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いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

デリバリーの憂鬱。

2022-08-03 06:37:53 | Weblog
 Amazonは7月27日、北は青森から南は沖縄まで日本全国18か所にアマゾンの配送拠点「デリバリーステーション」を開設すると発表した。顧客が注文した商品を全国のフルフィルメントセンターなどから集約し、顧客宅の玄関先まで届けるラスト・ワンマイルの起点にする狙いで、独自配送により「700万点以上の商品の翌日配送を可能」とする。そのため、Amazon側は新たにAmazon Flexの配送ドライバー数千人を雇用する予定という。



 また青森、岩手、長野、徳島、香川、愛媛、高知、熊本、沖縄では「置き配指定サービス」が利用できる。これは顧客が買い物をする際、宅配ボックス、ガスメーターボックス、車庫、自転車かご、玄関先など、好きな場所を指定できるもの。受け取りに立ち会う必要がないため、コロナ禍では非接触で安全性が高い。配送側にとっても再配達の手間が省け、CO2排出量の削減につなげられる。Amazonとしては環境に配慮したサービスという触れ込みだ。

 少し前のデータだが、「2020年中小企業インパクトレポート」によると、Amazon.co.jpに出品し、年間売上高(税込)が1,000万円を超えた日本の中小の販売事業者数は3,000社以上、1億円を超えた同販売事業者は500社以上で、「商品販売数は4億点を超えた」という。データが示す通り、表向きは大躍進とも言えるが、それを支えるのはフルフィルメントやデリバリーに従事する従業員たちの過酷な労働に他ならない。

 Amazonの労働問題は、横田増生氏の潜入ルポ「Amazon帝国」などで詳しく紹介されているので、ここで言及することは控えたい。ただ、デリバリーステーションの拡張により、Amazon側は「多様でやりがいのある働く機会を創出する」と言うが、フルフィルメントセンターをはじめ、ステーション、配送ドライバーの労働環境や賃金体系が働く側にとって本当に望ましいものかどうかは未知数だ。



 また、荷物はメール便から食品、衣類、雑貨、はては家具類までと種々雑多で、フルフィルメントセンターにはFBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)でマーケットプレイスの出品者が商品を保管できるにしても、全ての商品をセンターにストックし、配送することはできない。また、Amazon独自の配送で700万点以上の商品の翌日配送が可能にすれば、センターからデリバリーステーションまでの輸送量はもとより、ステーションでの「荷下ろし」、配送コース別の「仕分け」など、「人の手」に頼らざるを得ない作業がさらに増えていく。

 AmazonはAmazon Flexの配送ドライバーを新規に雇用するという。だが、それは黒ナンバーをつけた個人の運送業者(赤帽)を活用するか、新規就労者をわずか4週間の研修で1日あたり90個のノルマを目標に育成するものだ。

 「配送の空いた時間をAmazonのデリバリーに充てれば収入増になる」「日給1万2000円(配送業者は2万円)」という謳い文句だろうが、土地勘のあるエリアで都合よく荷物の配達があるのか。また、既存の運送業者がAmazonの仕事のために離れた配送拠点まで商品を取りに行くことがガソリン代が高騰する中で現実的なのか等など、課題は少なくない。



 個人運送業者が利用する車は、燃料コストの削減から「軽ワゴン車」だ。メール便やネコポス、3辺合計が60cm程度の小さい荷物なら大量に運べるが、Amazonでは木&鉄製の棚、椅子、衣装ケース、40インチ以上のテレビなど「重く」、「嵩張る」商品の注文も増えている。一辺が1m程度の荷物になれば、軽ワゴン車に積める個数は限られ、他の小口荷物が積めなくなる。だから、大きな荷物は、「時間指定」ともに従来通りヤマト運輸の2トン車で運ぶことに変わりはない。

 結局、Amazonは配送拠点の開設でラストワンマイルの体制を充実させ、700万点以上の商品の翌日配送を可能にすると言ったところで、それは商品次第ということ。前出のようにFBAがあるにしても、それ以外(マーケットプレイス含む)から出荷される商品は、このカテゴリーから外れる。

 Amazonは注文客のメリットばかりを訴えているが、その背景にいるフルフィルメントセンターで働くスタッフなどエッセンシャルワーカーに対する労務改善には何も触れようとしない。現にセンターで作業中になくなっている人が何人もいるのだ。むしろ、そうした諸々を含めた物流改革がカギであることをAmazonはどう思っているか、である。


「スマホ1つで生活できる」便利さのしわ寄せ

 Amazonの他にヤフー、楽天、ゾゾといったECプラットフォーマー、メーカーや小売事業者の直通販、メルカリなどの個人取引、企業間の小口荷物は、どのような物流システムで動いているのか。一般的にはヤマト運輸に代表される「ハブ&スポーク型」というシステムだ。この仕組みは簡単に言うと、以下のような流れになる。

