7月13日付けの「繊研PLUS」が取り上げた「デザイナーブランドのファッションサイクルは変わるのか」。(https://senken.co.jp/posts/designer-brand-innovation)一般メディアが有名ブランドの破綻やコロナ禍で起きた店舗閉鎖ばかりを取り上げる中、現場の思いや業界のリセットにまで切り込んで、背景にあるものを探ろうとする。業界紙ならではのスタンスだと思う。
きっかけとなったのは、BFC(英国ファッション協会)とCFDA(アメリカファッションデザイナー評議会)が共同で発したメッセージだ。「年2回のコレクション以上にシーズンを増やさないことを含むガイドライン」を示すもの。繊研の記者は「サンローラン」や「グッチ」がファッションウィークへの参加を見送ったことで、これ以上脱落するメゾンやブランドが出ないように予防線を張ったと、分析する。
また、多くのブランドにとって春夏、秋冬のコレクションは単なるショーと化し、プレコレクションが商品の売る場としての比率は高いとも。世界最大のファッション市場、米国ではプレコレクションは1年を4スパンに分けて商品が投入される。3カ月ごとに売場を変えてシーズン商品を売り、売れ残りはマークダウンして捌く。こうした商慣習に合わせて、プレコレクションが「既製服を販売する」ビジネスの標準となってしまったという見方だ。
すぐに慣習を変えて、年2回のコレクションのみに転換することは難しいが、回数を減らす分、別の工夫で対応できることもあるようだ。
以下はニューヨーク、ロンドンの各通信員が考える提案である。
○プレスプリングと春夏、プレフォールと秋冬をそれぞれ1シーズンにまとめる。
○必要に応じて、生産量を限定した協業やカプセルコレクションを差し込む。
○卸売りを減らし、消費者に直接売る。
○お客が必要とする時期に合わせて作り、直接売る。
○生産のアジア依存度を減らし、近場で作る。
○ショーではなく展示会で対応するべき。
○今後も一丸となってクリエイティビティーを絶やさないように改革を進めよう。
通信員はデザイナーを取材しているから、現状の仕組みでは少なからず立ち行かなくなっていることも感じている。筆者もニューヨークでプレコレクションを見た経験があるが、確かにそのシステムは3カ月で商品を売り切り、計画した利益を出すことを前提にしたも。だから、価格設定(マークアップ)は売れ残りロス分まで載せる分、他国の水準よりも高いと感じた。世界的に景気が不安定な今、割高な価格では短期で在庫を消化できるはずもなく、トレンドを外せば大量の売れ残りを出す。あとはマークダウンして売り、少しでも現金化するしかない。
とにかく投資コストを早く回収したい米国型ビジネスに合わせ、急ピッチでクリエーションとプロダクトをこなしていくことに、デザイナーらが疑念を持つようになったのは当然。それでなくても、アパレル業界は大量の商品を廃棄している。サスティナブル、持続可能な社会の実現からしても、なるべく無駄な物を生み出さないスローアパレルが模索されているのだ。
また、バイヤーやプレスがコレクションとプレコレクションの両方に出向くには、相当の移動時間を要し、かかる経費もバカにならない。コレクション会場に招待されることは名誉であり、ステイタスを感じられるが、ショーを見るだけならオフィスでも可能になった。PC画面でも高精細な4K動画が見られるわけだから、現地に行かなければデザイナーの作風や特徴がわからないってことはない。もちろん、生地の質感を確かめるにはスワッチを入手しておけばいいわけで、コレクション見物より現物の仕入れに時間と経費をかける方が重要との考え方もできる。
むしろ、ブランド側こそ、もっとインターネットを活用すべきではないか。わずか10分程度のショーだけでなく、生地選びから創作風景、服作りまでの動画を制作し、ショーやバックステージの模様と一緒に発信した方がデザイナーがそのシーズンにかける思いがバイヤーや消費者には伝わりやすい。また、展示会やカプセルコレクションなどに経費をかけ、スワッチ配布などバイヤー目線で「売り」につなげる。メディアが取材をしたいのであれば、改めてアポを取りリモートで行うこともできる。ビジネスのやり方をいろいろ変えてみる時期が来ているのは確かだ。
現地に行かずに商品買い付け
さらにコロナ禍により、リモートビジネスが一気に浸透し、商品のバイイングまで変わろうとしている。シーズンは年2回のコレクションに止めるメッセージを出したBFC主催のロンドンファッションウィークでは、今年6月の2021年春夏コレクションを世界で初めてオンラインで実施した。しかも、そこで出展された商品をオンラインで買い付けることを可能した。コレクションを見せる場と同時にビジネスの場にもした。メッセージの布石とも受け取れる。
