしても子育てに奮闘する層に対して、別の角度からアプローチしてもいいのではないか。
また、バースデイはシングルマザーの御用達でもあると聞く。なおさら、彼女たちに新聞を購読するような金銭的、時間的な余裕はない。新聞折込のチラシにレスポンスを期待するマーケティング手法を見直す時期に来ているのではないだろうか。子育てに奮闘する母親や父親への支援というマーケティングなら、有効な施策になると思う。
EC連動のインスタライブが効果を上げているのは、紙媒体の限界と表裏一体と言える。今年度の販売管理費は微増なのだから、折り込みチラシの経費分を別のマーケティング費に活用してもいいのではないか。広告宣伝はブランドロイヤルティを高めるものだし、プロモーションは商品の販売を促すものになる。マーケティングには欠かせないのだが、要はその内容と費用対効果だ。それにはデジタルを活用した双方向のマーケティングが不可欠と考える。
AIがここまで発展していることを考えると、お客の反応をAIに学習させておけば、最善のマーケティング手法を提案してくれ、それでいて販管費を最適化してくれるような技術が登場するのも、夢ではない。しまむらが今後の成長を続け、高収益を上げていくには、高価格帯商品の拡充だけではなく、背景にあるマーケティング戦略をいかに進めていくかである。
お客さんはもう安さだけで買ってくれない。それに代わる価値やメリットをいかに生み出すか。これからもさらに進化させていくことが「安さだけじゃないしまむら」「高いしまむらを売る」ことに繋がっていくと考える。