新年度がスタートした。コロナ感染の終息どころか、また新たな変異株が懸念されている。もう、毎日の感染者数に一喜一憂しても仕方ない。ワクチン接種と感染対策を施しながら、ウィズコロナで進めるはず。むしろ、これ以上経済の停滞を起こさないことを考えるべきだ。人々の消費スタイルはコロナ禍以前とは大きく変わった。これをチャンスと見て、新たなビジネスにチャレンジする方がいいと思う。
4月と言えば、ブランドデビューや新業態、新店のオープンがあるが、ほとんどが焼き直しや一部を修正したようなものが多い。プロダクトアウトと言えば少しニュアンスが異なるが、消費者の共感を得られるモノづくりの視点で見ると、納得できるものもある。気を衒うことなく、お客さんに「こんな商品が欲しかったのよ」「あの店なら欲しい商品が見つかりそう」と言ってもらえるくらいがちょうどいいのかもしれない。
消費者側は巣篭もりが続いたため、外出したくなっている。ニューヨーク時代に知り合ったある経営者が語った「人間は外に出たい性分なんだよ」という名言を思い出す。外出する機会が増えれば、昨日と今日の自分を変えたくなる。その一歩は服を着替えることで、新しい服が欲しくなる。もちろん、ライフスタイルの構造は変わっており、節約できる部分を消費に回す傾向が生まれている。ビックマーケットを狙うより、ピンポイントでファン客を捉えて増やす方が得策だ。その意味で、D2Cブランドには大いに期待している。
そのD2Cブランドとの協業に苦戦が続く百貨店が活路を見出そうとしている。売却先を探しているそごう・西武の「CHOOSEBASE SHIBUYA」がそうだ。700m2のスペースにサスティナビリティをテーマに54ブランドをラインナップする。商品についたQRコードをスマートフォンで読み、専用のサイトで価格や特徴を確認できる。購入したいのであれば、ECサイトのカートに入れてレジに向かい決済する。百貨店の敷居がぐんと下がったと言える。
ブランド側からの引き合いも多いようで、週末だけの展開や3ヶ月だけの出店も可能にした。百貨店側も短期間でも出展料と売上げ歩率を取れるので御の字か。それほど切羽詰まっている状況の裏返しでもあるが、もう委託販売や消化仕入れでビジネスが成り立つ時代ではない。百貨店には新興ブランドと消費者をつなげる結節点、在庫管理の拠点としてECと連動させる役割も求められる。外出したい客の「デスティネーションストア」になれるかがカギだ。
大丸東京店の「明日見世」もショールーミングの拠点。4階エスカレーター横で約100m2ほどの規模だが、コスメやアパレル、飲料など20ブランドが揃う。こちらも接客要員の「アンバサダー」が常駐するが、その場で商品は売らずEC購入のみ。お客の側が「物を売り付けられるのでは」という抵抗感の排除に気を配る。アンバサダーは商品説明をするだけだから、売れるか売れないかはブランド次第。まさに消費者が共感できるかが肝になる。
ものづくりを行いサイトに掲載するだけでは限界がある。消費者に現物を見て触って体験してもらうことが必要だ。当然、商品説明の人材やノウハウが不可欠だが、リアル店舗と言っても出店には相応のコストがかかる。ならば、短期のポップアップストアから始める。経営基盤がまだまだ脆弱なブランドにとって百貨店が場所を提供してくれるのは願ったりだと思う。
高島屋も4月下旬、新宿店2階にD2Cブランドに特化した売場を開設する。こちらも高島屋のスタッフが接客や購入方法を説明するだけ。ブランド側は売場に展開する商品とネットに出品するものを準備するだけ。将来的には国内だけでなく、ASEANを中心に高島屋以外の店舗にも出店し、越境ECの展開も視野に入れている。
福岡にもかつては百貨店だったマルイの博多店が3月にポップアップスペース「cocsept shops」をオープンした。小規模事業者に小売りの第一歩をサポートする目的で開設。売場は複数ブランドでシェアし、約2坪のスペースを最大11区画まで展開できる。食品からコスメ、アパレル・雑貨の販売のほか、ワークショップやライブ配信、広報活動やセミナーまで様々な利用が可能だ。マルイの社員が常駐し、出店者の目的やニーズに合わせた支援も行う。
