HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

空飛ぶ素材を活かす。

2023-07-19 07:28:12 | Weblog
 政府が防衛装備移転三原則の運用指針の見直しに向け、自民、公明の両党で取りまとめた報告書が明らかになった。現行の三原則は、防衛装備品を移転する目的に「平和貢献・国際協力」「同盟国である米国及びそれ以外の諸国との安全保障・防衛分野における協力強化」などがあり、紛争当事国への装備提供は禁じるというものだった。




 日本の軍事支出は2022年分の対GDP比で、わずか1.08%に止まる。他国ではサウジアラビアが7.42%、ロシアが4.06%、米国が3.45%、韓国でも2.72%にも及ぶから、日本の経済力を考えるとそれほど潤沢ではない。軍事費の世界ランキングは米国が8769億ドル、中国が2920億ドルで第2位。ついでロシア(864億ドル)、インド(814億ドル)、サウジアラビア(780億ドル)と続き、日本は460億ドルで第10位だ。突出する米国は別にしても軍事力の増強を図る中国を見ると、日本は軍事費というか、防衛費がそれほど高いとは思えない。

 だからと言って、万一の有事に備えて「防衛費を増額するために増税しろ」「国民に負担をかけないように国債で賄え」というのはあまりに短絡的で早計だ。増税は先に課税すべき対象があり、税外収入の活用や防衛費内訳の組み替えなど、歳出改革を考えていかなければならない。また、国債は基本的に港湾や橋梁、道路など長期的に利用できるインフラ整備、地震や豪雨の災害から復興する公共事業のために発行するもので、必ず償還しなければならない。

 日本は平和憲法の元、専守防衛という「国防」に徹する上で、防衛力は仮想敵国の軍事力と相対的に考えたものになる。そのためには対象国の兵器の進化に合わせ、日本の国家防衛戦略を考えながら、兵器を「更新」していかなければならない。また、実弾は訓練で使えば消費するし、兵器は常にアップデートしていくから、インフラのように長期間に渡って使い続けられるわけではない。つまり、償還を必要とする国債には馴染まないのである。



 そこで、防衛装備移転三原則の運用見直しである。まず、日本が英国やイタリアと共同開発する次期戦闘機だ。現行の防衛装備移転三原則に則れば、これは日本から第三国に輸出できない。それを原案では「わが国からも直接移転できる方向で議論すべきだ」と明記した。併せて「戦闘機は殺傷兵器の最たるもので、移転して良い理由や管理体制を含め、国民が納得できる説明が必要だ」との意見も付け加えた。

 まずはG7の両国と共同開発すれば、防衛装備品の共有ネットワークを構築でき、安全保障上の協力が強まって日本の抑止力を強化できる。もっとも、開発費は三国共同でも莫大になるから、第三国への輸出を可能にすることは、国民の税負担を低減することにつながる。第三国も米国の兵器がいくら優秀でも、そこまでのスペックを必要としない国はあるだろうし、価格があまりに高額なら購入にも二の足を踏む。そこが日本が防衛・安全保障のビジネスに参入できるチャンスでもあるのだ。



 次に戦闘機の中古エンジンといった部品の提供も認めた。これは航空自衛隊で不用になるF15のエンジンを想定したものだ。空自はF15を200機以上保有し、価格は1機100億円以上と言われる。1977年の配備から時間が経過しているが、これまでに投資した莫大なコストの回収は至上命題である。同エンジンは他国が保有するF15はもちろん、ウクライナに供与されるF16でも活用できる。F15はイスラエルやサウジアラビアでは現役だし、F16はインドネシアが配備しており、中古エンジンの供給先になるかもしれない。

 平和主義者や反戦活動家は武器というだけでアレルギーを起こす。彼らは火薬の材料ですら兵器開発に関わるなら、輸出に反対するだろう。政府は三原則の運用指針では安全保障協力のある国に「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の5分野で輸出を認める。だが、5分野に該当すれば、「殺傷能力のある武器を搭載していても輸出は可能」と大きく踏み出した。でないと、戦闘機に使われているなら、リベット1本でも輸出できない理屈になるからだ。

 先日、国会で自衛隊の高機動車がロシア軍に払い下げられていると、日本維新の会の猪瀬直樹参議院議員が追及した。まあ、自衛隊車両の廃棄処分の方法が杜撰だとか、廃棄車両がロシアの中古車事業者を通じてロシア軍に流れたことは経済制裁を回避しているので問題だが、見方を変えればそれだけ自衛隊の車両が償却期間を過ぎても十分に使えるということになる。