こうした仕組みは、世界最大の衣料品ホールセールサイトを運営する「ジョア」が手がけるもので、バイヤーは動画を見ながら、仕入れたい商品の数量やサイズなどを入力すればオーダーは可能。まさにウィズコロナ時代におけるリモートバイイングというわけだ。数年前のファッションウィーク福岡でもお披露目された「着こなしを360度で確認できるシステム」も、ジョアは導入。バイヤーは服のフォルムを正面や斜だけでなく、真横や真後ろまでの見ることができる。
ジョアには伊藤忠商事も出資しており、世界中のコレクションとも連携を進める。10月に日本で開催予定の楽天ファッションウィークでも、参加ブランドをサポートするという。さらにリアルなショーや展示会をオンラインで行うサービスも登場した。見本市サイトをPCで見ながらオンライン上でオーダーシートの作成までできるものだ。特別定額給付金の申請のように成り済ましやシステムダウンが起こるわけではないだろうから、バイヤーにとっては安心できる。
ただ、どうなのだろう。ネット上で商品を見て、仕入れることが可能になると、消費者のネットショッピングと同様に「ポチッ」てしまうケースが多くなりはしないか。バイヤーの悪癖である感覚や見た目だけによる衝動的な仕入れに陥ってしまう懸念だ。バイヤーの仕事の基本はデジタル時代でも変わらない。月ごとの品揃え計画の中で売り筋を決め、その商品を販売する仕掛けを考えて、売場のゾーニングから商品の編集、演出、販促までを行うことである。
筆者が知る有能なバイヤーさんは、以下のようなことを徹底していた。必ず仕入れのチェックリストを持ち、アイテムのウエイトバランスを崩さず、自店の販売計画に即した納期確認で発注し、1型あたりの発注量をオーバーせず、追加発注枠を残し、売上げ100%=仕入れ100%ではないこと等々。今でもバイイングの基本ではないだろうか。
ネット画像だけを見て思いつきで仕入れてしまうと、シーズンの中で何を軸に品揃えしていくかが不明確になっていく恐れもある。現物(生地を含め)を見てないと、熟考できない面もあるからだ。仕入れには自分、外部、社内、社外という4つの情報ルートを持った上で、品揃えのバランスを考えることが重要であり、それはデジタル時代でも決して疎かにしてはならないのである。
中間業者を無くせば価格は下がるのか?
もっとも、こうしたシステムが進んでいくと、アパレルブランドが直接消費者に販売する=D2C(Direct to Consumer)が浸透するのも時間の問題だろう。そうなると、卸を担う商社やインポーター、さらに小売店すら必要でなくなってしまうのだろうか。数々の海外ブランドを日本に定着させた伊藤忠商事がホールセールサイトのジョアに投資したのは、そうした危機感の表れかもしれない。果たして卸や小売りは必要でなくなるのか。
アパレルが消費者に直接販売するD2Cは、需要と供給のギャップがなく、中抜きでコストが抑えられ、商品の廃棄もないからサスティナブルにも貢献する。でも、本当にそうなのだろうか。D2Cであっても、アパレル側は在庫を抱えなくてはならない。それをお客に購入してもらえなければ、どうしてもロスは出る。廃棄が完全になくなるわけではない。
在庫を抱えず受給ギャップをなくすには、完全受注生産にせざるを得ない。しかし、お客さんが欲しい時に商品がなければ、売り逃すこともある。しかも、オーダースーツなんかで行われるC2M(Customer to Manufactory)は、既存のパターンを利用するもので、デザインまでお客の自由になるというものではない。完全オリジナルではないことを商品を購入する側のお客がどこまで理解しているかである。
また、アパレルブランドから直接消費者に販売すれば、理論上は間に卸や小売りが介在しないから中間コストが抑えられて、販売価格が安くなる。しかし、米国ですでに行われているD2Cでは、中間業者がいないにも関わらず、そのメリットをお客が受けることはできてない。結局、ベンチャービジネスであるため、投資家から資金が流れるマネーゲームの対象になっている過ぎず、まだまだ消費者還元には程遠いのだ。結局はラグジュアリーブランドと同じく、作る側にいるものが儲けたいことには変わりないようである。