「百貨店=中高年向けの店」の時代ではない。百貨店も取引先との主従関係=「うちが売ってやる」的な考えを改め、出店側、お客側の若者双方からも認められる業態にならないと、明日はないということだ。
ジェンダーフリーをD2Cアパレルはどう表現するか
時代も社会も変わった。女性が服を着る理由も目的も変化している。性別や民族性などから解放されることも、新しい服作りの価値になりつつある。そんな性格をもつD2Cブランドが登場しているが、既存のアパレルでもジェンダーフリーを意識し始めたところがある。
例えば、スポーツブランドではこれまで同じ素材でも、パターンを変えることでレディス、メンズに対応してきた。ところが、あるブランドはスポーツラインのレーベルで性別の垣根を完全に取り払った。
素材、デザイン、パターン、カラーは男女一体で、商品を企画。お客にはサイズ違いで選んでもらう。「肩幅やビップのラインが違う」「ウエストが寸胴になる」なんて考えこそ、このレーベルにとっては錯誤なのだろう。まさに目から鱗である。その理由を説明するために、コンセプトには「女性向けブランドがどのようなものかを再定義することを目的とします」と、掲げている。
多くのレディスブランドが目指す方向性は、「可愛らしい」「愛される」「上品」「清楚」「スウィート」「コンサバ」だった。それはどこかに他人によく見られたい。周囲の目線を意識したもので、将来は「良き妻、良き母になる」。そんな意味合いもあった。このブランドにとってこうした要素は呪縛でしかない。それから解放されるところに服作りの価値を見出す。また、そうありたい女子たちに刺激を与え、共感を持たれることが目的なのだ。
コンセプトには続きがある。「私たちは、若い女性がまさに自分のありのまま心と姿で、日常生活の中で自由で自立し自信を持って、クールに感じられるように力を与えることを奨励したいと考えています」と。「女性」を男性に変えても意味は通じる。身体は女性でも男性の心を持つ人にも抵抗なく着てほしいという思いもあるだろう。
だから、百貨店各社が展開するD2Cブランドの売場では、こうした人々も意識すればさらに市場は広がるのではないか。まだまだ自分のジェンダーを堂々と打ち明けることには憚れる。だから、スタッフに外見だけを見てアプローチされるのは抵抗があるだろう。自分で選べるのはいいのだが、試着や迷った時に助言を求めたいこともある。LGBTの人が実店舗でストレスなく商品をお見分けでき、説明に納得してネットで購入できるようになれば、多様化と言われる市場の中で攻略できるパイはあるはずだ。
大規模小売店法が改正された90年代以降、大型SCが開業しテナント誘致を競い合った。「〇〇初出店」「〇〇初上陸」を看板にして魅力を訴えてきたが、小売りやメーカーが在庫を抱えて販売する実店舗モデルは、ECの時代には頭打ちになっている。メーカー側はEC展開で多くの消費者にアプローチできるわけだから、小売りにとってなおさらブランド開拓は非常に難しくなっている。
だからこそ、百貨店にはそこまで経営基盤を持たない弱小ブランドの孵化器となる役割も求められるのだ。在庫を持たず、販売員も要らない。おまけに出店コストもぐんと抑えられる。ならば、弱小ブランドにとって出店のハードルが下がり、その分をモノづくりに振り向けられる。もちろん、そこには全てをデジタルで管理することも必要だ。ただ、市場が細分化され、お客が多様化すれば、量産・量販ブランドだけでは攻略できない。小売り側にはそんなブランドの開拓が求められる。
D2Cブランド側にも実店舗を出店する明確な目的が必要になる。まずはいかに売上増につなげるか。また、店舗を広告宣伝用の媒体として活用できるか。そして、接客スタッフやサイトのレビューを通じて得られる声をモノづくりに生かせるか。もちろん、売れることは大事だが、売れ筋を追求するあまりにブランドの世界観が損なわれるのであれば、本末転倒。売上げ、プロモーション、マーケティングのバランスがとても大事なのだ。