①ドライバー(主に2トン車)が企業や家庭などで荷物を集荷

②ドライバー所属のエリアセンター(地域の集配拠点)で、配送先別のボックスに分別

③各ボックスを10トン車でリージョナル拠点(県ごと)まで輸送し
(午前集荷で14時発)集約

④リージョナル拠点で配送方面のリージョナル拠点別に仕分け、夜間に輸送

⑤リージョナル拠点に着荷した荷物を早朝にエリアセンター別に仕分け、10トン車で輸送

⑥エリアセンターに着荷した荷物を配送先の企業、家庭別(各担当ドライバー別)に仕分け

⑦ドライバーが企業や家庭などに荷物を配送




 簡単に言えば、出荷側のエリアセンター(地域集配拠点)とリージョナル拠点、着荷側のリージョナル拠点とエリアセンターで計4回の積み替えが発生する。そして、エリアセンターに着荷した大小の荷物を鉄製のコンテナボックスから出してコース別に仕分けするのは、パート社員だ。重さにして100グラム程度から20キロ弱までの荷物全てを人間が手作業で行うので決して楽な仕事ではない。リージョナル拠点ではベルトコンベアでエリアセンター毎に仕分けされるが、それが故障すると「混載」となり、エリアセンターでの作業がさらに煩雑になる。



 つまり、ECの荷物が莫大に増えているため、宅配事業に多大な負荷がかかっているのだ。また、荷物は集荷、着荷後に最短で届けるだけではない。「期日指定」(企業が休日の場合も)や「コレクト便」もある。受け取り日指定やコレクト便があれば、スタッフが携帯用の「時点管理登録機(ポータブルポス)」を用いて入力を行う。それらは当日分とは別に仕分けし、配送日までエリアセンターに留め置かれる。入力は担当ドライバーがPCで配送日を確認できるようにするためだ。

 また、Amazon Fresh、ネットスーパーやメーカーのECでは、生鮮冷蔵冷凍の食品配送もある。それらも一般荷物と同様に輸送システムに組み込まれ、「冷蔵」「冷凍」別のクーラーボックスで輸送される。エリア拠点では別々に仕分けされ、各トラックの左右側面の保冷庫に載せられて、一般の荷物と一緒に配送される。ただ、夏場は荷物の積み込み作業中でも保冷機能を維持するには、トラックのエンジンをかけなければならない。当然、CO2を排出するわけで、環境に配慮するのは簡単ではないのだ。



 契約ドライバーの軽ワゴン車で保冷庫が付いていないものは、荷台に置かれた大型の「保冷バッグ(ドライアイスや保冷剤入り)に積み込む。人間が積み替え、積み込みの作業を行うため、輸送用のクーラーボックスやエリアセンターの保冷庫から外に出して外気に晒すと、荷物の保冷温も上昇する。まだまだ原始的な部分が少なくない。この猛暑でクール便がどこまできちんと温度管理され、お客の元に配送されているかは不透明なのだ。

 Amazon Freshでは注文から最短4時間で商品が発送されるほか、配達時間の指定範囲が午前8時から深夜0時までの2時間刻みという幅広さの背景には、過酷なアナログ作業をこなす人間がいることも知っておくべきである。

 Amazonが翌日配送を充実するために配送拠点を増やしていけば、その分、荷物は増えていく。しかも、競合他社が同じようなサービスを導入するのは時間の問題だ。一方、宅配事業者が作業負担をできるだけ削減するには無駄な乗り換え、載せ換えを無くし、時間もコストも圧縮できるP2P(point to point)体制を整える必要がある。また、鉄枠のコンテナボックスにバラバラに積み込むような荷姿を改め、仕分けを完全自動化することが欠かせない。

 Amazonが配送ドライバーを新規に雇用するのは、個人運送業者を組織化してラストワンマイルを分担させる狙いだと見られる。そこは他のネット事業の物流に比べると一歩リードという感じだ。ただ、肝心なフルフィルメントセンターから配送拠点のデリバリーステーションまでの輸送体制やステーションでの仕分け作業をどうするのかなどの課題もある。

 アパレル業界では、EC向けのピッキング作業を行う自律走行搬送ロボットがようやく導入されるようになった。だが、全国物流は依然として大手宅配事業者に頼らざるを得ないのが現状だ。これから宅配事業者と共同で物流革新に挑むところが現れるのか。

 「スマホ一つで生活できるようにしたい」と宣う経営者こそ、ECをより発展させるために必要な物流革新に目を向けるべきではないのか。そこにある様々な課題が解決しない以上、デリバリーに携わる人々の憂鬱は続くのである。

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