いろんな意味で、コロナ禍はアパレルビジネスの弱点を突き、ある企業は破綻に追い込まれ、ある企業は変革を余儀なくされた。要は変わるべき部分と残していく部分のバランスを取りながら、いかに時代の変化に即応するか。まずはデザイナー側が口火を切ったことは、ビジネス側も頭を切り替えるべきだと言うことに他ならない。永遠に成長が続くことはないのだから。
きっかけとなったのは、BFC(英国ファッション協会)とCFDA(アメリカファッションデザイナー評議会)が共同で発したメッセージだ。「年2回のコレクション以上にシーズンを増やさないことを含むガイドライン」を示すもの。繊研の記者は「サンローラン」や「グッチ」がファッションウィークへの参加を見送ったことで、これ以上脱落するメゾンやブランドが出ないように予防線を張ったと、分析する。
また、多くのブランドにとって春夏、秋冬のコレクションは単なるショーと化し、プレコレクションが商品の売る場としての比率は高いとも。世界最大のファッション市場、米国ではプレコレクションは1年を4スパンに分けて商品が投入される。3カ月ごとに売場を変えてシーズン商品を売り、売れ残りはマークダウンして捌く。こうした商慣習に合わせて、プレコレクションが「既製服を販売する」ビジネスの標準となってしまったという見方だ。
すぐに慣習を変えて、年2回のコレクションのみに転換することは難しいが、回数を減らす分、別の工夫で対応できることもあるようだ。
以下はニューヨーク、ロンドンの各通信員が考える提案である。
○プレスプリングと春夏、プレフォールと秋冬をそれぞれ1シーズンにまとめる。
○必要に応じて、生産量を限定した協業やカプセルコレクションを差し込む。
○卸売りを減らし、消費者に直接売る。
○お客が必要とする時期に合わせて作り、直接売る。
○生産のアジア依存度を減らし、近場で作る。
○ショーではなく展示会で対応するべき。
○今後も一丸となってクリエイティビティーを絶やさないように改革を進めよう。
通信員はデザイナーを取材しているから、現状の仕組みでは少なからず立ち行かなくなっていることも感じている。筆者もニューヨークでプレコレクションを見た経験があるが、確かにそのシステムは3カ月で商品を売り切り、計画した利益を出すことを前提にしたも。だから、価格設定(マークアップ)は売れ残りロス分まで載せる分、他国の水準よりも高いと感じた。世界的に景気が不安定な今、割高な価格では短期で在庫を消化できるはずもなく、トレンドを外せば大量の売れ残りを出す。あとはマークダウンして売り、少しでも現金化するしかない。
とにかく投資コストを早く回収したい米国型ビジネスに合わせ、急ピッチでクリエーションとプロダクトをこなしていくことに、デザイナーらが疑念を持つようになったのは当然。それでなくても、アパレル業界は大量の商品を廃棄している。サスティナブル、持続可能な社会の実現からしても、なるべく無駄な物を生み出さないスローアパレルが模索されているのだ。
また、バイヤーやプレスがコレクションとプレコレクションの両方に出向くには、相当の移動時間を要し、かかる経費もバカにならない。コレクション会場に招待されることは名誉であり、ステイタスを感じられるが、ショーを見るだけならオフィスでも可能になった。PC画面でも高精細な4K動画が見られるわけだから、現地に行かなければデザイナーの作風や特徴がわからないってことはない。もちろん、生地の質感を確かめるにはスワッチを入手しておけばいいわけで、コレクション見物より現物の仕入れに時間と経費をかける方が重要との考え方もできる。
むしろ、ブランド側こそ、もっとインターネットを活用すべきではないか。わずか10分程度のショーだけでなく、生地選びから創作風景、服作りまでの動画を制作し、ショーやバックステージの模様と一緒に発信した方がデザイナーがそのシーズンにかける思いがバイヤーや消費者には伝わりやすい。また、展示会やカプセルコレクションなどに経費をかけ、スワッチ配布などバイヤー目線で「売り」につなげる。メディアが取材をしたいのであれば、改めてアポを取りリモートで行うこともできる。ビジネスのやり方をいろいろ変えてみる時期が来ているのは確かだ。
現地に行かずに商品買い付け
さらにコロナ禍により、リモートビジネスが一気に浸透し、商品のバイイングまで変わろうとしている。シーズンは年2回のコレクションに止めるメッセージを出したBFC主催のロンドンファッションウィークでは、今年6月の2021年春夏コレクションを世界で初めてオンラインで実施した。しかも、そこで出展された商品をオンラインで買い付けることを可能した。コレクションを見せる場と同時にビジネスの場にもした。メッセージの布石とも受け取れる。