先のジェンダーフリーのブランドは、購入して実際に着てみようと思っている。そのインプレッションはこのコラムで後日、紹介することにする。
4月と言えば、ブランドデビューや新業態、新店のオープンがあるが、ほとんどが焼き直しや一部を修正したようなものが多い。プロダクトアウトと言えば少しニュアンスが異なるが、消費者の共感を得られるモノづくりの視点で見ると、納得できるものもある。気を衒うことなく、お客さんに「こんな商品が欲しかったのよ」「あの店なら欲しい商品が見つかりそう」と言ってもらえるくらいがちょうどいいのかもしれない。
消費者側は巣篭もりが続いたため、外出したくなっている。ニューヨーク時代に知り合ったある経営者が語った「人間は外に出たい性分なんだよ」という名言を思い出す。外出する機会が増えれば、昨日と今日の自分を変えたくなる。その一歩は服を着替えることで、新しい服が欲しくなる。もちろん、ライフスタイルの構造は変わっており、節約できる部分を消費に回す傾向が生まれている。ビックマーケットを狙うより、ピンポイントでファン客を捉えて増やす方が得策だ。その意味で、D2Cブランドには大いに期待している。
そのD2Cブランドとの協業に苦戦が続く百貨店が活路を見出そうとしている。売却先を探しているそごう・西武の「CHOOSEBASE SHIBUYA」がそうだ。700m2のスペースにサスティナビリティをテーマに54ブランドをラインナップする。商品についたQRコードをスマートフォンで読み、専用のサイトで価格や特徴を確認できる。購入したいのであれば、ECサイトのカートに入れてレジに向かい決済する。百貨店の敷居がぐんと下がったと言える。
ブランド側からの引き合いも多いようで、週末だけの展開や3ヶ月だけの出店も可能にした。百貨店側も短期間でも出展料と売上げ歩率を取れるので御の字か。それほど切羽詰まっている状況の裏返しでもあるが、もう委託販売や消化仕入れでビジネスが成り立つ時代ではない。百貨店には新興ブランドと消費者をつなげる結節点、在庫管理の拠点としてECと連動させる役割も求められる。外出したい客の「デスティネーションストア」になれるかがカギだ。
大丸東京店の「明日見世」もショールーミングの拠点。4階エスカレーター横で約100m2ほどの規模だが、コスメやアパレル、飲料など20ブランドが揃う。こちらも接客要員の「アンバサダー」が常駐するが、その場で商品は売らずEC購入のみ。お客の側が「物を売り付けられるのでは」という抵抗感の排除に気を配る。アンバサダーは商品説明をするだけだから、売れるか売れないかはブランド次第。まさに消費者が共感できるかが肝になる。
ものづくりを行いサイトに掲載するだけでは限界がある。消費者に現物を見て触って体験してもらうことが必要だ。当然、商品説明の人材やノウハウが不可欠だが、リアル店舗と言っても出店には相応のコストがかかる。ならば、短期のポップアップストアから始める。経営基盤がまだまだ脆弱なブランドにとって百貨店が場所を提供してくれるのは願ったりだと思う。
高島屋も4月下旬、新宿店2階にD2Cブランドに特化した売場を開設する。こちらも高島屋のスタッフが接客や購入方法を説明するだけ。ブランド側は売場に展開する商品とネットに出品するものを準備するだけ。将来的には国内だけでなく、ASEANを中心に高島屋以外の店舗にも出店し、越境ECの展開も視野に入れている。
福岡にもかつては百貨店だったマルイの博多店が3月にポップアップスペース「cocsept shops」をオープンした。小規模事業者に小売りの第一歩をサポートする目的で開設。売場は複数ブランドでシェアし、約2坪のスペースを最大11区画まで展開できる。食品からコスメ、アパレル・雑貨の販売のほか、ワークショップやライブ配信、広報活動やセミナーまで様々な利用が可能だ。マルイの社員が常駐し、出店者の目的やニーズに合わせた支援も行う。