 自衛隊では戦闘機もきちんとメンテナンスがされているだろうから、更新で「不要なった部品」がリサイクルできるのであれば、輸出の対象に認めてもいいのではないか。輸出によって外貨を獲得できれば、それを防衛予算に充当することもできるはずだ。


航空機の部品をアップサイクル

 では、民間の飛行機では部品の輸出やリサイクルは行われているのだろうか。先日、こんなニュースが配信された。「JALとカリモク家具 航空機の部品を再利用」。JAL(日本航空)とカリモク家具が東京ビッグサイトで6月に開催された「インテリアライフスタイル展」で、「アップサイクリング・エアラインJAL-カリモク」を特別展示した。




 これらは解体した航空機「ボーイング777」のパーツを使用し、7人のデザイナーのアイデアをベースにカリモクが木製製品を製作した。会場には機体の金属を使った木製スツールや窓を利用したボックスなどが並んだ。JAL側はカリモクと連携することで、より多くの人にアップサイクルの価値を提供していくという。

 航空会社は保有する機体を更新する時、古い機体を諸外国に払い下げる。だが、ボーイング777は、国内路線では離着陸を短時間で繰り返すことから機体への疲労が激しく、他社への転売もできなかった。JALとしてはいくら機体費用が償却済みとは言え、地球環境に負荷をかけるお払い箱をそのまま放置できない。そのため、同社は機体を点検整備するJALエンジニアリングと商事流通のJALUXの3社で、退役となったボーイング777の航空機部品のアップサイクルに取り組み始めている。

 同機は初めて日本で解体された。リサイクルに回せる金属やプラスチック以外は、航空ファン向けにパーツを販売してきたほか、革張りシートをトートバッグにアップサイクルしていた。その他の備品も何とかできないか。そこで今回はカリモクとタッグを組み、木製製品の試作品を製作したわけだ。機体のパーツは求めるのが航空ファンに限定されがちだが、アップサイクルすれば別の市場も開拓できるかもしれない。



 一方、交通運輸関連では、これまでにもいろんな部材がアップサイクルされている。代表的なものでは「フライターグ」のバッグがある。こちらはトラックに利用されている「幌」を再利用したものになる。その調達から解体、洗浄、デザイン、仕上げまでのシステムを確立するには、様々な苦労もあったようだ。例えば、幌の調達先はトラックの運転手や運送業者だが、あまりに広範囲に点在するため、仕入れに奔走しなければならなかった。

 また、排気ガスなどで汚れた幌を解体する作業も一苦労したという。さらにその中からバッグの素材に使える部分を見つけ出すにも目利きが必要になる。加えて、汚れを落とす洗浄も手間がかかる。単に汚れを落とすだけでなく、使い古された幌をバッグというファッションアイテムに足る風格のある素材にしたり、時間を経てキズや脱色した幌をヴィンテージ感覚に仕上げることも求められたからだ。

 もちろん、アップサイクルは単なるリサイクルとは違い、デザインなどの付加価値をプラスし、消費者にそれを欲しいと思わせる仕掛けが不可欠になる。フライターグが型とカッターを使い、幌の模様を最大限に活かした部分だけを切り取り、唯一無二の美しい製品を生み出すことを目指したのもそうだ。

 解体されたボーイング777の部品も、航空会社のスタッフから見れば、単なる使い古したものに過ぎない。それをアップサイクルさせるには、やはりデザイナーなどクリエーターの眼力や見立てが必要になる。今後のビジネス展開はどうすればいいか。例えば、いろんな企業が使い古した備品を一堂に展示し、造形作家やデザイナーなどを呼んでアップサイクルに活用できるものを探してもらうのはどうだろうか。

 環境省主導のプロジェクトなんかで実施し、JALとカリモクによる木製製品のようにデザイナーの作品も合わせてお披露目すればいい。制作者にとっては、素材という世界が限りなく広がるわけだし、創作意欲を掻き立てられると思う。無理やりリサイクルや環境問題に結びつけると、クリエーターにとってはどうしてもやりづらい面がでてくる。そうではなくて、世の中には使い古したものが五万とある。その中から新しい素材を見つけて、作品を創りませんか。そのくらいの低いハードルで行けばいいのではないかと思う。

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