こうした仕組みは、世界最大の衣料品ホールセールサイトを運営する「ジョア」が手がけるもので、バイヤーは動画を見ながら、仕入れたい商品の数量やサイズなどを入力すればオーダーは可能。まさにウィズコロナ時代におけるリモートバイイングというわけだ。数年前のファッションウィーク福岡でもお披露目された「着こなしを360度で確認できるシステム」も、ジョアは導入。バイヤーは服のフォルムを正面や斜だけでなく、真横や真後ろまでの見ることができる。
ジョアには伊藤忠商事も出資しており、世界中のコレクションとも連携を進める。10月に日本で開催予定の楽天ファッションウィークでも、参加ブランドをサポートするという。さらにリアルなショーや展示会をオンラインで行うサービスも登場した。見本市サイトをPCで見ながらオンライン上でオーダーシートの作成までできるものだ。特別定額給付金の申請のように成り済ましやシステムダウンが起こるわけではないだろうから、バイヤーにとっては安心できる。
ただ、どうなのだろう。ネット上で商品を見て、仕入れることが可能になると、消費者のネットショッピングと同様に「ポチッ」てしまうケースが多くなりはしないか。バイヤーの悪癖である感覚や見た目だけによる衝動的な仕入れに陥ってしまう懸念だ。バイヤーの仕事の基本はデジタル時代でも変わらない。月ごとの品揃え計画の中で売り筋を決め、その商品を販売する仕掛けを考えて、売場のゾーニングから商品の編集、演出、販促までを行うことである。
筆者が知る有能なバイヤーさんは、以下のようなことを徹底していた。必ず仕入れのチェックリストを持ち、アイテムのウエイトバランスを崩さず、自店の販売計画に即した納期確認で発注し、1型あたりの発注量をオーバーせず、追加発注枠を残し、売上げ100%=仕入れ100%ではないこと等々。今でもバイイングの基本ではないだろうか。
ネット画像だけを見て思いつきで仕入れてしまうと、シーズンの中で何を軸に品揃えしていくかが不明確になっていく恐れもある。現物(生地を含め)を見てないと、熟考できない面もあるからだ。仕入れには自分、外部、社内、社外という4つの情報ルートを持った上で、品揃えのバランスを考えることが重要であり、それはデジタル時代でも決して疎かにしてはならないのである。
中間業者を無くせば価格は下がるのか?
もっとも、こうしたシステムが進んでいくと、アパレルブランドが直接消費者に販売する=D2C(Direct to Consumer)が浸透するのも時間の問題だろう。そうなると、卸を担う商社やインポーター、さらに小売店すら必要でなくなってしまうのだろうか。数々の海外ブランドを日本に定着させた伊藤忠商事がホールセールサイトのジョアに投資したのは、そうした危機感の表れかもしれない。果たして卸や小売りは必要でなくなるのか。
アパレルが消費者に直接販売するD2Cは、需要と供給のギャップがなく、中抜きでコストが抑えられ、商品の廃棄もないからサスティナブルにも貢献する。でも、本当にそうなのだろうか。D2Cであっても、アパレル側は在庫を抱えなくてはならない。それをお客に購入してもらえなければ、どうしてもロスは出る。廃棄が完全になくなるわけではない。
在庫を抱えず受給ギャップをなくすには、完全受注生産にせざるを得ない。しかし、お客さんが欲しい時に商品がなければ、売り逃すこともある。しかも、オーダースーツなんかで行われるC2M(Customer to Manufactory)は、既存のパターンを利用するもので、デザインまでお客の自由になるというものではない。完全オリジナルではないことを商品を購入する側のお客がどこまで理解しているかである。
また、アパレルブランドから直接消費者に販売すれば、理論上は間に卸や小売りが介在しないから中間コストが抑えられて、販売価格が安くなる。しかし、米国ですでに行われているD2Cでは、中間業者がいないにも関わらず、そのメリットをお客が受けることはできてない。結局、ベンチャービジネスであるため、投資家から資金が流れるマネーゲームの対象になっている過ぎず、まだまだ消費者還元には程遠いのだ。結局はラグジュアリーブランドと同じく、作る側にいるものが儲けたいことには変わりないようである。
いろんな意味で、コロナ禍はアパレルビジネスの弱点を突き、ある企業は破綻に追い込まれ、ある企業は変革を余儀なくされた。要は変わるべき部分と残していく部分のバランスを取りながら、いかに時代の変化に即応するか。まずはデザイナー側が口火を切ったことは、ビジネス側も頭を切り替えるべきだと言うことに他ならない。永遠に成長が続くことはないのだから。