「百貨店=中高年向けの店」の時代ではない。百貨店も取引先との主従関係=「うちが売ってやる」的な考えを改め、出店側、お客側の若者双方からも認められる業態にならないと、明日はないということだ。
ジェンダーフリーをD2Cアパレルはどう表現するか
時代も社会も変わった。女性が服を着る理由も目的も変化している。性別や民族性などから解放されることも、新しい服作りの価値になりつつある。そんな性格をもつD2Cブランドが登場しているが、既存のアパレルでもジェンダーフリーを意識し始めたところがある。
例えば、スポーツブランドではこれまで同じ素材でも、パターンを変えることでレディス、メンズに対応してきた。ところが、あるブランドはスポーツラインのレーベルで性別の垣根を完全に取り払った。
素材、デザイン、パターン、カラーは男女一体で、商品を企画。お客にはサイズ違いで選んでもらう。「肩幅やビップのラインが違う」「ウエストが寸胴になる」なんて考えこそ、このレーベルにとっては錯誤なのだろう。まさに目から鱗である。その理由を説明するために、コンセプトには「女性向けブランドがどのようなものかを再定義することを目的とします」と、掲げている。
多くのレディスブランドが目指す方向性は、「可愛らしい」「愛される」「上品」「清楚」「スウィート」「コンサバ」だった。それはどこかに他人によく見られたい。周囲の目線を意識したもので、将来は「良き妻、良き母になる」。そんな意味合いもあった。このブランドにとってこうした要素は呪縛でしかない。それから解放されるところに服作りの価値を見出す。また、そうありたい女子たちに刺激を与え、共感を持たれることが目的なのだ。
コンセプトには続きがある。「私たちは、若い女性がまさに自分のありのまま心と姿で、日常生活の中で自由で自立し自信を持って、クールに感じられるように力を与えることを奨励したいと考えています」と。「女性」を男性に変えても意味は通じる。身体は女性でも男性の心を持つ人にも抵抗なく着てほしいという思いもあるだろう。
だから、百貨店各社が展開するD2Cブランドの売場では、こうした人々も意識すればさらに市場は広がるのではないか。まだまだ自分のジェンダーを堂々と打ち明けることには憚れる。だから、スタッフに外見だけを見てアプローチされるのは抵抗があるだろう。自分で選べるのはいいのだが、試着や迷った時に助言を求めたいこともある。LGBTの人が実店舗でストレスなく商品をお見分けでき、説明に納得してネットで購入できるようになれば、多様化と言われる市場の中で攻略できるパイはあるはずだ。
大規模小売店法が改正された90年代以降、大型SCが開業しテナント誘致を競い合った。「〇〇初出店」「〇〇初上陸」を看板にして魅力を訴えてきたが、小売りやメーカーが在庫を抱えて販売する実店舗モデルは、ECの時代には頭打ちになっている。メーカー側はEC展開で多くの消費者にアプローチできるわけだから、小売りにとってなおさらブランド開拓は非常に難しくなっている。
だからこそ、百貨店にはそこまで経営基盤を持たない弱小ブランドの孵化器となる役割も求められるのだ。在庫を持たず、販売員も要らない。おまけに出店コストもぐんと抑えられる。ならば、弱小ブランドにとって出店のハードルが下がり、その分をモノづくりに振り向けられる。もちろん、そこには全てをデジタルで管理することも必要だ。ただ、市場が細分化され、お客が多様化すれば、量産・量販ブランドだけでは攻略できない。小売り側にはそんなブランドの開拓が求められる。
D2Cブランド側にも実店舗を出店する明確な目的が必要になる。まずはいかに売上増につなげるか。また、店舗を広告宣伝用の媒体として活用できるか。そして、接客スタッフやサイトのレビューを通じて得られる声をモノづくりに生かせるか。もちろん、売れることは大事だが、売れ筋を追求するあまりにブランドの世界観が損なわれるのであれば、本末転倒。売上げ、プロモーション、マーケティングのバランスがとても大事なのだ。
先のジェンダーフリーのブランドは、購入して実際に着てみようと思っている。そのインプレッションはこのコラムで後日、紹介することにする。